プロローグ6
プロローグはここまでになります。
「お前が夏哉ってーのかー。アポロニアだ、よく来たな!」
さらにぐっと背中に押し付けられわーわー騒ぐ心の中。そんな事はお構い無しに右肩越しにぬっと顔を出して話しかけてくる姉女神様。
「よ、よろしくお願いします!鈴川夏哉です!」
「もう、姉様。女神としての威厳を保つ事も大切なんですよ?」
「硬い事言うなって、アルテミア。俺だって初めてこのケモノ世界に来た人間が気になってたんだからさ。ほら、せっかくだからミクも獣人になっときなって」
「は、はい!アポロニア様!」
そう言ってんーっと体を強張らせたかと思ったら、どんどん人型?に伸びてきた!?腕で抱きかかえてたけど、呆然としてるうちにお姫様抱っこの形になっていた。誰か説明して……
「夏哉さん、ワタシ達眷属は獣人として変化する能力があるんです。これで自分は眷属だぞ!って見た目で主張出来るんです……その、お、お姫様抱っこって憧れていたので、す、すごく嬉しいですぅ」
黒と茶色が混じったショートウェーブの髪に、ちょっと巫女っぽい白と赤を貴重とした和服。耳は相変わらず頭上にあるが、今はちょっと垂れている。上目遣いの真っ黒な瞳が少し潤んでいた。
ちょ……なにこの可愛い子……
「ほーら!夏哉も可愛いって思うだろ?家族が欲しくなったらしてもいいんだからな。夏哉と獣民の間に子は成せる!この力と繁栄の女神であるアポロニアが断言しよう!」
待って……なんかぶっちゃけたぞこの女神様!?
「姉様、繁栄という姉様の神力の根源は分かりましたけど、もう少し慎みも忘れないでください!今はまだ夏哉にケモノ世界の説明をしている最中です!」
ああ、アルテミア様っていつも姉で苦労してるんだろうなぁ。
やっと俺の背中から離れたアポロニア様がアルテミア様の横に並ぶ。真っ赤なショートヘアに褐色の肌、そしてとにかく大きいおっぱい。あれが背中に押し付けられていたのか!
おっと。まだお姫様抱っこしてたミクが俺の腕を抓ってきた。
ハハハ、ミクはまだ成長期なだけさ!きっと大丈夫!
「で、なんだっけ?獲物の話が聞こえたから来たんだったかな?そうだったそうだった。獲物はね、獣民達の正しい成長と繁栄、それに自尊心を促すためのシステムだ。生き残るために獲物を倒す、より住みやすい環境を得るために競う。そうやって鍛えた力を次の世代に伝えて欲しいと思った。
獣民は4本足でいるもの、2本足立ちになるものと様々だ。それぞれに利点があるからね。どう生活するかは自由だ。でも、更に自身を磨き上げた獣民は上位種への進化もある。
そうだなぁ……例えばそのミクも努力して進化を勝ち取った猫種だ。見えるところにその証もある。尻尾が2本になってるだろ?」
そう言ってミクを俺から自身へと抱きかかえ直し、巫女服をぺろっと捲って尻尾を見せる。尻尾が2本だと納得する以前に、パンツを穿いてないミクのお尻に目線が、ね?
「にゃああああああ!?」
あまりに自然に抱きかかえてお尻を曝け出されたミクが、遅れて悲鳴を上げた。慌ててお尻を隠すミク。すまん、しっかりと見てしまった。
「あ、そうそう。獣民同士で争いはあるけど、俺達それぞれの宗派による争いは禁じている。宗教争いってやつだね」
何事も無かったように話を続けるアポロニア様。強い。ミクは半泣きでアルテミア様の下へと逃げていた。俺と目を合わせてくれないのはどうしたらいいの?これからミクと仲良く過ごさなきゃなのに!
「その説明はまだでしたね。私達女神に準えて、力と繁栄を願う”太陽神派”と知性と慈愛を願う”月光神派”があります。強要もありませんが、獣民それぞれがどういう思想を持つかの表現方法とでも思ってください」
アルテミア様が説明を受け継ぐ。それを信仰したからそれぞれの加護が強くなるわけじゃない、と。宗教問題は怖いからね、それを禁じておくのはありがたい。
「じゃあ俺は力もないし月光神派になるんだろうなぁ」
「えー!俺のとこじゃダメなの!?」
アポロニア様がぶーぶー言うが、戦う力もない俺にそれを望まないでくださいよ!力比べとか吹っかけられたら無理ですから!
「そこはほら、繁栄のほうでさ?夜の男を見せてやんなよ?(ニヤニヤ」
おっさんだ!おっさん女神がいるぞー!!!
「ま、いいや。夏哉、出来ればこの世界の色んな所を見て欲しい。そして俺達女神の願いに沿うよう獣民を導くことなんてしてくれたら嬉しい。別に世界を救えとかでっかいことをしろってわけじゃない。夏哉が楽しく過ごし、そのついでに何かあったら手を差し伸べてあげてほしい。よろしくな!」
ニカッと明るい笑顔を向け、女神と言うより母のように慈愛のある言葉を貰った。ああ、姉妹なんだなぁって初めて思えた。
「分かりました。俺は俺なりに何か出来たらやってみます。アルテミア様、アポロニア様、そしてミク。この世界に呼んでくれてありがとうございます!」
しっかりと頭を下げてお礼を言うと、2人の女神は本当によく似た優しい笑顔で俺を見ていた。ミクも嬉しそうにこちらに駆け寄る。
「では、アルテミア様、アポロニア様。これで失礼致します。ワタシの願いを聞いてくださりありがとうございます!」
「しっかりね!」
「夏哉を任せましたよ」
女神達とミクが言葉を交わし終えた瞬間、視界が真っ白に染まる。
意識が途切れる間際、女神達の声が聞こえた気がした。
「「ケモノ世界へようこそ!」」
ちょっとだけ時間を空けて読み返してみます。