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万引きGメンをしよう

 夏休みになりました。

 僕、須藤王はアルバイトをすることにしました。

 海外にいる両親からの仕送りで十分生活はできるのですが、

 やはり夏休みずっとだらだらしているのはよくないし暇です。

 やることがないからエロ本やエロサイトを見て自慰ばかりするなんてもう人として終わりです。

 なので夏休みはアルバイトをすることにしました。ついでにオナ禁することにしました。

 それに、前からやってみたかった仕事があるんです。



「おはようございます!」

 朝9時、アパートから徒歩10分の位置にあるスーパーで、僕はスーパーの制服に着替えて同僚に挨拶。

 僕のやってみたかった仕事というのはスーパーの店員。

 もっと言えば、万引きGメンです。

 存在感がないので警戒されにくい、ストーキング技術に長けている。

 まさに僕は万引きGメンをするために生まれてきた男なのではないか?と前々から考えていました。

「おはようございますわ、須藤様」

「おはよう、愛顔さん」

 スーパーの制服姿の愛顔さん。

 何でも社会勉強だとかで彼女もここでアルバイトをするらしく、偶然シフトやらなんやらが同じになりました。

 普段の制服姿とは違って、スーパーの制服姿というのも新鮮でいいですね。

 スーパーのバイトというのはパートのおばちゃんでもできる(失礼な言い方かもしれないが)簡単な仕事だと思っていましたが、これがなかなか大変です。

 まず開店前から品出しやら色々忙しいです。

 そして開店した後も掃除、補充、レジ打ち、惣菜の調理などいろんな仕事をしなければなりません。

 まだ僕は研修なので掃除がほとんどです。マニュアルもまだ覚え切れていません。

 それに比べて愛顔さんは完全に仕事をマスターしていますし、

「愛顔ちゃんはいいお嫁さんになれるわねえ」

「そ、そんな、私なんてまだまだですわ」

 パートのおばちゃんにも可愛がられています。嫉妬しているわけではないですよ?

 別に僕はパートのおばちゃんに可愛がられたいなんて思っていませんけどね。

「須藤様、混んできたのでレジ打ちお願いしますわ」

「わかったよ愛顔さん」

 お昼時になりお客さんが増えてきたので、僕もレジ打ちに回ります。

 マニュアルを見ながらのたどたどしいレジ打ちですが、精一杯やっているので大目に見てください。

 お客さんが持ってきたトマトジュース三箱を処理。……トマトジュース三箱?

「おや、須藤君じゃないか」

「その声は女郎花さん……ってどうしたのさ、その格好」

 お客さんは吸血鬼の女郎花さん。まるでインドあたりの婚前の女性のように、目以外を真っ黒な布で包んでいます。

「夏は大嫌いだよ。ただでさえ日差しが強くて厳しいのに、暑いのも苦手なんだ。この衣装で日光を遮断するというわけさ」

「女郎花さん。黒って日光を吸収するから白い布の方がいいと思うよ」

「なっ!?」

 知らなかったようで道理で暑いはずだ……と呟きながらトマトジュースを持ってお店を出て行きました。

 吸血鬼というのは血の赤と闇の黒というイメージですが、これからのトレンドは白衣の吸血鬼かもしれません。

 吸血鬼ではなく白装束の怪しい集団に間違われるかもしれませんけどね。



「須藤様、お客様も落ち着いてきたので、休憩されてはいかがですか?」

 掃除と商品補充をしている僕に、惣菜の調理をしていた愛顔さんが話しかけてくる。

「いやいや、僕はあまり仕事できていないから、その分頑張らなくちゃ。愛顔さんこそ休憩しなよ」

「まあ、素晴らしい理念ですわ。須藤様が休憩しないと言うのなら、私も頑張りますわ」

 ニッコリと笑って仕事に戻る愛顔さん。頑張るねえ。

 本音を言えば、休憩するより元々の目的である万引きGメンがしたい。

 掃除をしながら、こっそりとお客さんを監視。

 怪しい動きをするお客さんがいないか確認します。

 誰か万引きしないかなあ、それをかっこよく捕まえたいなあ。

 ……っと、僕は誰かが万引きをすることを望んでいますね。

 スーパーの店員としてそれはどうなんでしょうか?

