嘘を吐く少女
晴哉はとても危機的状況下に置かれていた。自分と澪野の力はほぼ互角。しかし、彼女の戦力ははるかにこちらを凌いでいる。しかも、彼女はこちらとの同士討ちを望んでいる。
「どうしたものか………」
晴哉の戦力は圧倒的な数だ。それだけに一人一人の力はとても弱い。それに対し、澪野の戦力は数を核と武装で補う。しかもここまで生き残っている人たちは少なからず戦闘能力はある。そこでとった晴哉の行動はとても考えられない行動だった。
「降参だ………今の俺ではこの戦力に対抗する手段は………ない……」
晴哉は両手を上げて澪野に降伏するのであった。
「何が目的なの?そんなことで私が手をひくわけがないことぐらいわかってるわよね」
澪野は戦闘態勢をやめない。野生の虎のように獲物を見つめていった。
「ああ………わかってるよ。だからこそ俺の妹のためにここだけは………」
澪野は言い終わる前にクローで晴哉の左わき腹を突き刺した。
「私はあなたを信用はしない………でもその事には高斗君が関わっている。だったら……」
そのクローをわき腹から抜いて続けた。
「私からは1つだけ………君は君で高斗と戦ってね………」
そう言って晴哉に背中を向けてこの場を立ち去るのであった。
「僕は知ってるよ………君の心の……闇を……」
晴哉はボソッと言った。
「いいのですか?彼を討つには今が絶好機なのに……」
澪野は声を小さくして言った。
「私は………あまいな。……非情に……冷酷にならないと………」
澪野は小さな決意を固めるのであった。
その頃、麗奈と高斗は………
「くっくっく……もうおしまいだよ………」
すでに決着がつくところだった。
「殺したいなら殺せばいい。それが君の零二へのための行動なら……」
「あなたは勘違いしている。私は兄を想ってるのではない。憎んでいるんだよッ!」
麗奈は高斗の両手に剣を刺した。
「選ばせてあげる。心臓を串刺しにされるか、首を噛みちぎられるか」
「そんな余裕が今のお前にはあるのか?」
高斗は不意に言った。
「どうゆうことだ?」
麗奈が聞くと、
ガチャ………
麗奈の耳元で拳銃のリロードの音がした。そちらの方向を見ると………
「今すぐ高斗から距離をとれ!」
その声の主は零二であった。
「お兄……ちゃん………なんで私を撃とうとしているの?」
「…………」
「なんで私のことを……」
零二はトリガーを引いた。麗奈はとっさに距離をとった。そのスピードは澪野に匹敵していた。
「ふざけるな~ッ」
今度は麗奈が晴哉に噛みついた。しかし、それは噛みつかれたと同時に消えてしまった。
「フー………ハー………」
麗奈は大きく息を吐いている。
「素直になりなよ。君は嘘を吐いている。ついているのではなく吐いているのだ……」
高斗は、やさしく麗奈に問いかけた。
「君は嘘を吐いて生きてきた。でも、もう終わりでいいんだよ……」
麗奈の目からは涙が流れていた。
「………私は……いつからおかしくなったのだろうか……悲しくないのに……涙が止まらない……」
そこへ、ボロボロになった晴哉がやって来た。
「どうやら俺が来るまでもなかったな……」
麗奈はその晴哉に最期の一言を残した。
「私を殺して下さい……お兄ちゃん……」
そう言って、力尽きたように後ろに倒れた。
「零二さん………」
高斗はアイコンタクトをした。
晴哉は零刀を取り出し最期に麗奈にこう言い残した。
「駄目な兄貴で悪かった………」
麗奈の首を切り落としたのであった。