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エンコー少女をストーキングしよう

 死球をぶつけられた翌日、僕は学校を休んで部屋で安静にしていました。

 朝起きたら何故か氷嚢が新しいのになっていたり、換気した跡があったり、僕は夢遊病なんでしょうか。

 ベッドに寝っころがって、普段見れない平日の昼ドラマを見たりしながらそれなりに病欠の一日を満喫していると、午後5時くらいに部屋のチャイムが鳴る。

 この間注文した双眼鏡が届いたのかな?とベッドから起き上がろうとするが、

「お見舞いに来ましたわ」

 という声と共に、部屋のドアが開いて中に愛顔さんが入ってきた。あれ、鍵閉めてなかったのか。

「あ、愛顔さん。わざわざありがとう」

 きちんと最後まで面倒見てくれるなんて、彼女は保健委員の鑑だね。

「須藤様、ご飯は食べましたの?」

「ああ、ずっと寝てたからそう言えば今日は何も食べてないや」

「それでしたら、須藤様がよろしければ私が作って差し上げましょうか?」

 というか既に作る気まんまんなのかエプロン姿になっているし、材料も持ってきているようだ。

 彼女の好意を無碍にするわけにもいきません。

「それじゃあ、お願いしちゃおうかな」

「はい、台所お借りしますね」

 大人しく甘えることにしましょう。



「はい、おかゆとたまご酒ですわ」

 しばらくすると愛顔さんがお盆におかゆとたまご酒を乗せて僕のベッドの側までやってくる。

 何だかすごくドキドキするな、このドキドキはベッドの下に隠してある(一人暮らしなのに)エロ本が心配だからなのか、女の子にお見舞いされてご飯まで作ってもらっているというシチュエーションによるものなのか。