 色々自分の考えに疑問を持ちながら掃除兼万引きGメンをしていると、僕の願いが通じたのか怪しい人間を見つけました。

 サングラスにマスクをしており万引き犯ではなく強盗なのでは? と思ってしまいますが、さっきからしきりに辺りをきょろきょろしています。

 こっそりとその人を監視していると、やがてお菓子の箱をズボンのポケットに入れました。確定です、万引きですね。

 そしてそのままその人はお店を出ようとします。勿論万引きGメンとして、そしてスーパーの店員として見過ごすわけにはいきません。

「君、ちょっといいかな」

 お店を出ようとするその人の肩をがっしり掴む。

「え、何すか?」

 サングラスとマスクで顔が見えなかったので男だと思っていたが、女の子のようだ。

「ポケットの中に入れたもの、出してもらえるかな」

「え? ポケットっすか? 構いませんけど」

 言うや否や少女はポケットの中の物を取り出す。自転車の鍵に携帯電話にプリクラ手帳。あ、あれ?お菓子は?

「どうしたんですの、須藤様」

 お店の出口でやりとりをしている僕達を見つけて愛顔さんが駆け寄ってきました。

「あ、愛顔さん。いや、さっきこの人がポケットにお菓子を入れたような気がしたから声をかけたんだけど」

「愛顔? 須藤? 何だよクラスメイトかよ」

「「へ?」」

 驚く僕と愛顔さんを後目に女の子はニヤリと笑ってサングラスとマスクを外します。

 その素顔はクラスメイトの朱身河類しゅみがわるいさんでした。



「「万引きGメンを騙す?」」

 休憩室で僕と愛顔さんは朱身河さんの事情を聞きます。

「そうそう、万引きするフリをして万引きGメンを騙すのが私の最近の趣味なんだよ。須藤君はまんまとそれにひっかかったってわけ」

「ひ、酷い……」

 万引きGメンがしたいという純粋な僕の心を弄ぶなんて、なんて趣味が悪いんだ。

「お菓子は須藤君の見えないところでちゃんと戻してるから安心しなよ。それじゃあ私は別のお店でまた活動するかな」

 うなだれる僕をあざ笑うかのように、スキップしながら朱身河さんは休憩室を出て行きます。

「まったく困ったもんだね朱身河さんにも。ちゃんと確認しなかった僕が悪いんだけどさ」

「いえいえ、正義感が強いことは素晴らしいことだと思いますわ」

 愛顔さんは僕をフォローしてくれましたが、万引きGメンに失敗したという事実が僕を落ち込ませます。

 ああ、名誉挽回がしたい。万引き犯を捕まえたい。

 もやもやとした気持ちで仕事をしていると、再び怪しい人間を見つけました。

 髪型からして女の子のようです。例によってサングラスとマスクをしているので素顔はわかりません。

 彼女は辺りをきょろきょろした後、カバンの中に単三電池を入れました。

 そしてそのまま出口へ向かおうとします。

 僕は彼女を捕まえようとしましたが、また冤罪なのではないか? という思いがそれを躊躇わせます。

 先ほどの愛顔さんの言葉が反芻します。正義感が強いことは素晴らしいこと。

 そうだ、今の僕はスーパーの店員。お店の利益のために、怪しい人には声をかける義務がある。

「君、ちょっといいかな」

 僕はお店を出ようとした女の子に声をかけます。

「ああ、申し訳ありません。出来心ですの。許してください、何でもしますから!」

 すると女の子はぺこぺこと頭を下げる。ん? 今何でもするって……じゃなくてこの声、

「あ、愛顔さん?」

 サングラスとマスクを取った女の子はなんと愛顔さんでした。

「ああ、店員でありながら万引きをしてしまうなんて、こんな悪い私にお仕置きをしてくださいませ須藤様」

「いやいや意味がわからないよ」

 何故か愛顔さんは物欲しげな目でこちらを見てきますが、愛顔さんが出来心で万引きするなんて考えられません。

「……ひょっとして、僕のために?」

 そうか、愛顔さんは朱身河さんに騙されて傷心状態だった僕を慰めるために、わざと万引き犯になることで僕を満足させようとしたんだね。

「ありがとう愛顔さん。さ、仕事に戻ろう」

「……はい」

 何故か不満そうな顔をしている愛顔さんは、電池を元の場所に戻して仕事に戻りました。



 ◆ ◆ ◆

 須藤様が万引きGメンの仕事をしたがっているということを察した私は、

 自ら万引きに手を染めることで須藤様の『万引き犯を捕まえたい』という欲求を満たそうとしました。

 しかし私はただそれだけの理由で万引きをしようとしたわけではありません。

 少しだけ期待してしまったのです。エッチな漫画のように、万引きをした私を須藤様がお仕置きしてくれるのでは? と。

 なんてはしたないことを考えてしまったのでしょうか私は。こんな悪い私をお仕置きしてください須藤様……ああ、また。

 大体須藤様が悪いんですわ、夏休みに入ってからダラダラと怠けて自慰ばかりして。

 監視する私の身にもなってくださいまし!

作者は万引きのフリして万引きGメン困らせたりしてないからね><

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