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第五話 音速の壁

 さて、現状が少しだけ理解できた所で、今後の方針を決めようと思う。


 作戦会議を行うメンバーは『俺の言うことは何でも肯定。何があろうと一生ついていきますでお馴染み、メイドのサクラ』、『会話ができないスズメのチュン吉』そして最後に俺を含めた三名だ。よし、全部俺が決めるしかない。


「仲間が増えたところでこれからすることは変わらないな。食糧や水分の確保と、町や村を探す。とりあえず室内でゆっくり寝たいし。てかこれって元の世界に帰れないの?」


 この世界に俺を連れてきた本人に聞いてみる。


「事象改変は、世界中にネットワークがつながった状態で初めて可能になります。いまこの世界でパソコンを所持し、インターネットを使用できるのはご主人様だけですので、現状元の世界に戻ることは不可能です。仮に可能になったとしても成功する確率はやはり数パーセントです」

「そして食料や周辺の状況についてですが、私からお伝えしたい事があります。ですが、その前に少しだけよろしいでしょうか」


 サクラはチュン吉の近くへと歩いていく。

 メイドにしておくにはもったいない程とても優雅で無駄のない足取りのまま、チュン吉まであと三歩。


 (いやいや近いから。まさか俺にしたみたいに抱きつくつもりじゃ……)


 二歩


 一歩



 ドゴオォッ!!!


 とてつもない爆音と共に、チュン吉の鳩尾みぞおちに俺とは比較にならない威力のこぶしがめり込む。しかも今、戦闘機とかが音速飛行する時に発生する円錐えんすい状の雲がサクラの手首を中心に発生してたよな。衝撃で一瞬背景が歪んだぞ。


 あれやべぇやつだ。


 なんの躊躇ちゅうちょもなくノーモーションから放たれた一撃に、チュン吉は理解する隙も無く口からよだれを撒き散らして倒れる。そして、サクラは倒れたチュン吉の顔をその綺麗な足で踏み付けた。直前の異常な威力のボディブローさえ無ければ、我々の業界ではご褒美と呼ばれる行為だ。


「――クソチキン野郎。ご主人様に傷を付けて生きていられると思うの?」


ミシミシとチュン吉の骨が軋む音がする。


「――殺すぞ」


 さっきまでの感情表現豊かな可愛いサクラちゃんはどうしたの! 冷徹な殺戮さつりくマシーンみたいな目をして少しずつ足に力を込めないで!


 俺のこの擦り傷が原因で、たった今一つの尊い命が消えようとしていた。


「ちょ、ちょっと待てーい! こんな傷すぐ治るし大丈夫だから落ち着いて!? チュン吉は仲間なの! わかる? なーかーま! ほら言ってごらん、なーかーま!」


 こんな場所で突然殺戮さつりくショーなんて始められたら困る。それにチュン吉には聞きたい事があるので、絶対に死なせるわけにはいかない。


「傷の大小が問題ではありません、ご主人様に手を出した時点で殺します。敵意を向けても殺します。失礼な態度を取っても殺します。」


 うわぁ……。


「しかし、大事なお友達だということなので私もちゃんと手加減はしました。今回はただの警告です。ふふっ、これ以上するつもりは無いのでご安心ください」


 今はその可愛い笑顔が怖いっす。しかも手加減してこれかよ。


 解放されたチュン吉の元に俺は駆け寄る。顔は涎と涙にまみれて今にも気を失いそうだが、もう少し耐えてほしい。俺は今すぐにでも、チュン吉に確認しなくてはならないことがある。


「チュン吉っ! しっかりしろ! 頼むあと少しだけだ!」


「チュ、チュン……」


 必死に意識を保ち、俺の方に顔を向ける。



「パンツは! 踏まれた時にパンツは見えたか!? 何色だった!?」



 チュン吉は最後の力を振り絞り、なんとか首を横に振ってそのまま意識を失った。

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