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あの空はどこまで続いているのだろうか?

冬の屋上は僕にとってとても都合がいい。

教室のざわめきから逃れられるから。


人付き合いが嫌いな訳じゃないんだ。

静かに過ごしたいだけなんだ。


僕は通学途中に買ったサンドウィッチをコーヒー牛乳で流し込むと、ベンチに横になった。


冬日和って言うんだろうか?

穏やかに晴れた冬の空、僕は静かに目を閉じた。


どれ位経っただろうか?

誰かの声が聞こえた。


「ねぇ、この空ってどこまで続いてると思う?」


声がかなり近いけど誰と話してるんだろう?

僕は目を開けた。


そこには僕のすぐ横でフェンスに手をかけて空を見上げる女の子がいた。


辺りを見回してみるが、僕と彼女以外誰もいない。

僕に聞いたんだろうか?


「聞いてる?ねぇ、空。この空はどこまで続いていると思う?」


やっぱり僕に話しかけていたらしい。

直ぐには気が付かなかったけど、彼女は同じクラスで、僕の斜め左の窓際に座ってる女の子だった。


僕らは面識こそあるものの、話した事は一度もない。

少し戸惑いつつも僕は答えた。


「世界の果てまで続いてるんじゃないかな?」


そう答えた僕に興味が湧いたのか、彼女は笑顔で振り返った。


「世界の果てってどこ?ブラジル辺り?そもそも世界の果てってあるのかな?地球は丸いでしょ?という事は世界の果てを目指したところで、永遠にグルグル終わりなく回り続けるだけで、そこにはたどり着けないんじゃないのかな?」


そんな事考えた事もなかった。

僕の中で空は空だし、青い・鈍色・夕焼け位の認識しかないからだ。


「僕みたいな万年赤点ギリギリな凡人には、その答えを出す事は出来ないよ、ごめんね。」


普段から当たり前と認識しているものでも、突き詰めて考えてみるととても哲学だ。


彼女は少し嬉しそうに笑った。

「私のこの質問に真面目に答えてくれたのは君で二人目だよ。大抵の人は、なんだコイツ?あぶね~とか言っていなくなるんだよね。だから結構クラスで私は浮いてるの。」


そう言えば僕も彼女の事、よく知らない。

斜め左の席って事位で、誰かと仲良く喋っている姿もあまり見ない。


そんな事を考えていたら、予鈴のチャイムが鳴った。

「あ、もうこんな時間!気持ちよく眠ってるとこ邪魔しちゃってゴメンね。楽しかった!ありがとう。」


そう言い残すと彼女は走って校舎の中に消えてった。

一体、何だったんだろうか?


ベンチから身体を起こすと、僕も教室に急いだ。


午後の授業を適当にやり過ごし、学校帰りに少し寄り道をして電車に乗り込む。

扉付近に立ち、窓から空を眺める。


昼と夕方の真ん中と表現すればいいのか?

バニラ・スカイって言う夕方にほど近い空。僕はこの空の色が大好きだ。


なんかで読んだけど、本来のバニラスカイは青色が強い感じ。

つまり、朝焼け空の方を指すみたいなんだけれど、そんな時間に僕が起きられるはずもなく見た事はないのだけど、知識としては知っていた。


なんだか今日は空ばかり見ているな。

普段は全然気にも留めないのに。


5つほど駅を過ぎ、僕は電車を降りると駐輪場から自転車で真っすぐ家に帰った。


次の日、僕は少し寝坊し遅刻ギリギリで教室に入ると、何人かの友達に挨拶して席に着いた。

ホームルームが終わり、一時限目は数学。


朝からとてもヘビーな授業だ。

取り敢えず昼まで頑張ろう。


窓の外を見ると今日も昨日と同じで冬日和。気持ちよく昼寝できそうだ。


そんな事を考えながら視線を黒板に戻そうとすると、左斜め前の席の彼女の事が気になった。

朝は余裕がなかったから気が付かなかったけど、しっかり学校に来ている。

そして彼女も僕と同じで窓の外、空を見ていた。


よっぽど空が好きらしい。

この空のどこに、彼女を魅了するだけの要素があるのだろうか?

