第一話 スズメがチュン
――チュンチュン
俺としたことがうっかり寝落ちして、ハイパー朝チュンタイムに突入してしまったようだぜ。
――チュンチュクチュン
あれ? なんかスズメのわりにすごく良い声……ってか近くない?
だんだん頭が覚めてきてゆっくり目を開けると、目の前に体長二メートル程の『スズメのような生き物』がいた。
「うわああぁぁぁーーーー!」
「ギギャーーーー!」
驚いて大声を出すと、その声にスズメも驚き突然羽を広げ飛び去っていく。周りに人の気配は無く、見渡す限りの大草原。
「なんじゃこりゃーーー!」
とりあえず、ついでに今の気持ちも大声で叫んでおく。
どこを見ても草、草、草、チュン、草
「え、チュン?」
「うわああぁぁぁーーーー!」
「ギギャーーーー!」
先程と同じ流れを繰り返し、今度こそスズメは遠くへ飛び去っていった。
きゃ〜スズメ可愛ぃ〜とか言っているやつがいたら、この場に連れて来て見せてやりたいわ。思い出してみろよあの無機質で大きな黒い目を。あれは平気で人を殺す目だ。
とにかく、今の状況がまったく理解できないので、昨日の出来事を順番に思い出していくことにする。
「えーと、まず家に帰ってパソコンを起動して、急に近くに雷が落ちて……パソ……パソコンが、壊れて……」
それで悔しくて外に出て叫んでいたら、体がピリッとして雷が俺に落ちてきて……。
「あれ? 俺死んでないっすか?」
家で雷の直撃をくらって、目覚めると大草原のど真ん中にいる理由がそれ以外に思い浮かばず、わりとすんなり現状を受け入れる。
ということは、次の問題はここが天国なのか地獄なのかってことよね。
「この大草原は天国っぽいけどな」
あの辺で可愛い天使ちゃん達が菜の花で冠とか作ってキャッキャしてそう。だがしかし忘れちゃいけない、さっきの猛獣は完全に地獄を生き抜いてきた目をしていた。日常の中に当たり前のように死がある世界。
――そう、俺にはわかる。
その後も色々考えてみたけど、結局一人では何も出来ないし今何をしたらいいかもわからない。生きていた頃の時間だと今は午後くらいなのか、お腹も空いてきて泣きそうになる。
「いやいや、死んでるのにお腹が空くってどういうことよ」
ハッ! まさか食べたいのに食べ物が無い空腹地獄!
俺が空腹で泣きながらその辺に生えてる草を食べるのを、鬼たちが上から笑って見ているんだ! まさに外道! くそっ、マヨネーズさえあればおいしく食べてみせるのに!
とか考えていると、突然目の前にドアが現れチャイムが鳴る。
ピンポーン
「あっ、はーい!」
もうどうにでもなーれの精神だった俺は、条件反射でいつものように返事をしてドアを開ける。
「宅配便ですにゃー」
すると、何もなかったはずのドアの向こう側から、金髪ショートカットの猫耳娘がダンボールに包まれた荷物を持って現れた。
「ここにハンコをお願いしますにゃ」
「あっ、サインでもいいですか?」
「いいにゃ」
川田……っと。
「えーとこちらがコーラと、カップラーメンと、ポテチですにゃ」
「はい、ありがとうございました」
「いえいえ、またよろしくお願いしますにゃー」
バタン
ドアの向こうに金髪猫耳娘が入ると、ドアがスッと消えた。
ねえ、ここどこ?