初めてのケモノ世界2
「でも、そもそも今更だと思いますよ?」
「え?なんで?」
「だってここ、神殿内の舞台の中心ですから。特別な許可がないと立てないのです!ワタシは女神様へのご報告の際には各神殿にある舞台に上がらせて頂いてますから、注目されるのはいつもの事ですね!」
……ああ、世界で39人しかいない選ばれた眷族なんだっけ。
やたらと懐いてくるから、ミクがそんな凄い奴って感じじゃないんだよなぁ。
「じゃあ結局、俺もミク同様偉い人だって見られてるんだな?」
「はい!夏哉さんもワタシと一緒ですね!」
もう一度ぐるっと見回すと、確かに嫌な視線は感じない。目が合って怯えた人も、どちらかと言えば戸惑ってる感じだなぁ。長年いじめられてきたからそれくらいは分かるぜ!……残念な習得方法だけど。
「こうしてですねー、みなさんこんにちはー!」
元気よく挨拶して手を振るミク。
周りの人は軽くお辞儀をする者、一緒に手を振る者、特に子供は楽しそうに手を振り返してた。
ふーん、そんなもんか。
「今日からこの世界に移住した夏哉さんです。皆さん、仲良くしてあげてくださいねー!」
ちょっと待ちなさいミクさんや。何その小学校の転校生っぽい紹介は?一斉に視線が集まって、さすがにケモノの目が慣れなくて「ども」って軽く頭を下げる事しか出来なかった……
周りは人じゃないんだぞ?馬だの狐だの、でかいのは像に河馬に虎とかいるんだぞ?それが一斉にこっち向いて誰を見ても目が合うって怖いの当たり前じゃん!
「ミク、早く他へ行こう。ここじゃ落ち着かない」
まだビビってるせいで大きな声が出ないけどミクにはちゃんと聞こえたようで、手を繋いで舞台から降りて建物の外に出る。
「はぁ……いい天気なんだな」
「そうですね!もうすぐ春ですから、気持ちがよくて眠くなっちゃいますね〜」
「ああ、ここは芝生が多いんだな。皆結構のんびりしてるのか」
見た目は動きの無い動物園みたいなもんだ。大型の獣民にも対応してるためか、いくつかある建物の入り口はどれも大きい。その中心にあった建物から出た俺達は、寛げる広場を歩いていた。
「ワタシも寝転がりたいのですが……今は夏哉さんの獣民登録が先なので我慢です!」
「いや、別に休んでからでもいいぞ?」
軽くぽんぽんとする程度に、隣を歩くミクの頭を撫でる。
「ふぁっ……い、いえ。この世界の役所は終わるのが早いので、今行かないと身分証が貰えないのです。無ければ買い物も宿を取るのも出来なくなっちゃうのです!」
よくある転移モノの鉄板で何処かのギルドに登録して身分証を貰うんだろうなーって思ってたが、この世界にはちゃんと役所があるのか……意外と凄いなこの世界。
「あ!あれは様々な舞いや歌を披露する会場です。通称タマネギと言います。後で観に行きますか?」
何か見覚えがある建物だなって見てたらミクが教えてくれた。
これ、あれだ。
多分武道館をマネたんだ。でも、天辺のタマネギ以外なんとも言えない作りになってた。
やんわりと断って更に進む。
すると、ちょっと大きめな四角い洋風の建物が見えてきた。さっきのタマネギに比べたらしっかりした角のある作りにちょっとほっとした。
「ここが役所です!さぁ、受付を済ませてしまいましょう!」
ここも大型に配慮してか入り口がでかい。
でも受付や窓口は思ったよりもかなり小さくて、なんで?と思っていたシンキングタイムは短かった。
答えは、
「はい、トーキョ役所に御用でしょうか?」
出てきたのは小鳥だった。なるほどね!そりゃ窓口小さくても通れるよね!確かスズメの仲間のエナガだったかな?白と黒だから合ってると思う。
「今日はこちらの夏哉さんの獣民登録に来ました。よろしくお願いします!」
「あらミクさん、お久しぶりです。ではご案内します」
顔見知りなのか軽く挨拶をして、ぴょんと窓口から飛び降りる。
この小鳥の後に続くの?他の獣民に踏まれたりしないかな?
てっきり飛ぶか肩にでも乗るのかと思ったの……に…………!?
飛び降りたエナガは、広げた翼はそのままに、足だけが急に鶴みたいに長く、決してしなやかではなくどっしりと……いや、ムキムキの足を伸ばして床に下りた。
なんだこれなんだこれなんだこれ!?
軽くホラーなんだけど!
それでもミクの半分の身長だけど、小さな体にふとましい足がついてるんだぞ!?
呆然と立ち尽くす俺に、先を歩く2人……えっと、2頭だったかが振り返って首を傾げてる
「どうされました?」
「夏哉さん、具合でも悪いのですか?」
「い、いや。なんでもない。うん、なんでもない」
落ち着こうと周りを見た時に気付いてしまった。
窓口から奥の職員と思われる小鳥が、みんな手や足を生やして仕事している。
か、可愛くない……可愛い小鳥を返して……!