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第七話 一日の終わり

 さてカップラーメンでも食べますか。あっ、箸が無い。ポチッ


 ピンポーン

「宅配便ですにゃー」


 座りながら食べたいし折りたたみの椅子ポチッ

「宅配便ですにゃー」


 爪楊枝ポチッ

「宅配便ですにゃ……」


 ティッシュポチッ

「宅配便にゃ……」


 ウーロン茶ポチッ

「にゃ……」


 ポチッにゃポチッにゃポチッにゃ



 **********



 一人の少女が泣き崩れていた。その目の前には二つの人影。


「殺される……」


 光が当たれば白く透き通るように見える美しい金髪と、エルフのような美貌に幼さをあわせ持ったその顔は涙で濡れていた。華奢な体と背丈の小ささが、幼さをさらに際立たていせる。


 少女は普通の人間とは少し違った。

 金髪からは黒い猫耳が、そしてお尻の部分からも黒い尻尾が生えている。


 宅急少女クロネは、今まさに死に直面していた。


 ――誰か助けて



 **********



「おい」

 俺は目の前で泣きべそをかいているクロネにデコピンをした。


「いだっ! なにするにゃ!」


「お前がメインヒロインみたいな語り口調で勝手に進めようとしたからだ!」

 容姿の表現は、まぁ認めたくないけど確かに合っている。でもクロネがメインヒロインは無いわ。なぜって? 圧倒的に胸が足りないからだよ、おっぱい。貧乳に興味は無いんだよね、おっぱい。


「こんなにイジメられてあたしがメインヒロインじゃなきゃやってられないにゃあああ!」


 地面に寝転がって、幼稚園児みたいに泣き始めた。


「ひぐっ、商品は、なるべく一度にまとめて、お願いしますにゃ、じゃないとあたし……あたし死んじゃうにゃあああああ! うわぁーん!」


「わ、悪かったって! 俺も少しからかいすぎたからごめんって!」


 三回目あたりの配達から露骨に嫌な顔をし始めたので、注文しまくってやった結果がこれだ。


 クロネ達の一族には『ゲート』という空間転移能力があり、昔から猫がフラッと現れたりいなくなったりするのはこの能力だそうだ。


 移動距離によって魔力の消耗が変わるらしく、この世界の近くに設置した支店でクロネが一日数回ほど本社から商品をまとめて取り寄せ、それから俺たちの所に配達する予定だった。でも俺がお急ぎ便を注文しまくって、本社からの遠距離転移を連発させたせいでこの有り様らしい。


「次はちゃんと必要な時にまとめて頼むから、とりあえずこれで機嫌直せよ」


 特に欲しいものも無くなって、お急ぎ便で適当に買った鰹節を渡す。


「なんにゃこれは? な、なんかおいしそうな匂いがするけど! 別にこんなのじゃ機嫌なんて直るはずないけど! あたしの酷使された体は癒されないけど! まあ今回はもう帰るにゃ。次からは気を付けてにゃ」


(こいつ漫画みたいな涎の垂らし方してんな)


「んじゃ、またよろしくにゃ」

 騒ぐだけ騒いで、速攻で帰りやがった。


 それにしても、空間転移とか魔力とかまで出てきたか。昨日から色々ありすぎて普通に受け入れちゃったけど、いよいよ異世界って感じがしてきたな。


「そういえばサクラはずっと静かだったけど、クロネの態度は失礼な部類には入らないのか? 俺はいつサクラの教育的指導が入るかドキドキしてたんだけど」


「はい。彼女の場合は失礼な態度というよりも、ただの馬鹿なので」


「ああ、馬鹿だよな」



 馬鹿なんです。



 さて、日も暮れてきたし今夜はこの場で寝ることにした。お気付きだろうか、様々なイベントが起きたせいで実はこっちの世界に来てからの移動距離はゼロだ。


 お急ぎ便いじめで無駄に物が充実してしまったが、食事に必要な物一式のほかにテントや寝袋もゲットした。今夜はこのままテントで寝て、朝になったら出発といこうじゃないか。


 普通なら夜に危険な動物が出たらどうしようとか、もしかして治安が悪ければ突然強盗がっていう心配するだろ? サクラが無双してくれる感がハンパ無いので爆睡余裕です。おやすみ。


「明日の朝ごはんは目玉焼きでお願いね」


「はいっ、おまかせください!」

 色々あったし無事ではないけど、今日くらいはこのセリフで締めさせてくれ。



『こうして俺の異世界生活一日目は、何事もなく無事に終了した』

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