プロローグ1
ちょっと休日に思いついた話を試しに書いてみました。
よろしくお願いします。
この1話だけ重いのはご勘弁を!
(あー……これは逝ったわ)
目の前に迫る車。動かない体。口からは血がこぼれ、声を出す事も出来ない。
(あれに轢かれたら、更に痛いのかなぁ)
そしてその瞬間が訪れるまで、走馬灯のように今までの人生を振り返っていた。
鈴川夏哉。幼い頃に両親は離婚して姉とともに母親に引き取られた。そのタイミングで引越しや転校もしているので幼馴染はいない。それは姉も同じようだ。
引越しと言っても遠くまで行った訳じゃない。母親の実家からもほどよい距離を保つためにせいぜい隣町程度だった。関東と言っても田舎だし遠くへ行くのも大変だ。
でもそれがあまり良い方には転ばなかった。
数年したら離婚した父親がチンピラに、さらに数年後には兄貴と呼ばれるようなヤクザに昇進?していた。その頃には俺達姉弟に理由を付けてはたまに会いに来る。
こんな田舎では父親がヤクザだという噂はすぐに広まる。小学校では親から俺と関わるのを禁じられる子、偉ぶるなと突っかかってくるいじめっ子。特に後者は「そんなもの怖くない!」と主張するために積極的に手を出してくる。最低な小学生時代だった。
4歳離れた姉はもう高校受験を控えていて、2つ隣の町の高校を狙っていた。そんな時に心配事を持ち込むわけにもいかず、黙って耐えた。ついでに走り込みをしてとにかく体力だけはつけておいた。おかげで持久戦に持ち込むといつも俺が振り切って逃げられた。
中学に上がった頃は、今までいじめてきたDQNはチンピラ崩れとなり、その頃兄貴としてのし上がっていた父親の存在を理解したようで、急に今までの事を水に流せと笑顔で脅してきたので気持ち悪かった。
あんな父親でも役に立つんだなぁ、と思った程度だ。
それ以降いじめられる事はなくなった。ついでに友達も相変わらず出来なかった。父親が役に立つとか思った自分が馬鹿だった。
でも、高校生になってからは学校では相変わらず腫れ物扱いだったが、母子家庭特権でバイト許可が楽に下りたのでファミレスでバイトを始めた。
周りは大学生やフリーターと自分より年上だらけ。しかも、友達のように気軽に、そして優しく接してくれる。そんな時間が楽しくてほぼ毎日のようにシフトを入れてもらった。
母親との会話は減ったが、小遣いはもう大丈夫と言い、結婚した姉が産んだ子(つまり初孫)の世話を楽しんでくれとちゃんと話した。
学校は相変わらずつまらないけど、赤点でもいいから高校だけは卒業しなさいと母親に諭されて仕方なく通ってる。たまにサボってバイトしては母親に怒られてるけど。
そんな22時までバイトしていた帰り、横断歩道が青なのを確認して買ったばかりの温かいお茶を飲みながら自転車で渡った時、事故は起きた。
ウィンカーを出さずに左折するトラック。その歩道を渡っていた俺。咄嗟に避けようにもすでにトラックのタイヤに巻き込まれた自転車。引き摺られるように吸い込まれる体。
トラックが通った後には、原型を留めない自転車と腹から下を潰されてぐちゃぐちゃになった俺が残った。
ブレーキランプが光るが、結局トラックはそのまま走り去っていった。
(うそだろ……なんだよこれ……)
何処にも力が入らない。少しだけ首と視線、指先だけが動いた。
(こりゃぁだめだ。ははっ)
いっそ笑えて来た。
(なんだよ、結局まともな人生送れなかったなぁ)
そんな夏哉に追い討ちのように別の車が曲がってくる。ライトが自分を照らすのを感じた。減速する様子の無いその車が、夏哉の体へ向かってくるのが、見えてしまった。
(あれに轢かれたら、更に痛いのかなぁ)
せめてもう痛いのも苦しいのもなしにしてくれと、迫る車を見ない事にした。そして、これから来る衝撃に心だけ構えた。
そんな目の前に、いつの間にか三毛猫がライトに照らされて座っていた。これから彼の人生を変える、楽しい毎日をもたらす使者が。
読み返していけそうなら連載を続けます!