澪野と高斗 中編
高斗の様子が急変した。頭を抱えて苦しそうだ。
「あぁぁ……うぁぁー………頭が……痛い……」
澪野はそれを見ていることしか出来なかった。
「高斗くん。しっかりして……」
高斗の背中から羽根らしきものがはえてきた。高斗の左手の握りが強くなった。
「衝撃壁ッ!」
澪野は一瞬の行動を見逃さず、身を守った。その衝撃壁の上から高斗は斬撃を与えた。その威力は今までを遥かに凌ぐもので、衝撃壁をぶち壊した。
「くっ………」
澪野はダメもとで高斗に接近戦を挑んだ。高斗の神風丸の一振り一振りが鋭く、当たれば即死といってもいいぐらいだった。澪野は服や髪にはかすっていたが、直撃をなんとか避けていた。
「もう………俺に……かかわらないで……くれ……」
神風丸を振りながら高斗はいい続ける。
「私は……あなたを見捨てるわけにはいかない!」
澪野はそう返した。澪野には高斗を助けること……それしかなかった。
どうすればいいのかしら……まともにやりあうのは分が悪いよね………今は凌ぐしかないか……
澪野はクロ―をはずし、長剣を二本手にした。
一発で倒そうとはしないで確実にダメージを与える!
澪野は高斗の攻撃を二本の長剣で防いだ。しかし反撃はしないで距離をとった。そしてまた間合いを近づけて守り、距離をとる。この繰り返しだ。
高斗くんの右手は使えない。つまり左手の動きと剣の入る入斜角を見極めて攻撃を止める。これが安全な方法。あとは……タイミングだけだ。
澪野の策は確実に成功するはずだった。しかし、
「嘘………でしょ……」
高斗の右腕はすっかり動くようになっていた。
「あの毒は一週間は効いているはず……それが30分足らずで……」
高斗は右手に大剣を持った。
高斗は自分の心の中で会話をしていた。
「ルシファー………何のつもりだ」
この暴走。いや、ネロと戦ってから高斗はルシファーに身体を乗っ取られていた。
「我は力を蓄えなくてはならないのだ」
そして高斗はルシファーの力で拘束されていた。今は拘束を自ら解いたものの、身体はルシファーに奪われたままだ。
「それは俺の兄さん。いや、もう一人のルシファーと戦うためなのか?」
「それは違う。なぜなら、我はお前の闇を増幅してきた。いわば、もう一人の君なんだからな」
高斗は何も言えなかった。
「力が欲しいだろ………強くなりたいだろ……そして、」
『君のお兄さんを超えたいだろ』
その言葉で………少年は魂を闇に売った。彼から理性は消えた。そしてルシファーは高らかに笑った。
その変化は澪野にもわかるように表向きの姿にも出ていた。生えてきていた羽根はさらに大きくなり、高斗の身体と同じくらいの大きさになった。さらに、羽根の色は黒紫色に変わった。全身は闇らしきものに取り込まれているように顔以外は覆われていた。
「強いやつはどこだぁ~ッ!殺す。殺す。みんな殺してやる!」
「やめてください。あなたはそんなことをするヒトではない」
高斗は澪野を睨んで言った。
「俺はヒトじゃないよ……」
少しためを作ってから皮肉ぽく言った。
「悪魔なんだからな!」
高斗はそう言って、澪野との距離を一気につめた。