初めてのケモノ世界3
「では、こちらで記入をお願いします。出来ましたら窓口へお持ちください」
そう言ってエナガが逞しい足のままスタスタと歩いて戻っていく。
「なぁ、ミク」
「はい、なんでしょう?あ、文字は全てカタカナで大丈夫です!
博識な方は漢字も書けるし読めますが、この世界の標準はカタカナですからね」
「へぇ〜カタカナでいいのか……
じゃなくて。さっきのエナガ?なんで足や手が生えてたの?」
「そちらですか!あれも人型変化の一種ですよ〜。鳥種の中でもエナガ族の方々は優秀で、ああやって変化して字が書けない方の手伝いや事務処理を得意とする方が多いんです!このジャポニの役所ではエナガ族の方が必ずと言っていいほど勤めていらっしゃいますよ!」
だから自分と同じ下位眷属と同等の地位を獲得してるそうな。
そういや人型になれることが眷属としての能力だったっけ。
「じゃあエナガは自力で一部を人型に出来るってことか。すげーなぁ」
「実際には上位進化による変化らしいですけど、すごいですよね!」
鳥としての進化のはずが腕や足に現れたの!?
進化って一体……全然鳥らしくないじゃん!
そんな雑談をしながら申込用紙を書いた。
ナマエ:ナツヤ スズカワ
セイベツ:オス
ネンレイ:17
シュゾク:ヒト
アダナ:
シュウハ: ニッコウ ○ゲッコウ
「あだ名ってあのあだ名だよなぁ……」
「記入されないのですか?」
「今まで呼ばれた事がないんだよ。ミクはどうしたんだ?」
「えっと、ワタシの本名がミケだと話しましたが、ミクがあだ名なんですよ。本当はあだ名指定しなかったんですが、ミクで呼ばれ慣れちゃったから再登録したんです」
あーあー!そういやそんな話だったなぁ。
そっか、ミクはあだ名として定着させたのか。
あだ名……
呼ばれたこと無いから、憧れはあるんだ。
でも、なんかこう、今更だと恥ずかしいって言うか。
「後ででも登録しなおせますよ?
でも、夏哉さんが呼ばれたい名があるなら、せっかくこの世界に来たんだし登録しませんか?」
「……うん、そうだな。よし!」
アダナ:カヤ
あだ名って短くするイメージがあるから、こう呼んでくれる親友が出来たらいいなって思ってたんだ。今まで出来た事ないから仕舞いこんでたんだ。
「カヤ……カヤさんですね!ワタシもこれからカヤさんって呼びます!」
「お、おぅ……よろしく」
いざ呼ばれると恥ずかしくてミクが見れなかった。
そんな俺の右腕にくっついてカヤさんカヤさんと言ってくれる。
やべぇ……マジで嬉しい。
その気持ちが無意識に現れたのか、気付いたら左手でミクの頭を撫で続けていた。なんか、その、顔を真っ赤にしてぽーっとしてるミクを見て慌てて手を引っ込めた。
名残惜しそうなミクの顔にくらっとしたけど、それを振り払うように
「よし!書けたから出しに行こうか!ほら、行くぞー!」
「あっ……はい!まずは獣民にならないとですよね!」
よし。ミクが使命を思い出してくれた!
こうして書類を提出して、俺は始めてこの世界の獣民になれた。
この後はトーキョを観光してみたい!
「どの辺りを見たいですか?」
そう言ってミクが地図を広げる。
「そうだなぁ……トーキョには高い塔はないの?」
「ありますよ!タワーオブトーキョという塔があります!」
微妙に英語が混じった名前だな。
ちょっと不安があるけど、せっかくだし観に行ってみよっか。
さっそく神殿を出て、歩いて塔を目指した。