第九話 エデン
巨大スズメ、メイド、そして半袖ハーパンでメイドを言葉責めして恍惚とした表情の男。頭のおかしな三人組と称された俺たちは結局というか、やはり村に入れてもらえなかった。
「ねーママ見てー! もふもふー!」
「もすもすー!」
「すみません……」
先ほどの女性が申し訳なさそうに言う視線の先には、チュン吉と遊ぶ二人の男の子。その隣には、おままごとで遊ぶサクラと三人の女の子。
「はいサクラおねーちゃん、ご飯ができまちたよ!」
「ありがとうございます。ハッ、この綺麗な緑色と新鮮な草の匂い……奥さんなかなかいい雑草を使っていますね!」
サクラはしっかりとお姉さんをしていた。意外というか、元々なんでもできる完璧メイドを自負していただけのことはある。
あの後大人の男達に囲まれて、怪しい人じゃないし武器とかも持っていないと必死に説明してようやく納得してくれた。僕悪い人間じゃないよプルプル。
それでも、ここは商店や宿泊施設があるわけでもないただの集落なので、申し訳ないけど突然見ず知らずの人を村に入れる事はできないと断られたのだ。
ダメなものは仕方がない。村の周りで休む程度なら構わないというので今後の予定を考えていたら、子供達が遊びたそうにこっちを見ていたので休憩ついでに遊ばせている。
女性は五人の子供の母親で、夫は村のリーダーのようなものらしい。いつもこの時間は村の周りで子供達を遊ばせているんだとか。
「あの子達と遊んでもらっているのに、泊めるどころか村へ入れることもできなくてすみません」
「そりゃあ急に俺達みたいなのが来たら誰だって怪しむさ。気にしてないから大丈夫ですよ、元々ただの寄り道だし」
「寄り道というと、行き先は中央のバベルですか?」
地名を言われてもまったくわからない。でも行き先は中央だし、適当に話を合わせて色々聞いてみることにした。
「実は俺達かなり遠くの田舎に住んでて、田舎のばーちゃんがビッグな男になりたかったら中央に行けって言うから目指してるんです。正直何があるのかもわからないし、この辺の地名とかも全部わからないんです教えてください」
「なんともまあ大雑把なおばあちゃんね……。説明をするにしても、まずどの程度までならわかりますか?」
「何一つわかりません」ドンッ
ボロがでないようにここは強気でいこう。
「そ、そうね、じゃあまずこのエデンという大陸のお話から。ここまで旅をしてきてお気付きだとは思いますが、エデンは平地が続き草木が生い繁るとても平和な大陸です。モンスターや魔物と呼ばれる人間を襲うようなものは一切現れません」
「地獄の使者の異名を持つ我が使徒、狂戦士チュン吉は?」
「あれはただのスズメです。人が生活する周りによく生息していて危害はありませんね。でもあのように人に懐くのは珍しいんですよ?」
どうやったんですか? と聞かれても、まさかよくいるただのスズメ程度と命のやり取りをしてギリギリ勝ったなんて、恥ずかしくて言えない。
「話が少し逸れてしまいましたね。ええと、そしてエデンの中心部一帯をバベル、もしくはバベルの塔と呼んでいます。なぜ平地なのに塔と呼ばれるかというと、ここは本来バベルの塔の第一階層と呼ばれる場所なんですよ。ちなみに中心部にあるクリスタルから第二階層へ行けるようになっています」
(ダ、ダンジョンキター!)
「言い伝えでは百階層まであると言われていて、二から九がつく階層は様々な魔物が現れ、十階層、二十階層などの節目には守護者と呼ばれる強力な魔物がいます」
(ボス的な立ち位置のやつだろ。おもしろそうだけど、俺死にたくないし痛いのも嫌だからな……)
「そして、一階層や十一階層などの一がつく階層はこのように平地が広がり魔物も現れません。最初に節目の階を踏破し、平地にたどり着いた一人の戦士が『まるで楽園のようだ』 と言ったことから、平地の階層はエデンと呼ばれるようになりました。現在は五十一階層の第五エデンまで解放しています」
「なるほど、俺のばーちゃんはこの事を言ってたのか」
「そうですね。地位や名声を求める者、レアアイテムや金銀財宝を求める者、ただ己の強さのみを求める者、様々な人達がバベルに集まり、共に上を目指しています」
だから中心部に行くにつれて人が密集する形になっていたのね。
「ここに住んでる人たちは?」
「エデンの人たちは大きく三種類に分かれていて、まず目的は様々ですが塔に出入りする人、次に塔には入らずに周りで商売を行う人。この人たちが主にバベルの中心に集まっています。最後に、私たちのように中心から離れて田舎で静かに暮らす人ですね。田舎で育ったあなた達のような若い人がバベルへ向かうのは良くあることです。それと同じように、結婚や病気など様々な理由でバベルから離れて暮らす人もいるのよ」
この子供達を見ていると、ダンジョンから離れて平和に暮らす親の気持ちもわかる気がするな。例えるなら、東京でバリバリ働く人と、ネットとパソコンがあれば田舎でもどこでもいいやって人の違いだ。たぶん。え、ちょっと例え違う? 不安になってきた。
「じゃあ、暗くなる前に泊る所を見つけたいからそろそろ行こうか」
「そうですね、今日はご主人様にゆっくりと寝てもらいたいですし。じゃあお姉ちゃんたちはもう出掛けるから、ちゃんとお父さんとお母さんの言うことを聞いてこれからも良い子でいてくださいね」
そしたらまた必ず会いに来ますから。笑顔でそう言いながら優しく子供たちの頭を撫でる。チュン吉は、ヤンチャ盛りの男の子二人を相手に毛がボッサボサになり疲れ果てていた。
「休憩と言いながら子供たちと遊んでもらいありがとうございました。もし次の機会があれば必ず私たちの家でお礼を致します。子供たちもこんなに懐いていますし、きっと夫も受け入れてくれるはずです」
「俺もこの辺のこととか色々教えてもらって助かりましたよ。次来るときは何かバベルでお土産でも買って遊びに来ますね!よし、出発するぞー」
いよいよこのエデンの中心、バベルの塔へ向けて俺たちは最後の道のりを進み始めた。