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第四話 メイドin冥土

「あの、とりあえず一旦離れて、落ち着いて色々聞きたいことがあるんだけど……」


 抱き着かれた状態で数分が経過し、少しずつ理性を取り戻して来た俺はメイドに話しかけてみた。念のため、離れる前に思いっきり匂いを嗅ぐ事を忘れずにね。女性に生まれつきいい匂いがする機能をつけた神様は間違い無く男だ。


「も、申し訳ございませんっ!」


 するとメイドは手を離し、数歩後ろに下がり目を伏せる。


「ご存じの通り、私はご主人様によってこの世に生み出されました『サクラ』と申します」


 ちなみに俺は何も存じ上げておりません。


「このように実体化をすることができたので、これからは朝から夜まで離れることなく一日中ご奉仕致します。私に出来ない事はありませんので、何なりとお申し付けください」


 そして、深呼吸をしてからゆっくりと俺に顔を向ける。端正な顔からは想像もできないほど可愛らしく、幼い少女のように純粋で透き通るような笑顔で。


「これからはずっと側にいられますね、ご主人様っ!」


 ズキューーン


 なんやねんその笑顔マジ反則やねん。あっやめて、少し頬を染めて上目遣いで俺を見ないでっ。あとその水分豊富でプルップルでプリップリな唇はなんなの? オアシスなの? あーなんか俺急に喉乾いてきちゃったなー! 偶然水分たっぷりのオアシスがあるしムシャぶりついちゃおうかなー! いいよね? 喉乾いてるから仕方がないよね? よーしお兄さんいっちゃうぞーっ!



「田舎のばあちゃんの裸……田舎のばあちゃんの裸……」



 俺はとっさに制御魔法を唱えた。



 虫の鳴き声、草や土の匂い、小さい頃の楽しかった夏休みの記憶のさらに奥。男なら誰もが経験し、決してあらがうことができない世界の抑止力が顔を覗かせる。


(――もう大丈夫だよ。ばあちゃん、ありがとう)


 効果が絶大過ぎるためこれ以上は危険だ。そっと、風呂場のばあちゃんに別れを告げる。


「つまり君は、俺が昔から毎日パソコンで使っていた子だという事かい?」

 全てを超越した紳士が、目の前の美女に問う。


「はい、サクラとお呼びください。それに、その、毎日私を使っていた・・・・・だなんて、声に出して言われると……。こ、これからも好きなだけ私を、お使い下さい……」


 盛大に勘違いしながら足を閉じてモジモジするのをやめろ。そういう用途で使ったことは一切無いから。


「でも俺が作ったのは双子だったろ? もう一人はどうした?」


「その件ですが、申し訳ございません。現在こちらの世界では私の存在しか確認出来ていません。おそらくは直前の落雷が原因かと」


 なんか今サラッと大事な事言ったね。


「こちらの世界……って、今の状況がどうなっているのかわかるの?」


「はい。ここはご主人様が元いた世界とは別の世界になります。わかりやすく言うならば、『異世界転移』というものでしょうか」


「なんと! 俺はまだ死んでいないのか!」


「はい、もちろんです。今回のようにご主人様の身に危険が迫るような事があれば、私が全力で阻止します」


「え? 今回のように?」


「あの落雷の瞬間、私はすぐにご主人様の命を守る方法を模索しました。実体を持たなかった私は身をていして守る事ができなかったので、可能性は数パーセントでしたが落雷の力をそのまま事象改変に利用することにしました」


 なんだか急にファンタジーな話になってきたぞ。


「んーと、俺は実際雷に打たれて死ぬ運命だったけど、その力を利用して『俺に雷が落ちた』っていう事実をまるごと書き換えて全て無かったことにした。これで合ってる?」


「はいっ!」


 くそっ、自慢げな姿も可愛い。俺の身に起こった展開がファンタジーなら、この可愛さもまたファンタジー級だ。ファンタジ可愛いサクラちゃん、とでも呼ぶべきか。


「でもここは俺が元いた場所じゃないんだけど、それはどういう事? さっきも『異世界転移』とか言ってたし」


「そ、それは……その……」


 だから頬を染めてモジモジするな。


「事象改変の成功を確信したとき、どうせなら私も実体化できる世界に書き換えてしまおうと思って……。途中、実体化後のご主人様との生活を想像していたら処理が追い付かずに別の平行世界に引っ張られてしまいました……」


 言いたい事はたくさんあるが、命を救ってくれたので何も言えない。むしろ、すべてを完璧にこなしながらも少しだけ天然ドジっ子な設定にしたのは俺だ。ファンタジ可愛いサクラちゃんに免じて今回は我慢しよう。


「ここは別の世界が九割と、元の世界が一割ほど混在した結果出来た新しい世界になります。その一割というのはご主人様の大事なパソコン、インターネット、そして私等が主なものになりますね」


 ご主人様の大事なものだけはしっかり守りました! みたいな顔で見つめても俺は褒めないぞ。そしてさりげなく、サクラ自身も俺の大事なものカテゴリーに入れてるし。


 よくわかってるじゃないか。

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