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アホな女をストーキングしよう

 もうすぐ夏休み。

 しかし、夏休みの前に僕達には試練が襲いかかります。

 テストです。



 僕、須藤王はそこまで頭がいいわけではありませんが悪いわけでもありません。平均レベルですね。

 このクラスで頭が悪い子扱いされている女子は2名。

 1人は要さん。授業中すやすやと寝ており愛らしいため教師に起こされない結果、授業についていけない始末。

 しかし要さんは既に追跡済みですし、最近は頑張って起きてるらしいから大丈夫でしょう。



「わようせっちゅうのさー、和と洋と中はわかるんだけど、せっって何なの?」

「和洋折衷の衷は中じゃねえぞ、てか今世界史の授業だろうが……」

 もう1人は間の抜けた声で間の抜けた質問をして前の席の稲船さんを困らせている彼女、扉法子とびらのりこさん。

 いつもぽけーっとしてるし、勉強はできないしでクラス中に将来を心配されてる子です。

 そこが男子の庇護欲をかきたてるようでクラスでもモテる方ですけど。

 というわけで今回のターゲットは扉さんに決まり。



「今日はテスト勉強ということで自習だ。……と言いたいところだが特にこのクラスで成績悪い奴は先生が特別課題を出してやる。要、扉、お前らのことだ」

 3時間目の英語の授業、担任の教師に直々でアホ扱いされて怒ったのか要さんが文句を言います。

「なっ、酷いですよ先生!先生が私を起こしてくれないのが悪いんじゃないですか!」

「そうかそうか、留年したいのか」

「パワハラですか!?」

 どう考えたって授業中に寝る要さんが悪いのになあ。無情にも要さんの机に課題がドンと置かれます。

「それから扉。……先生な、勉強ができなくてもお前なら生きていけると思うんだ」

「せんせー見捨てんといてやー」

 諦めるような視線を扉さんに向けて、先生は課題を扉さんの机に置きます。

「な、何で私の課題の方が扉さんより多いんですか?」

 要さんが机をバン、と叩いて立ち上がり激昂します。

 恐らくは扉さんは私よりアホなんですから課題が私より多いはずですと言いたいのだろう。

 失礼な話ですね。どっちもどっちだと思うのですが。

「お前と違って扉は居眠りせずに授業は聞いているからな、理解できないだけで」

「くっ……」

 それじゃあちゃんと勉強するんだぞと言って先生は教室を出て行く。

 屈辱に震えながら要さんは自分の課題に手をつけだすも、途中でわからなくなったようで、

「さなぎちゃん、この英単語ってどういう意味なんですか?」

 後ろの席の稲船さんに質問します。

 扉さんも課題に手をつけだすもわからなくなったようで、

「稲船さん、この文法ようわからんのんやけど」

 前の席の稲船さんに質問します。

「だー! 何でお前ら俺ばかりに質問するんだよ! 電子辞書で調べろやそのくらい!」

 アホ女子2名に前後を囲まれた可哀想な稲船さん。



 その後の数学の授業、物理の授業、国語の授業でも扉さんの様子を見ていましたが、

「ねーねー稲船さん、何で数学の授業なのに英語が出てくるん?後右上にあるのは注釈?」

「と、扉……それはな、サインって言う三角関数でな、右上にあるのは累乗で……ああ、何から教えればいいんだ」

 やっぱりアホですね。なんだかんだ言って面倒見のいい稲船さんもお手上げ状態。

 このままでは試験はオール赤点も夢じゃないのでは?



