otomarikai
林道によく知る人影が見える。
「コウくん、おっはよ~!」
今日の雲ひとつ無い青空のような、元気な挨拶が響いてきた。
天高く掲げた腕をぶんぶん振って、イチカはにぱーっと白い歯を見せる。
「今日に限って早いじゃねえかよ」
「それがトモダチを待たせた人の態度ですかー」
イチカがほっぺたをつつこうとしたのを肩透かす。
「いつも待ってやってんのは、俺だよな~」
踏鞴を踏んでいたイチカの頭をぐりぐりしてやる。
「ぃたたっ、いたたっ、ひどいよーやめてよーコウくん」
イチカの声に驚いてか一匹の蝉が、手前の木から飛び去った。
夏の盛りだ。
今日と明日、村役場では年に一度のお泊り会がある。寺子屋の矢崎先生主催の一大イベントだ。
いつもは眠い目をこすりながら、約束の時間を平然とオーバーするイチカがこんなにも来るのが早いのはそのせいだろう。
イチカは今日をそんなにも楽しみにしていたのか、ぐりぐりされても、笑みがこぼれる。
「――ぷ、うふっ、あはははは!」
「うわっ!なんだよ突然笑い出して、ひくわーお願いだから近寄らないで」
わざと冷たい視線をイチカに送ってから、俺は走り出した。
「もうーコウくんのいじわるいじわるー」
そう言いながら、俺の背中をべたべたさわってくる。
「勝手に触らないで、菌がうつるー」
「なんでなんで、べつにいいじゃんーイチカとコウくんのなかでしょ!」
イチカをからかいながらも、俺も胸の奥から込み上げる笑いを必死に耐えていた。
なぜって今日からお泊り会。朝から晩まで友達と一緒に生活するのだ。
楽しくないはずがないじゃないか!
一週間も前から、何をするかなど想像してきた。きっと今年もおもしろいことが起こるぞ!
そう思うと、自然と俺の口からも笑い声が聞こえてくるのだ。




