偽典・やさしい神様
僕が以前書いた同名のアレとは名前が同じだけの別物
ある所に、ひとりの神様がいました。
神様は思う限り何でも出来ました。でも、何も知りませんでした。けれど、目にしたもの全てから、答えを導き出す事が出来ました。
神様は自分の持つ力で色々なものを作り出しました。設計・製作・運用、トライアンドエラーの繰り返しで、世界を色々なもので埋めていきました。
しかし、その内に自分一人で決めるという事に飽きてきたので、次から生み出すものに自分の意思を与える事にしました。それまでに作ったものは与えたプログラムに従って動くだけで、予想外の動きをする事はなかったのです。
神様がけものと名付けた生き物たちは、自分たちで考えて動きます。けもの達は神様と違って、意図せず誤る事がありました。神様の様に常に正しい答えを導き出す事が出来るわけではないからです。けれど、だからこそ、神様の予想外の出来事を引き起こす事がありました。
とあるけものは神様に願いました。
「もっと速く走れるようになりたい」
神様はその願いを叶え、そのけものの体を速く走りやすいように作り変えました。
とあるけものは神様に願いました。
「もっとうまく魚が取れるようになりたい」
神様はその願いを叶え、そのけものがどんな遠くからでも魚を見つけられる鋭い目と、魚まで一足飛びに駆け付けられる翼を与えました。
とあるけものは神様に願いました。
「子供たちを安全に育てたい」
神様はその願いを叶え、そのけものに天敵に襲われにくい巣の作り方を教えました。
神様は自分に届いた願いを際限なく叶えました。神様は何でも出来ましたし、何でもわかりましたし、自分が世界のルールそのものでしたから、どんな願いも叶える事が出来ました。
その内、けもの達は神様への敬意を失い、好き勝手して争うようになりました。神様のやさしさを履き違え、感謝せず己の奴隷の様に扱う様になったのです。これには神様も呆れ、けもの達から距離を取るようになりました。けれども、けもの達の殆どは己の過ちに気付かず、傍若無人な振る舞いを続けました。
何時の間にか、世界は我儘なけもの達で満たされていました。
神様はけもの達の言葉を貶めました。けもの達の言葉は世界に直接作用しなくなり、神様の所にも届かなくなりました。
神様と同じ、力ある言葉を保持できたのは、神様への敬意を忘れなかったけものだけでした。
神様は何故けものを作ったのかを思い出しました。それは、自分ひとりの世界が寂しかったからです。けれど、結局神様はひとりでした。神様が自分と同じような事が出来るが、自分ではないもの、というものがよくわからなくて作り出す事が出来なかったからです。
神様は自分の力を複製し、それを幾つかの塊に切り分けて世界中にばら撒きました。それを手に入れたものが自分と同じような存在になる事を期待したのです。そうして、神様は可能性を信じてみる事にしました。
神様は空の上の孤島で世界を見守りながら待つ事にしました。勿論、自分の所まで届いた願いは全部叶えます。何故なら、好き勝手するけもの達に呆れてしまっても、神様は世界も、自分が作り出したけもの達も、大好きだからです。
だから神様はやっぱりひとりでお空の上にいるのです。