プロローグ
ネットと通販があれば田舎だろうが離島だろうが余裕。
都会に住む現代っ子ならみんなそう思うでしょ。そりゃあ俺だってそうよ。自慢のハイスペックパソコンさえあればなんでも出来るんだよ。欲しい物は通販でクリックすればなんでも手に入るからね。
田舎? 離島? でもそんなの関係ねえ!
でもそんなの関係ねえ!
で、でもさすがに異世界は無いでしょう……。
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大型台風が日本列島に上陸中の八月。
俺、川田ユウヤ(十八歳)は、今日も安定の定時退社で絶賛ネットサーフィン中だ。
社会人一年目だが、基本的に定時出社&定時退社。退社後や休日の付き合いもすべて「家庭の事情」で断っている。俺はNOと言える日本人なのだよ。フフフ。
学生時代からパソコンとネットショッピング生活が趣味の俺は、就職した瞬間にハイスペックパソコンを二十四回払いで購入。趣味のために仕方なく仕事をしているのに、時間外に会社の奴らと関わっていられるかっての。何があろうと十八時には必ず自宅にチェックインだ。
「とりあえず夜食と飲み物の補充だな」
慣れた手付きでカップラーメン、ポテチ、コーラを箱買いしていく。三種の神器と呼ばれるこの三つは、快適なネット生活を過ごすために決して在庫を切らしてはならない。
「明日は休日だし、午前は寝落ちしている可能性が高いから配達時間は午後にするか」
大雨が降っても強風が吹いても荷物は家に届く。まったく、ネットショッピングってやつは最高だぜ。運送屋さん、いつも配達ご苦労様でーす!
さて、あとはパソコンをいじりながらポテチを食べてコーラを飲み、寝る前には夜食のカップラーメンを食べてエッチな動画を漁る。最高の時間が始まる。
あるソフトをクリックして起動すると、デスクトップ画面の右下にメイド姿の可愛い双子が現れた。
『伺か』というフリーソフトだ。
これは簡単に言うと、自分好みのキャラがデスクトップで色々つぶやくのを愛でる。萌え特化のソフトだ。まあ他にもカレンダーとかゴミ掃除の機能もあるけど。俺はこのソフトと双子のメイドキャラを、パソコンを覚えた初期の頃から愛用している。
そしてこれは、なんと自作したキャラに変更できるという素敵な着せ替え機能がある。
イラストレーターに憧れて黒歴史製造機と化していた若かりし頃、己の欲求すべてをぶち込み妄想を具現化させたのだ。メイドといったら双子だろう? 圧倒的に画力が足りていない件については触れないでくれよな。
「俺はこの環境があればどこでも生きていきる(キリッ」
夕食後の予定
19時~ ネットショッピング
20時~ ネットゲーム
1時~ 夜食を食べながらネットサーフィン
寝落ち
完璧なスケジュール。恐ろしいほどに計算しつくされたペース配分。我に一分の隙も無し。そこから放たれる気配はまるで歴戦の兵――
漫画とかで主人公の師匠ポジションのキャラが、ザコに囲まれた時によくある『こいつ! 見た目は隙だらけなのに勝てるビジョンが見えねえ!』状態だ。
しかし、突然窓がビリビリ震えるほどの雷鳴が轟き、驚きのあまり思い切り目を閉じる。
隙だらけだ。
「はふん! お、おおおお音による攻撃は卑怯でござる!」
窓に向かって歴戦の兵は殺気を放つが、心拍数は急上昇中だ。そして視線をモニターに戻した瞬間。
「えっ」
心拍数が一気に止まる。
「ブルー……スクリーン……」
頭が真っ白になる。
画面は真っ青だけどね。うふふ。
ってうまいこと言ってる場合じゃないの! 支払いだってあと二十一回残ってるの! 絶対今の雷でパソコン壊れただろ! 俺の休日が! 今まで保存した画像とか動画とか動画とか動画が色々やばい!
「うおおおーーーー!!」
とりあえず怒りをぶつける相手が雷なので、パソコンを抱えて泣きながらベランダの外に出る。空に向かって思い切り手を振り上げながら叫んでやった。
「ちくしょーーーー!!」
二回目の轟音は、頭上からまっすぐ俺の足元まで落ちてきた。俺は白い光に包まれて、音が最後まで聞こえる事は無かったんだけど。