プロローグ5
「じゃあさっそく。これから俺が行く異世界なんですが」
「夏哉、異世界ではありませんよ?」
「……へ?」
「これから夏哉が向かう世界は、地球の神から許しを得て作った、地球の縮小された世界です。地形も地名も似通ったものがあるのです」
「異世界じゃなくて、平行世界というか裏世界ってことですか?」
「その認識で良いと思います」
ほら、よくある異世界転移モノを想像しちゃうじゃん?獣だけの世界なんて言われたら異世界だと思っちゃうよね?って、誰に言い訳してんだろ俺……
「じゃ、じゃあ獣民でしたっけ。彼らと会話は出来るんですよね?」
「はい。私達の加護がある限りは知性が補助されますので、獣民と会話出来ます。但し」
顔を上げた女神様が真剣味を帯びた視線を向ける。綺麗なだけに怖い!
「獣民を食欲目的で殺して食べた場合は加護を失います。加護がなければ地球上の獣と同じ。そこに会話も交流もありません。そして殺し事体は禁則とされていません。これは姉様の領域ですので私からは何も申し上げられません」
なんだっけ……姉女神様は確か、力と繁栄だっけ?ああ、そうすると殺しを禁じられないのは何となく分かる。競争は繁栄にもつながるってやつか。
「あ、そうだ。ミクにも少し言われたんですが、肉が欲しければ獲物を狩れっていうのはどういうことでしょう?」
思いついたままに聞いたんだけど、話題が変わったせいか女神様にも憂いが無くなる。うん、やっぱり綺麗だ。
「はい。獲物とは、私達女神が用意した所謂魔物のようなもので、倒すと食材を落とします。肉以外にも様々な食材を落とすものも存在しますので、是非とも討伐してみてくださいね?」
「えっと……俺、そっちの世界だとギリギリ日常生活を送れる程度の体だって言われてませんでした?日常って獲物を狩れるぐらい問題ないほどなんですか?」
「あっ……」
ちょっと!なんでそこで初めて気付いたみたいに目線を逸らすの!?
「申し訳ありません。肉体改造は地球の神に禁じられてしまったため、夏哉の体は以前と変わりありません。その……ミク、任せましたよ?」
うわー!丸投げしたー!でも、ミクも頼られてやる気出してるー!
そっかー、地球の神にダメって言われたならしょうがないかー。
「夏哉さん、ご飯はアタシに任せてくださいね!」
「面倒かけるけど頼んだよ!じゃあ俺は料理担当かなぁ?」
ファミレスのバイトではキッチンもフロアもやってたし、母子家庭だったから家でも少しは料理してたんだ。そっちで協力していこう!
「ああそれと、獣を食べる事は禁じていますが、例えば鳥族の無精卵のように命の宿っていないものでしたら、一度神殿で見てもらった後に食べて良いルールになっていますので、覚えておいてくださいね」
「ワタシでは下位眷属なので、神殿に持っていって中位眷属の方にお伺いを立てないと食べられないんですよー」
ミクがちょっとしょげている。そしてまた新しい言葉が出て来たので、撫でながら聞いてみた。
「その下位眷属とか中位眷属って何?」
撫でられたミクがまたぽーっとしてる。え、これほんとに大丈夫なの?撫でるのをやめて女神様に目線を向けてこの加護大丈夫か聞こうとしたら、遮るように言葉を被された。絶対分かっててやってるでしょ!
「それは私が答えましょう。眷属とは私達女神の手伝いをする者達の呼び名です。そちらでいう部下です。3名の上位眷属、そこにそれぞれ3名の中位眷属、その配下に3名ずつの、全部で39名の獣民が務めています。ミクは下位眷属27名のうちの1名ですよ」
「へぇ〜、ミクってすごいんだな!」
「えへへぇ〜頑張りましたから〜」
照れる三毛猫ってのも可愛いもんだなぁ。思わず抱きかかえてみたけど、ミクは大人しく抱えられたままになってた。
「ミクは努力して下位眷属まで上りつめました。獲物の強さは姉様の領域なので操れませんが、ミクがいれば問題ないですよ」
「どうせなら自分を鍛えて獲物を倒してみたらどうだい?」
急に後ろから誰かに抱きしめられた。その、背中にすっごい柔らかいものが押し付けられてるのが……分かるぞ!!!
いやそうじゃなくて誰だ!?
「姉様!」
「よっ!アルテミア。眷属が連れて来たっていう人間を見に来たぞ!」
どうやら、後ろから抱き締めてきた人物?は、もう1柱の女神であるアポロニアという女神様らしい。