死神の涙
茨に捕らわれて身動きがとれない俺と鎌を持って接近してくる死神の距離はどんどん近くなっている。
「………俺は……死んでたまるか~」
俺がとった行動は意外なものだった。それは……
「何を………してるんだ………」
死神の動きは止まっていた。俺は零刀を自分に向けて刺していた。
「がはっ………伝わるぜ、この零刀に眠る力……もう1度俺がよみがえらせてやるよ…」
そして俺はその零刀を身体に取り込んだ。
「無駄なことを!」
死神は大きく振りかぶった鎌を俺におろした。
「どうだ………?!」
しかし、その鎌は俺に届くまえに蒸発していた。さらに、茨もすべて溶けてしまっていた。
「………やっぱりこの力は最高だ……封印していたのがもったいない……」
「封印だと………どうゆうことだ?」
俺はニヤリと笑い答えた。
「この零刀は凄まじい闇の力を持っていたのだよ。それは人の光を溶かすほどに……でも俺がこれを手にしたとき、俺の闇が優ってしまったので力を失ってしまった。そして俺が封印した……」
「その力を解放したと………しかし、あの森林の心臓と呼ばれているものを取り込むなんて……やっぱり面白い……」
死神だって笑う。みんなそうなのだ。神風高斗と戦うものはみんな笑っている。真剣勝負を楽しんでいる。そして今回もそうだ。
「その闇はいつまでも解放されていられるのか?」
「そいつは無理だ。これはあくまで封印して溜め込んだ闇を放出しているだけで、永続的に使うことは出来ない。さらに、零刀を身体に取り込んだいじょう、元に戻すことだって出来ない」
「つまりは一発芸だと………でもよくそんなことが出来るよねぇ~……でもそれだと後が続かないんじゃないの?」
「今を戦えないやつに先はないですよ。全力で戦わないとあなたには勝てない」
「そこまで言ってくれるとうれしいねぇ~……だったら最後の勝負にしましょう。ただし、死神ではなく、死危情ネロとして……」
ネロは俺と十分に距離をとった。そして、
「これが私のすべての力………グロリアス・レーザーッ!」
彼女は高斗と戦ううちに作っていた自分を捨てて本当の自分をさらけ出していた。だからこそ、コードネームを捨てて自分の名前を語ったのである。
「受けてたとう。ヒステリック・ドロップ!」
二人の超特大魔法弾は完全なる互角だった。
「まだだ!私はこんなものではないんだ~」
ネロの魔法弾はさらに威力を増していた。
「…………」
逆に高斗の魔法弾は威力を失っていった。おそらく力を解放しきったのであろう。そうネロは思った。
「私の勝ち………ぐっ………これはいったい……」
勝ちを確信していたネロは驚いた。先程まで操っていた茨が自分の手足を拘束していたのだ。
「やっと動いてくれたぜ………」
「何をしたんだ………」
「君の茨に僕の闇の力を餌として提供したんだよ……だってこの茨、迷宮森林のものだろ………」
「主は私のはずだ………元々あそこは私の庭。あなたの闇の力ごとき……?!まさか!」
「そう。俺の闇の力は俺のであって、俺のではない。元々森林のものだからな!」
「そして、私は漆黒魔女の力も使っていない。完全な誤算だ…」
ネロの魔法弾も力を失ってしまった。
「………はぁ~。…………」
ネロの目からは涙がこぼれていた。
「もっと素直にしてれば………もっと強く言っていれば………もっと………」
高斗は茨からネロを解放し、優しく抱きしめた。
「おかしいな………悲しくないのに……涙が止まらない……」
「ゆっくり泣いて………もう君の役目は終わりだ………後は僕がすべてを終わらせる………」
「………残念だけど、まだ終わりじゃない。この先に進むには私を殺さないと駄目…」
「………どうしても………なのか………」
「絶対にだ………」
高斗は躊躇していた。
「どう………して…………」
高斗の心は正直、限界だった。慣れない力を使いたくさんの人を殺し、そのまま戦争でたくさんのものを失い、やっと打ち解けあった人を殺さなくてはならない。彼の心は闇とか光とかではなく、無いに等しくなりつつある。そして、ネロにだってそれがわかっていた。ネロはすべての人間の心を見ることができる。しかし、それにより彼女の心もまた無いに等しいのであった。
「………また…………失う………なんで………」
そんなネロは意外な行動に出た。高斗の鼻に軽く口をつけた。そして彼を慰めるように言った。
「あなたは優しい……だから………」
━━━私と同じ道を進まないで………
━━━心を失わないで………
「サヨナラ………高斗………」
彼女はそう言い残すと、茨に自ら突っ込んで行き、そしてその茨に食べられた。
「優しいのは君だよ………ネロ………ありがとう……」
高斗は目の前に現れた扉の先にまた進んだ。