僕は少し気になった。


昼休み、僕はいつもの様に屋上に出てサンドウィッチをコーヒー牛乳で流し込むとベンチに横になる。

雲一つない空。


意識して空を見ると、実はすごく興味深く感じる。

水の中にいるような錯覚すらも覚える。


そんな事を考えながら昼を過す。

別に待っていた訳じゃないのだが、彼女が現れる事はなかった。


午後の授業が始まる。

視線を彼女に向けると、やっぱり空を見ている。


何がそんなに面白いのだろうか?

やっぱり僕の様な凡人には理解できない様な何かがこの空にはあるんじゃないのだろうか?

空を見ていたら僕もその答えにたどり着けるのだろうか?


6時限目の授業は英語。

先生が窓の外を見つめ、授業に集中していない彼女に突然質問をする。


Stand up! Miss Aoyama!


Gurandmaというあだ名の先生はとてもご立腹の様子。

視線を黒板に戻した彼女はゆっくりと立ち上がる。


Where do you want to go?

グランマの質問に彼女が答える。


at the end of the sky

そう言うと彼女は着席し、視線をまた窓の外に移した。


その言葉を聞いた日から、僕の興味は空と彼女に向けられた。


彼女の視線はいつも遠くを見つめていた。

目の前の現実なんかよりも、遠くだけを見つめいた。


透明な瞳の中に一体何が映っているのだろうか?

けど、それは誰にもわからない、彼女だけの世界なんだと思う。


僕も彼女の瞳に映るその世界を見てみたい。

少しもやもやとしていた。


学校からの帰り道、親友と一緒に帰る。

僕は今日の英語の授業の話を切り出し、彼女の話をした。


「彼女、いつも授業聞いてないみたいだけど、突然の質問とかによくサラっと答えられるよね?僕だったら絶対無理だよ。」


そう言うと友達はこう答えた。


「お前知らないのか?青山ってかなりの才女だぞ!今度の期末の成績見てみろよ。いつも上位にいるぞ。」


知らなかった。

僕はそういう事にとても疎い。


誰だれが頭良くて~とか、誰だれが可愛くて~とか、そう言った事に全く興味がなかった。


一日平和に過ごせればいい。


だから僕は大勢の人達と行動を共にしない。

大勢と行動を共にすると、なんかしらの出来事に出くわす。


楽しい事もあるだろうけど、面倒な事だってある。

人と関わるうえで、それは必ずあるし、仕方のない事だ。でも出来るなら平穏に過ごしたいし、自らそのトラブルに片足を突っ込む必要もない。


結局のところ、僕は人付き合いが面倒なだけなのかもしれない。


でもそんな僕の興味を引いたもの。

彼女と空。


僕は友達に色々と彼女の事について尋ねた。

聞き出せた情報は少なかったが、少しづつ彼女の事がわかってきた。


「なぁ、そんなに青山の事聞いてどうしたんだ?」


僕はここ最近の出来事について色々と話してみた。

勿論、彼が僕の小学校からの大親友だから話したんであって、だれかれ構わず話してりなんてしない。


話を終えると、僕の話を真剣な表情で聞いてくれていた友達が急に笑顔になる。

「お前、それって青山の事が気になるって事だよ。」


確かにそうだ。

気になっているから話したんであって、それ以上でもそれ以下でもない。

そういうと友達は大笑い。


「ばか、気になってるって事は、お前が青山の事が好きって事じゃねーか!?へぇ、お前が青山をね~。お前にも春が来たな!頑張れよ!」


えっ?

突然頭をぶん殴られた気持ちになった。


僕が彼女を好き?

急に胸がドキドキしてきた。


ここ最近気になっていた事。

もやもやするこの気持ち。


僕は今日、それが恋だという事に始めた気が付いた。




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