澪野と高斗 前編
彼女は白虎と名乗った。
俺は、右手には大剣を、左手には神風丸を構えて彼女の前に立ちふさがった。
彼女は獣のように体勢を低くし、両手にはクロ―をつけていた。
「これが私の想いだ~」
彼女の名前は吉良澪野。このゲームの始まってまもなくの時に出会った。澪野には申し訳ないことをしたと思っている。いくら意味のある行動であっても、俺の親は彼女の親を殺した。さらに俺は彼女に気持ちを開いてあげることが出来なかった。
そして今もだ………
澪野のスピードはケタ違いに上がっていた。彼女の戦闘に対するセンスというものも加味しているのだが、やはり一番の原因は白虎だろう。
今の俺は神風丸のリーチの長さを利用して射程距離に彼女を近づかせていないが、それも時間の問題だろう。
彼女のスピードはますます上がっていく。それに比例するように俺の迷いが募っていく。
「そんな程度なの?だったらもう降参して素直になってよ」
「?!」
俺は彼女の発言に驚いた。動揺を隠せなかった。彼女は気づいているのだ。俺のことすべてを………
その動揺が命取りになった。大振りになった大剣の隙をついて彼女は急接近した。
「しまっ………」
「もらった~」
そのクロ―は心臓を貫くポイントを一寸も外していなかった。俺はとっさに大剣を放した。
「外したか………だけど」
大剣を放したことにより、なんとか心臓から右肩にヒットする場所をずらすことに成功した。しかし右肩が動かなくなってしまった。
「それは神経毒をクロ―に塗ってるからね。普通なら死んでるぐらい強烈な物なんだけど、簡単にはいかないか……」
俺は動く左手で握ってる神風丸をさらに強く握りしめた。
「やっぱり使わないと駄目なのかな………迷いは人を狂わせる。闇は人を不幸にする……」
「くるか………」
「常闇の騎士よ。我と1つに………」
高斗に黒きオーラがまとわれた。さっきまでの戦いを楽しむ顔は消え、無表情になった。
「目標確認。これより戦闘開始」
その一言により、高斗の動きは格段に上がった。そして、スピードですら澪野を凌駕した。
左手一本。そんなものはハンデにもならなかった。確かに外から見ると互角に見えている。澪野はクロ―で高斗の攻撃を防いでいるように見えている。しかし、澪野のクロ―はどんどんダメージを受けていることは彼女本人ですら気づいていなかった。
そしてまた、無表情になりながらも心の奥底で何かを迷っている高斗を見ているあいつがいた。
そして悲劇の戦争へと進むのであった。




