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Antidote─アンチドート─「家族」

作者: しげ




「──ッ!このっ!離せよ!いつまで人を抱えてやがるつもりだ!!」



暴れるデウェルにやれやれといった様子の男がまるで取れたての魚を持つような状態で話す。


「じゃあ離しますけど──ちゃんと付いてきてくださいよ?」


そう言って男はデウェルを地面にどさりと落とす。


「ってぇ…何処なんだよ、ここ…」


夜通し男に担がれて歩いて夜通し男を罵倒し続けたデウェルは疲れで諦めていた。

男も夜通し罵倒され続けてお疲れの模様だった。


「ここは街の南側…マーリニヤ地区ですよ。あー肩と腰が痛い。」


「……マーリニヤ地区……一晩で、北から南に…?」


男はフフンとふんぞり返る。


「私の機動力を舐めないで欲しいですね!若い衆には劣りますが、まだまだ動けます!…って、痛ぁ…」


どうやらふんぞり返った勢いで腰を痛めたらしい。このオヤジは馬鹿なのか。…しかし昨夜の、あのたった一瞬でデウェルは彼に敵わない事が痛烈に分かった。


──まぁ、こいつの「家族になれ」とか言う謎の提案の真意を知ってからでも逃げ出すには遅くない。


「──…で、何処なんだよお前ん家。」


男は腰を擦りながら答える。


「お前て…アルギントって呼んでくださいよ…そこを曲がった所にありまおおっとぉ!!」


アルギントの指差した方向から急に別の男が飛び出して来た。男は何やら怯え切った様子で半分泣き出すように逃げて行った。


「…何だぁ?」


デウェルは怪訝そうな顔をするが、アルギントは溜め息をついてこう言った。


「──うちの客ですねぇ…全くうちの子は……」


逃げて行った男、結構ゴツくてデカかったぞ……このオッサンの子供、どんなんだよ…

若干の緊張があったが、アルギントに案内されたのはジエマの街にはありふれた、少し汚れてはいたがごく普通の喫茶店だった。店の名前は『Antidote』とあった。


「お前ん家、何でも屋だろ?喫茶店じゃねえか、これ。」


「まぁ、前の持ち主が喫茶店やってまして。中は割といいお家ですよ?」


そう言われアルギントに促され、店の中に入る───内装も喫茶店だ。カウンター席にテーブル席…余った椅子が部屋の端に幾つも寄せてある。テーブルにはやたら酒瓶が置いてあったり本が山積みになっているテーブルもある。すると一番奥のテーブルで何かが動く。目をやるとそこには十歳そこそこの、眠たそうな顔を擦る少年がいた。少年はアルギントに気付き、やはり眠そうに声をかける。


「お父さん、お帰り。…その人誰?お客さん?」


少年はむにゃむにゃとテーブルの上にあった飴の瓶に手を伸ばす。


「ただいま。ジャッジメント。…駄目じゃないか、お客さんをびっくりさせては…」


ジャッジメントと呼ばれた少年は飴玉を口に含み面倒そうに返す。


「だって…あの人はお金もうないから…来なくなってもいいでしょ?……で、その人は?」


デウェルはぎくりとする。この子供があの男を追い払ったと言うことだろう。なら何かこう、すごい事をするのだろうか。何よりこのオヤジの子供だ。

アルギントは思い出したようにデウェルの肩を掴む。


「そうそう!見つけて来たんですよ!ジャッジメントのお陰です。新しい家族になります。ジャッジメント、よろしくしてやってください。」


そう言われジャッジメントは目を見開く。飴玉の様な瞳だ。不意にデウェルは母の瞳を思い出す。──あの青い目を。


視線を戻したジャッジメントはまた先程の眠そうな目に戻っていた。


「ふぅん……いいんじゃない?よろしく。名前は?」


「デウェル君って言うんですよ。ネー♪」


「ふぅん……デウェル……」


「あれ?どうしました?」


自分の不遜な言い方に何の反応も返さないデウェルの顔を覗き込む。


「おーい、デウェルくーん?」


アルギントがデウェルの目の前で手をひらひら振る。その行為で漸く意識が現実に引き戻される。


「あ、ぁ?何だよ?」


アルギントはニヤニヤ笑う。


「どうやら新しい家族は立ったまま寝るらしい……」


「すごい…器用。」


デウェルは昨夜から苛々し過ぎてどうにかなるのでは無いかと思った。この街に来てからというもの、苛々すればその辺のチンピラを殺してきたが、この親子相手にはそうも行かない。質が悪い奴等と出逢ってしまった。


アルギントはジャッジメントに向き直る。


「ジャッジ、他の皆は?」


「今日は別件。そろそろ戻ると思うよ。」


そのやり取りを聞いたデウェルから血の気が無くなる。


「おい…まだ居るのか…」


「居ますよ?あと三人程。」


「……あんた、何歳…?」


「三十六…を、越えた辺りから…数えて無いですね…」


「僕は数えてるけど」


デウェルはしゃがみ込む。昨日このオッサンにしこたま血を流されてから何も食べずにオッサンの肩に揺られて来たからだろうか。吐き気もしてきた。


アルギントはその様子を見てあははーと笑い、ジャッジメントは二つ目の飴玉に手を伸ばしていた。


「まぁまぁ、皆可愛い子供達ですから!私に似て♡」


その言葉に益々不安が募る。するとジャッジメントが付け足す様にこう言った。


「全員血の繋がりは無いよ…皆デウェルと同じ。」


それを聞いてデウェルは疑問に思って尋ねる。


「なんでそんなに人集めてんだよ…オッサン、何がしたいんだ?」


アルギントが口を開こうとした。デウェルは昨夜見たあの冷たい視線を思い出し身構える。すると突然店のドアが豪快に開かれる。



そこには、褐色の肌に銀髪の男、金髪の雪白の肌の女、蒼白い肌に黒髪の男が立って居た。




デウェルは逃げようにも何処にも逃げ場など無いことに呆然としてこう呟く事しか出来なかった。


「──…出たぁ……」






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