 放課後になりました。扉さんと要さん、稲船さんは図書室へ。試験勉強をするのでしょう。

「お兄ちゃん、桃子は任せた。俺はクラスのアホ女を赤点回避させるために全力を尽くすことにした」

 要さんの面倒は兄に押し付けて、図書室の一角で教科書片手に扉さんにテスト勉強を教える稲船さん。

 乗りかかった船というやつなのでしょうか。あるいは、稲船さんの庇護欲をかきたてたのでしょうか。

「さなぎも大変だな……。で、どこから教えればいいの、要さん」

「なぎさちゃん如きが私を教えられると思ってるんですか?」

「赤点取ったら夏休み補習だから部活の皆で行く予定だった旅行とか行けなくなるよ」

「私頑張ります!」

 要さんペアも気になるけれど、とりあえずは扉さんペアに集中しなければ。

 他に図書室を見渡すと、愛顔さんがテスト勉強をしていました。

 邪魔するのは悪いし、声をかけないでおこう。

 僕はテスト勉強をするフリをしながら、扉さんと稲船さんの二人のテスト勉強の様子を眺めることにしました。



 こうしてテストが始まるまでの10日間、地獄の勉強会が開催されました。

「扉、一応これがテスト範囲だがお前は基礎の基礎からやらないと駄目だと俺は思っている。そんな訳で今日は俺が家で作った課題をやってもらう」

 扉さんのために身を粉にして頑張る稲船さん。

「ありがとなー、ウチのために」

「口より手を動かせ」

 そんな稲船さんの想いに応えるために、扉さんも真剣な眼差しで問題を解いていきます。

 少しずつですが成果は出ているようで、授業中に行われる小テスト、普段よりもずっといい成績を取って先生を驚かせていました。



「あー畜生、もう下校時刻かよ。明日がテスト本番だってのに。お兄ちゃん、桃子、今からファミレス行くぞ。そっちの進捗状況も知りたいし」

 テストの前日、下校時刻を過ぎた後も近くのファミレスで居残り勉強会。

 僕もそれを眺めようと思いましたが、一人ファミレスって苦手なんですよね。

 しかもこの時期は彼女達みたいにドリンクバーで居座る集団がたくさんいますし、

 そんな中に一人ぽつんとファミレスにいるとか辛いですよね。

 孤独に打ち震えながらファミレスの席に座ると、

「あ、須藤様。相席よろしいですか?」

 愛顔さんも来ていたようで僕の向かいに座ります。

「愛顔さん。どうぞどうぞ」

 妥協カップル、というわけではないが(そもそも妥協して愛顔さんとか望みが高すぎる)、一人でファミレスにいるよりは、

 愛顔さんがいてくれた方が心強い。

「ところで須藤様、ご自分のテスト勉強は大丈夫ですの?」

 愛顔さんが心配そうな目で僕を見ます。

「……へ?」



 僕の顔から冷や汗がダラダラと流れます。

 そう、僕はテスト勉強に勤しむ扉さん達を眺めてばかりで、自分は全くと言っていいほどテスト勉強をしていなかったのです。

 まずいぞこれは、女の子をストーキングしていて赤点取りました、とか洒落にならない。

 慌てる僕に愛顔さんはノートを何冊か差し出します。

「これ、授業をまとめたノートですわ。テストに出そうなところとかもチェックしてありますし、よければ」

「愛顔さん……」

「私も微力ながら教えられるところは教えますので、頑張りましょう」

「ありがとう、愛顔さん」

 というわけで、扉さん達を観察するのは中断。自分のテスト勉強に集中します。

 愛顔さんが書いたノートは驚く程わかりやすくまとめられています。

「ここのbatteryは、暴行という意味ですの」

 それに加えて愛顔さんの親切な解説。

 一夜漬けながら、物凄い勢いで僕の中に知識が詰め込まれていきます。

 そして……



「ん…え?朝?」

 ファミレスで目が覚める。時計を見ると、午前7時半。

 どうやら僕は途中で寝ていたみたいです。

 まあ、僕は一人暮らしだし、無断で外泊しても問題ないけどね……って、

「あ、愛顔さん!」

 僕は向かいの席で寝ていた愛顔さんを起こします。

 お嬢様だし、門限とか厳しいんじゃないのだろうか。

 そんな愛顔さんを付き合わして外泊させたなんて大変な事だ。

「んっ……須藤様、おはようございます。申し訳ありません、途中で寝てしまったようですわね」

「本当にごめん!家への連絡とか大丈夫?」

「大丈夫ですわ、私、一人暮らしをしていますから」

 そうなんだ。意外だな。

「さあ須藤様、学校に行ってテストを受けましょう。大丈夫です、あれだけ頑張ったんですもの、結果は出ますわ」

 僕は支払をすませ、愛顔さんと一緒に学校へ。



『あ、この問題真剣ゼミでやったことがある!』と言わんばかりに、テストの問題は愛顔さんがチェックしていた問題とドンピシャ。

 適度な睡眠がファミレスで詰め込んだことを深く脳に染み込ませていたみたいで……




「ありがとう愛顔さん、愛顔さんのおかげで赤点免れたよ」

「いえいえ、須藤様の実力ですわ」

 無事にどの教科も平均点レベルを取ることができた。愛顔さんには頭が上がらないや。

「やったー、赤点回避やー」

「すごく疲れました……」

「お前らよりも、俺とお兄ちゃんの方が疲れてるからな……桃子、お前お兄ちゃん労ってやれよ」

 どうやら扉さん、要さんも赤点は回避できたようです。稲船さんお疲れ様。

 さあ、テストも終わったし、夏休みか。何をしようかな?

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