それでも俺は戦う
もう戦うのを休んでから1ヶ月が過ぎた。かおりの記憶も戻らない。確かに2人でいる間は、戦う時よりずっと楽で楽しくて……でも今の俺は、戦うことを待ち遠しい気持ちになっている。今、どこまで零二は進んだのか。ボスはどれくらい強いのか。そんなことを最近は考えるようになった。
「おなかすいた………カレーが食べたい」
かおりは俺にそう言いながら、俺の体をゆする。本当にかわいくて、自分の子供みたいだった。でもかわいがればかわいがるほど、自分は戦いとかおりの世話のどちらかを捨てなければならなくなっていく。わかっていても、俺はどちらが正しいかわからなかった。
「今作ってやるよ。少し待ってろ。50分でできるから」
俺は自分で作ったカレーを2人で食べていた。俺の心はまだ迷っていた。突然、連絡が入った。零二からだ。
『今からBF25のボスの攻略を始めるのだが、久しぶりに俺とパーティーを組まないか?デュエルもしたいし………どうだ…』
俺の戦闘本能は一気に最高値まで上がっていった。でもそんな俺を見て、かおりは俺の胸に飛び込んできた。
「高斗さんは、私を1人にしないですよね。私は1人じゃなにもできないのに………1人にしないですよね(涙)」
俺は、頭が真っ白になった。自分は戦うためにこのゲームを今までやってきた。でも、目の前にいるかおりは戦うことを俺から離してくれた。戦いだけがすべてではないと教えてくれた…………
このまま過ごしていれば、俺の過去はすべてが黒き灰になる。戦いに行けば、この1ヶ月が黒き灰になる。どちらにしても犠牲が必要だ。でも選べない。そんな俺の頭に誰かがささやく。
『君は浅はかだ。失うものは本当にあるのかな?』
はあっ。俺は、すべての覚悟と共に、かおりに言った。
「俺は戦いに行く。1人で待ってろ」
「おいてかないで。いってはダメ。1人にしないで」
「戦うしかないんだ。すべてのために……」
「なら……なら私と戦ってから…」
かおりは、ナイトの装備をまとって俺に剣をむけた。
「デュエルでいいな。俺が勝ったらBF25に行かせてもらう。お前が勝ったら、俺は剣を置く。それでいいだろ」
一緒に過ごしてきた家族のような存在であった俺たちは今、剣をむけあって戦おうとしている…………