第六話 一歩前へ
パンツとは、見せるものではなく見られるものである――
ユウヤ・カ・ワータ
あの後、メイドのたしなみとしてどれだけ動いてもパンツは見えないこと。そして顔を真っ赤にしながら、俺になら今すぐに見せてもいいという内容のことを言い出したので、この格言をサクラに送った。
自主的に見せるパンツに価値など無いのだよ。
どれだけ見えないように計算されていようとも、俺は自分の力で絶対にその向こう側に辿り着いてみせる。
「さて、聞きたいことも済んだしチュン吉はこのまま寝かせておこう。さっきの続きを教えてよ」
先程のサクラの話では、食料やこの周辺の事について何か案があるようだった。
「はい。ご主人様は今パソコンやネットを所持しています。この世界に合わせて変化をしている部分もありますが、まずは通販で食料を購入しネットで周辺の地図を検索してみてはいかがでしょうか」
ネット通販に関しては心当たりがある。
なんてこった。あとは家さえあれば今まで通りじゃないか。
「サクラ! ナイスだ!」
俺は親指をグッと立ててサクラに向ける。
「は、はいっ!」
少し照れながら俺の真似をして控えめに親指を立ててみせる。あらやだ可愛い。
「じゃあ先に地図から見るか」
そう言いながら、倒れたチュン吉を背もたれにして二人で近くに腰を下ろす。そしていつも通りの操作で、まぶたに写るデスクトップ画面からブラウザーを起動する。ホームに設定していたのはお馴染みのグーグr……。
『gappoi』
おかしいな。ブラウザーを閉じて再び開く。
『gappoi』
(最初の文字しか合ってねえ)
ガッポイという互いの股間を掴み合う競技についてはあえて触れないでおこう。この世界に合わせて変化をした部分だという事で割り切るしかない。
そして地図を検索したら出てきました。ガッポイマップ。
どうやらここは大陸の東側に位置するらしい。小さな集落がいくつもあり、中心にはめちゃくちゃ大きな街? 国? があった。見たこともない文字で色々書かれているけど読めない。他にも海を越えて大陸が何個かあるけど、俺がいる大陸以外は暗くて見えなくなっている。
「中心までここからだいたい百キロ先か。とりあえず一番大きい所に向かって行って、途中で人がいる場所があったら寄り道していこう」
次に、ネット通販サイト『gamazon』を開いた。手付かずのカップラーメンを食べるために、ガスコンロ、水、鍋、移動に便利なリュックを買い物かごに入れて注文確定画面へと進む。
「さすがに住所を入力する画面は無いな。あとは配達時間……あ、お急ぎ便とかあるじゃん! とりあえず早い方がいいしこれで確定っと」
ピンポーン
「宅配便でーすにゃー」
お急ぎすぎだろ。つーかこのドアも宅配便の猫耳娘もどこから現れるんだよ……。
ガタン!!
ほんの一瞬考え込んで黙っていたら、ポストには『不在票』と書かれた紙が――
「不在の判断はえぇよオイ!!!」
急いでドアを開けると、先程の猫耳娘が帰る途中だった。
「にゃはは、返事が無かったからつい」
ほんの二、三秒だろうが!
荷物を受け取り、サインを書きながら少し質問をしてみる事にした。
「ところで、このドアってどこに繋がってるの?」
「それはもちろん、『クロネとヤマトの宅急便』クロネ支店にゃ」
「クロネと、ヤマト?」
おいおいまたキワドイ名前のやつきたな。
「そうにゃ! あたしがクロネで、パピーの名前がヤマトっていうにゃ。昔パピーが働かないでヒモ生活をしていたらマミーが家を出て行っちゃって、帰って来てもらうために二人で始めた会社にゃ。今はかなり大きい会社になってきたし、マミーが帰ってくるのも時間の問題なのにゃー」
地味に重い話だった。
「それでめちゃくちゃ遠い所に配達先が出来たっていうから、新規開拓のためにあたしが初めて支店を持って全部一人で担当する事になったんだにゃ! 支店長様と呼んでくれたまえ、にゃふふふ」
「ふーん、じゃあまた色々頼むと思うからこれからもよろしくなクロネ」
「支店ちょ……。まあいいにゃ! 記念すべきお客様第一号だしあたしも優しくしてあげるのにゃ。じゃあこれから他にもたくさん注文を取ってガッポリ儲けなきゃいけないからもう帰るのにゃ」
あたしは忙しいの。そう言ってドアの向こうに消えていった。俺は受け取った荷物を持ってサクラの方を見る。
「あいつ今、お客様第一号って……」
「はい、この世界ではご主人様以外にネットを使える人がいないので今後も二号は現れません」
たぶんだけど、あいつ馬鹿だよな。