終戦で得たもの、失ったもの
「終わりだ………」
瑛太は勝利を確信していた。
「後はいつも通りに………ぐはっ……」
瑛太は背中に強い痛みを感じた。後ろを振り向くと晴哉の零刀が刺さっていた。さらに高斗の姿も消えていた。
「何が起きたんだ………」
「兄さん………僕の勝ちだよ……」
高斗は瑛太の首に新風丸を構えて立っていた。さらに、彼は突き抜いた時に流れていた血は止まっていた。
「嘘だ………君にそんな力はない……手応えだってあった……なのに……」
「驚くことなんてないよ………僕と兄さんの聖霊力は似たものであるんだよ……兄さんはここまででわかるよね」
「まさか………」
「そのまさかだよ。僕は時を操った……」
「嘘だ!君の力ではそれは無理のはず………」
瑛太の行っていたこと。それは時を自由に操っていたことである。彼が動くときに時を止めて、高斗に攻撃するときに時を動かす。たったそれだけである。しかしそれを何事もなく行えるのが瑛太の凄みである。しかし、それだけではそれを高斗が真似できる理由にはならない。
「まだわからないの?僕はすべてを知っている。と言ったらわかるよね」
「タイム………パラドクス……だと言うのか?ありえない。それは俺と鉄だけの………?!」
「この力は鉄から与えられたもの。それくらい出来るよね……」
瑛太には思わぬ誤算があった………
「全員に聖霊の力を与えたと言ったな。それは本当に全員なのか?」
「もちろん、ただの一般人から君の弟まで全員だよ…」
このときから歯車は違う回り方をしていたのかもしれない。
━━━あいつは………未来を変えやがった……
━━━もしかすると……奴は………
今まで俺で遊んでいたのかもしれない………
瑛太には高斗には言えない秘密があった。それはこのゲームをもう100回以上繰り返していたのだ。そして、どんなことがあっても高斗は瑛太に負けて、そしてまたあの日がやってくる。そんな繰り返しの中、一人で戦い続けていた。でも、今回は1つだけ今までと違うことがあった。それが鉄の存在だ。しかし、俺はそれを許してしまった。でも、俺は奴を知っている。どこかで会った気がするのだ。しかし、そんなことを俺は思い出せるわけがない。時が戻るのはいつも高斗が死んでから。なのに………
「殺すんだ………」
「…………」
「やっとわかったんだ………奴は……あいつは………」
突然雷が瑛太にめがけておちてきた。高斗はバックステップで距離をとった。瑛太は何かを言っているようだが高斗には聞こえなかった。そして次の瞬間。黒いローブを来た奴が瑛太を殺した。
「待てよ………貴様ぁッ!」
新風丸を投げるもののそいつは異次元に逃げるかのように消えてしまった。
「…………どうして………」
高斗は1人責任を感じていた。
「…………僕は何もしてないのに………」
そんな目の前に現れたのはネロととても美しい女性だった。
「あなたは選ばれたのです。最後の戦いにあなたを迎えましょう……」
「お前らは………何でそんなに平常でいられるんだ!」
「あなたに断ることは出来ません。この扉の先に進まなくてはならないのです……」
「いいから答えてくれよ………頼むから答えて………くれよ……」
美しい女性は扉の先に進んで行った。残ったネロは最後に高斗の頬を叩いてから言った。
「悲しいさ………あいつだって………でもな、瑛太が死んだからこのゲームが終わるわけじゃない。私たちだってこの先は何も知らない。でもお前は見たんだろ……瑛太を殺した奴を……だったら…」
「わかってる……それぐらい俺だってわかってる……でも……」
「………良いこと教えてやるよ。失うものも得るものも、必ず理由があるんだよ……この戦争は失ったものしかない。だったら考えろ!失う理由をな……私はあなたともう1度戦いたい。それだけだ………」
ネロも扉の先に進んで行った。
俺にはそれは来いではなく来るなというように聞こえた。おそらく俺には今現在、この先に進む資格が無いのだろう……
失った理由………
それは………
━━━そうだ……簡単なことだったんだ……
━━━どうしてわからなかったのだろうか……
「おいネロ!何をしていたのだ………」
「魔法をかけてきた………私が死んだときはよろしくな……」
「……………」
それきり二人の会話はなかった。
俺が……終わらせればいい……何もかも
━━俺は失ったのではない……
━━━得たんだ………
━━━━僕の知らない世界を見る権利を……