第十四話 冒険者生活、始めました
「では、『ネット戦士』のユウヤさんと『メイド』のサクラさんで登録しますよ? 本当にいいんですね?」
「大丈夫だ、問題無い」
「はい、お願いします」
こうして、俺とサクラの冒険者登録は完了した。
「仕事はそちらの掲示板から自分で選ぶものと、緊急や重要な仕事で組合から冒険者へ依頼するものと二種類あります。組合が人を選ぶ基準は、実力もそうですが主に踏破した階層で選びます。難易度や報酬が高いものは現在最前線の五十階層をクリアした人を優先します。あとは、依頼者から職種の指定があった場合は先ほどの職種を参考に……その辺はユウヤさん達にはあまり関係なさそうですね」
誰もネット戦士とかメイドという未知の領域を雇わないだろうってことか。馬鹿め、ネットがあれば我々ネット戦士は無敵だというのに。
「掲示板の仕事は、張り紙の下の方に適正階層が書いているので参考にしてください。最後に、基本的に冒険者同士の争いで怪我人や死人が出ても自己責任ですが、無意味に他人に危害を加えると組合が全冒険者に討伐依頼を出すので注意してください。では、よい冒険者生活を!」
「よし、次は作戦会議だ!」
そう言って、アルフレッドさんに空いているテーブルに連れていかれて全員で席に着く。
「ユウヤ、サクラ。せっかくだからこのままの塔に行って適当に最初の仕事をこなしちまおうと思う。そこで、お前達の『ネット戦士』と『メイド』について戦い方を教えてくれ。何が出来て何が出来ないかってことだな。俺たちのはさっき説明した通りだ」
アルフレッドさんが前衛で大剣を使って攻撃、ディーンさんが壁役、リディアさんが索敵や罠解除と後方支援だったかな。
「えーと、俺はインターネットを使ってなんでも出来ます。調べ物も得意だし、あと最近魔法もインストールしました」
「もう、アナタ魔法使いだったのね」
だったら『魔法使い』で登録しなさいよと言いたげなリディアさん。そんな事言うならリディアさんだって『乳神様』で登録しろよな。
「いんたあねっと? いんすとぉる? よくわからんけど魔法はいいな! 俺たちの所にも『大賢者』とか大げさな職種だけど腕は確かな魔法使いがいたんだが、色々あってこの前抜けちまってな。これならバランスがいいからパーティーの基礎も教えられそうだ」
「使えると言ってもまだそんなに種類は使いこなせないですけどね、攻撃ならなんとか」
「魔法はなぁ……。昔いたそいつが、『魔法は粘土のようなもの。魔力を込めて形を作り、それを言葉の力、言霊で発現させる』とか言ってたけど、俺には何のことやらさっぱりだったぜ」
「だからアンタとディーンみたいな前衛の筋肉馬鹿は補助魔法しか使えないのよ」
補助魔法とは、この前の『ウインドバースト』みたいに行動補助の他に、相手の行動阻害や武器に対する効果付与のことだな。ウィッキーペディアで見た。
ちなみに魔法は粘土という意味もなんとなくわかる。この世界の魔法に形はなく、用途に応じて魔力を込めて形を練って言葉で発動させる。もちろん無詠唱でも使えるけど、やっぱり言葉にした方が魔法の形をイメージしやすいし精度も威力も高い。槍状にして貫通力を高める〇〇ランスや、広範囲に礫をバラまく〇〇バレット系がよく使われている。ウィッキーペディアで見た。
「じゃあユウヤは後衛でリディアの隣だな。あまりこいつの胸ばっかり見て怪我すんなよ!」
「えへへ」
バレてる? いや、まだ偶然冗談で言った可能性もあるな。とりあえず大丈夫だろう。
「サクラは何ができるんだ?」
「魔法以外の全てです。前衛で戦うこともできますが、後方支援もできます。いえ、むしろ今気付きましたがそちらの方が得意かもしれません」
そう言って椅子ごと俺の近くに寄ってくる。
