プロローグ2
「こんにちは、夏哉さん。いえ、こんばんは、でしょうか?」
目の前にいる三毛猫がしゃべった!?
いや、それ以前に俺トラックに轢かれて下半身ぐちゃぐちゃで……
あ、それは現実だ!やっべぇやっぱりこれダメなやつだ!
それに確か更に轢かれそうになってて……
「あれ?車が……来ない。止まってる?」
あれ?声が出た。口から溢れる血で声も出なかったはずなのに!
「はい、今この世界の時間とはずらしてるので、止まってるように見えるだけですよ」
「君が止めてくれたの?なんか痛みもないし、ありがとう」
忘れていたさっきまでの体の痛みを、潰れた下半身を見ても痛くならない。この三毛猫が何かしてくれたんだろうな。
「い、いえ!ワタシは、その、女神アルテミア様のお力を代行しただけですから!……それより、ワタシの事を覚えてませんか?」
目の前で器用に前足を上げてぶんぶん横に振ったあと、三毛猫は姿勢を正して聞いてくる。何この可愛い猫。
「この道ではありませんが、以前車に轢かれて死に掛けたワタシをあなたに看取って頂いたのですが……」
「ああ!中学の時の!」
あの頃孤独に耐えるだけの毎日、でも家には言えなくて、暗くなった通学路の先に、かろうじて前足と頭だけ轢かれずに死ななかった三毛猫を体操服で包んで道の端に運び、何故だか降ろせずにそのまま抱えてたんだっけ。
「でも確かその後君の友達に怒られて引き渡したから、看取るまではいなかったかも?」
「キジに預けられ、最後の言葉を交わす事が出来ました。その後すぐに死んでしまったのですよ。あなたのおかげで、友達にお別れが言えました。あのままなら次の車に轢かれて死んでいたでしょう。本当にありがとうございました」
三毛猫がお辞儀する。
「あれは……俺が勝手に自分と重ねてやったことだから気にしないで。ああ、そう思うと今は俺がその状況なんだなぁ」
次の車に轢かれて死にそうだし。って、あれ?
「あの時の三毛猫って事は、君はもう死んでるんだよね?じゃあ今の君は!?」
「あ、そうでした!その事で女神アルテミア様にお願いしてこちらに来させて頂いたのです!」
姿勢を正して?三毛猫が問う。
「鈴川夏哉さん、ケモノの集う世界へ来ませんか?」