一.遡る。
夜。屋内で絶体絶命のピンチに陥っている椿。この窮地を抜け出す方法を考えるために、今までに起きた事を回想し始める。
リビングのライティングが犯罪者の顔を照らす。
「……絶体絶命か」
そう呟いた声が隣から聞こえた。大げさではない。まさに今の状況を一言で表すのなら、絶体絶命。今まで、いろんなことに首を突っ込んできたけれど、命の危険が迫ってきているのは今回が初めてだ。手に汗が流れる。
わたしたちはわずかに量で勝っている。だけど、戦力を総合すれば、こちら側が明らかに分が悪い。神頼みなどしたところで無意味だ。武器などもない。あったところで慣れない武器は使えないも同然だ。使えるものがあるとすれば――頭脳か、知恵か。
わたしはどうしても生き延びなければならないのだ。みさぎに頼んだ一件を最後までやり遂げないといけない。
わたしたちと向き合うその人がじりじりと一歩、また一歩と詰め寄ってくる。元々あまりなかった距離がさらに短くなる。
「何か策はないか」
また隣から声が聞こえたけれど、今度はわたしに問いかけてきたようだ。策……何かあるのか。首を巡らす。やはり、このリビングには状況が覆りそうなものは何もない。
カーテンが開け放たれている窓の外を一瞥すればもうすっかり夜だった。暗い中に街灯や家々の明かり等が見えた。
「……火嫌井」
加賀屋さんの声。時間はない。
わたしはかけてみることにした。不確定要素が強すぎる賭けに。
しかし、そのためには今一度、頭の整理をしなければならない。記憶を遡る。これ以上ないくらいに、人生で一番というほどに頭を回転させる。大丈夫、事の発端はつい最近だ。わたしなら、これぐらい朝飯前なはず。さっきは頭ばっかりなガキと言われたけど、だからこそ、頭でこの状況を上回ってやる。
あ。……朝飯前と言ったけれど、夜だから晩飯前かな。