「あーわかったわかった、お前はユウヤの隣にいてくれ。ったく、若いってのはいいねえ! どうだリディア、俺達もそろそろ……いでででで!」
リディアさんのお尻を撫でようとした手をつねられる。
「ゴホン、じゃあ気を取り直して、俺達もいるし一度に二つくらい仕事を受けていこう。最初に受ける仕事は薬草の採取とゴブリンの魔石だったかな。そこの窓口で名前と職種を言って仕事を受けてこい。持ち物に不足は無いか? 無ければそのまま出発だ!」
こうして、俺たちは準備万端でクリスタルがある広場までやってきた。さすがにチュン吉はきびしいという事だったので、アルフレッドさんの知り合いの所にお願いして預けてきた。
クリスタルが照らす範囲に踏み込むと、目の前に半透明のウインドウが現れる。選べる行先は、二階のほかに十一階や二十一階といった他の階層のエデンもある。
「他のエデンはどんな感じなんですか?」
「町の作りや配置はほとんど変わらないな。もちろん上の方が敵は強いから、装備品もそうだが色々物価が高い。あとここにはいない亜人種なんかもチラホラ見かけるぜ」
フ、ファンタジーーーッ! 色白でおとなしい従順なエルフとか、色黒でクッッソエロいダークエルフとか! ぜひ視姦してえ! 直接手は出せないけど目で見て想像するのは個人の自由だもんね! 乳! 尻! 太もも!
「私の胸元を見るときと同じ目になっているけど何を考えているのかしら? アナタたちの格好だと絶対他の冒険者にからまれるから、順番に実力つけて上っていきなさい」
しょぼん。
「では駆け出し冒険者諸君、さっそく行こうぜ! 俺達先輩の話はしっかり聞くこと、勝手な行動はしない事、ちゃんと家に帰るまでがお仕事です! 以上、出発っ!」
小学生の遠足かよ。
浮かび上がったウインドウの二階を指で選択すると、白い光に包まれて周りが見えなくなっていく。
「うおーー! なんかわかんないけどすげーー!!」
初めて体験する感覚に興奮して思わず声が出る。そして白い光が収まると、そこは石に囲まれた薄暗い洞窟の中だった。洞窟と言ってもかなり大きい広場のような場所で、周りには俺達と同じように大勢の冒険者達がいた。他には食料や薬草等を売っている出店もたくさんあって花見のような賑わい方をしている。うひょーっ!
「お祭りみたいでワクワクするだろ、最前線の方はもっと賑わってるんだぜ? だがこの中の誰かは今日命を落とすかもしれないし、明日は別の誰かなのかもしれない。それでもこうやって毎日を全力で楽しんで生きている冒険者の連中が俺は好きなんだ。だからユウヤ、サクラ。思い切り楽しんだり悲しんだりした後はしっかり気持ちを切り替えて、これから先絶対に死んだりするんじゃねえぞ」
「「はい」」
俺とサクラはお互いに視線を交わした。考ている事は同じだろう。死ぬつもりもないし死なせるつもりもない。
「まあ二階に出てくるザコなんかこのアルフレッド様にかかればチョロイもんなんだけどな! うんこしてる途中に襲われても余裕で倒せるぜウハハハハ!」
少しかっこいいと思ったらこれだよ。緩んだ気持ちを一気に引き締められ、最後にこんなことを言われて適度に肩の力が抜けた俺は歩き出す。
「そんな事言って、手にうんこがついても俺は水魔法使わないですからね。リディアさんに頼んでくださいよ」
「あら、私は『シーフ』だからあまり魔法が得意じゃないのよ? それに臭い男は好みじゃないの。ねぇサクラちゃん」
「わ、わわ私は、その、ご主人様がいくら臭くても、す、すすす好……」
「……ウス」
「おいディーン! お前は普段しゃべらないんだからこんな時くらい俺のフォローしろよ!」
半袖ハーフパンツの男とメイドを含んだ賑やかな五人組パーティーは、ダンジョンの中へと進んで行った。