短編1「箱」
私が帰宅すると部屋には見知らぬ「箱」があった。
いったいこれは何だろうか?疑問しかない。
空き巣が入ったのだろうか?
いや、こんな物的証拠を残すわけがない。
では家族の誰かが置いたのか?
いや、一人暮らしである。
そのうえ、他に鍵を持つのは父と母で二人とも新幹線で二時間かかる場所に住んでいる。
霊的な何かだろうか?
まあ・・・ないだろう。
はっきり言って考えるのが無駄である。
私は「箱」を観察することにした。
1辺が1mほどの立方体である。何も特徴のない箱だ。
中を開いてみよう。
開こうとしたところで私は思った。
中身が危険物ではないか。
爆発物だったら?
空けた瞬間に死ぬだろう。
なにかが飛び出たら?
物によるが、ナイフならば避けられるか?
いや、なぜ開けることが前提なのか。
そもそも不審物なのだから、警察に電話すべきではないか。
かなり当たり前のことに気づいた私は、電話をかけようとした。
そこで突然、停電する。なんと運が悪いのだろうか。
ブレーカーは外にある。
ドアノブに手をかける。しかし、開かない。
私は焦った。このドアは立て付けが悪いわけではない。
ここは一階だ窓から出れる。
私は窓を開けようとした。
しかし、家の窓のすべて開かない。
さすがにおかしい。私は恐怖した。
そうなると「箱」は不気味である。霊的な物なのか?
いくらか時間が経つ。それ以上何も起こらなかった。
しかし、停電は続き、外へは出られない。
疲れ果て、私は寝た。
起きた。状況は変わらない。
何かしよう。そこで私は気づいた。
部屋の物が少ない。本、パソコン、テレビ、机が無い。
やはり、空き巣だったのか。それにしては大掛かりである。
空き巣がこんなことをするのか。
何もすることがない。私は寝た。
そんな日が何日続いただろうか。
20日は経っただろうか。
何も食べず、私は生きている。どういうことだ。
「箱」のおかげだろうか。
ふと私は気づいた。
携帯電話がポケットにあることを。
すぐさま、友人へ電話する。
「もしもし、私だ。助けてくれ。」
「あなたは誰だ。」
「私だ。忘れたのか。」
「この電話番号の持ち主のことは一生忘れない。
生涯で唯一の親友だからな。しかし、もういない。」
「どういうことだ。私はここにいる。」
「ふざけないでくれ。あいつは死んだ。」
そこで電話が切れた。電池切れだ。
「そうだった。」
私は死んだのだった。
すべてを思い出した。「箱」以外は。
あの「箱」はなんだ。
開こう。私は死んでいる。
恐れることなど何も無い。
ゆっくりと「箱」を開く。中は深い闇であった。
底は見えない。
しかし、不思議と安心感がある。
私は悟った。
ここが私の帰る場所なのだ。
吸い込まれるようにして私は「箱」に入った。
体がだんだんと「箱」に沈んでゆく。
視界が暗くなり、意識が遠のいてゆく。
「さよなら。」そして、「箱」は消えた。