 しかし素人目にしても愛顔さんの作ったおかゆとたまご酒は美味しそうだし、栄養も凄そうだ。

「はい、あーん」

 愛顔さんはおかゆをスプーンで掬い、ベッドから軽く起き上がっている僕の口へ持ってくる。

「え、そ、それは、自分で食べれるよ」

 流石にあーんは恥ずかしい。

「駄目ですわよ、病人は安静にしてないと」

 しかし愛顔さんの謎のオーラに負けてしまう。

「あ、あーん……もぐ、もぐ、す、すごい美味しいよ愛顔さん!」

 観念してあーんをする。お腹が空いていたという事もあるが、それ抜きにしても愛顔さんの作ったおかゆは素晴らしく美味しい。

「ふふふ、たっぷり食べて元気になってくださいね」

 愛顔さんは天使のような笑みを向けると、再びおかゆを掬ってこちらの口へ。

 しばし至福の時を過ごす。



「それじゃあ、そろそろお暇しますね。ゆっくり休んで、明日には元気な顔を見せてくださいね」

 食器の後片付けまでしてくれた後、愛顔さんは僕の部屋を出ようとする。

「うん、また明日。それと愛顔さん、世話焼きなのはいいけど、こういうことしてたら男に勘違いされちゃうよ?」

 きっと愛顔さんは他の人にもこういうことをしているのだろう、僕を特別扱いする理由もないしね。

 しかし男は単純なので簡単に自分が特別扱いされてると思ってしまうのだ。

「あまりこういうことは言いたくありませんけど、須藤様はどうしようもなく馬鹿ですわね」

「え? え?」

「ふふふ、ではごきげんよう」

 愛顔さんはニッコリと笑って僕の部屋を出て行く。確かに愛顔さんに比べれば頭は悪いかもしれないけど、何故馬鹿扱いされたのだろうか。




 さて、頭痛もしなくなったし、愛顔さんのおかげで元気回復。

 今日も元気に高校へ。

 大抵愛顔さんは僕が教室に入って1分後くらいに教室に入ってくる。

「おはようございます、須藤様」

「おはよう愛顔さん。本当にありがとう」

「どう致しまして。あ、これ昨日の授業のまとめですわ」

 愛顔さんは一冊のノートを僕に差し出して、自分の席へ向かい嬉しそうな顔を絶やさない。

 どれだけ気遣いのできる良い子なのだろうか。

 愛顔さんに貰ったノートを眺めつつ、今日のターゲットは誰にしようかと考える。

 丁度その時教室のドアが開いて、一人の女子が入ってきた。

「……」

 彼女が入った瞬間、クラスの空気が少し淀む。

 茶髪のストレートに悪そうな目つき。バッタモンヤンキーの稲船さんと違って、ガチヤンキーっぽい春尾瓜はるおうりさんだ。

 噂では援助交際とかもしているらしい。

 しかし噂だけで人を悪人だと決めつけてはいけない。援助交際なんて真っ赤なウソ、本当は良い子なのかもしれません。

 それを確認するためにも、今日は春尾さんを追跡することにしましょうか。



 まずは授業中の彼女を観察。

 うんうん唸って教科書をにらめっこするも、やがて居眠りしてしまいます。

 教科書とにらめっこするあたり、一応授業を受けるつもりはあるようですね。



 次はお昼ご飯。教室を出て行く彼女を追跡する。購買で焼きそばパンを2つと牛乳を買った後、屋上へ。

 不良はどうして屋上でご飯を食べたがるんでしょうか。

 しかし、屋上ってカップル多いですね。

 屋上の片隅で外の景色を眺めながら黙々と食事をとる春尾さんは気にしていないようですが、

 僕はちょっと気にしてしまいます。カップルに寂しい人間だと笑われないかと。

 まあ、僕は存在感が無いからそもそも気づかれないかもしれないけどね。

 改めて屋上をぐるりと見渡すと、見知った顔が。

 愛顔さんが僕の方を見ながらベンチに腰かけてお弁当を食べていました。

「やあ愛顔さん。ひょっとして彼氏と待ち合わせ?」

「い、いえ。今日はお天気もいいし、たまには屋上で食べようと思って」

 少し悲しそうな顔をする愛顔さん。愛顔さんには常に笑顔でいて欲しいものだ。

「そうなんだ。僕もたまには屋上で食べようと思ってね。良かったら一緒に食べない?」

 まさかクラスメイトを尾行してますなんて言えるはずもない。誤魔化すようにお昼を誘う。

「よろしいんですの?すごく嬉しいですわ!」

 途端に笑顔になる愛顔さん。喜怒哀楽が豊かでいいことだ。



「はい、須藤様。この里芋は絶品ですわよ。あーん」

「ちょっと愛顔さん、今日はもう病人じゃないんだから」

「知らないんですの?屋上で男女が食事をするときはあーんをしないと駄目という校則があるんですのよ?」

「え、そうなんだ。知らなかった」

 愛顔さんとの昼食を満喫しながら、チラチラと春尾さんの様子をうかがう。

 春尾さんはご飯を食べ終えた後、ポケットからタバコとライターを取り出してそれを吸い始める。

 タバコって美味しいのだろうか、20になったら僕も吸ってみようとは思っているのだけど。

 タバコを何本か吸った後、彼女は校舎の中へと戻って行きます。

 すぐに追いかけたいけれど、愛顔さんを食事に誘っておいて他の女を追っかけるのは失礼極まりないだろう。

 お弁当を食べ終えるまで愛顔さんとの一時を楽しむ。



 お弁当を食べ終えた後、僕と愛顔さんが教室へ戻ると何やら中が騒がしい。

「おいこら春尾! てめえまたタバコ吸いやがったな!」

「あぁ?」

 どうやら稲船さんと春尾さんが喧嘩をしているようだ。穏やかじゃないねえ。

「くせえんだよ!」

「はん、自称ヤンキーの癖にタバコが吸えないからって嫉妬してんじゃねえよ、処女が」

「て、てめえ一番気にしてる事を……ぶっ殺す!」

 稲船さんが春尾さんへ飛びかかります。

 春尾さんは華麗にそれを避けて、哀れにも稲船さんはその向こうにあった机に激突。

 どんがらがっしゃーんと音を立てて、崩れる机に埋まってピクピクする稲船さんを、事情を聞いて駆けつけてきたのか要さんと稲船さんのお兄さんが保健室へ運んでいきます。

 机を片づけて、何事もなかったかのように自分の机に突っ伏す春尾さん。

 机を片づけるあたり責任は感じているのでしょうか。



 放課後になりました。

 学校を出た春尾さんを付け回すこと数十分、ネオン街へと到着しました。

 そして春尾さんはとあるお店の前で待機し始めます。誰かを待っているようです。

 問題はそのお店です。

 はい、ラブホテルですね。

 しばらくすると、スーツ姿の中年のおじさんがやってきました。

「やあ春ちゃん、こんなことしなくても、お金なら少しは工面できるよ」

「いえいえ、余の中ギブアンドテイクですから。今日はよろしくお願いします」

 春尾さんはおじさんと会話を交わした後、ラブホテルの中へ消えて行きました。

 これは間違いなく援助交際ですね、残念ながら彼女は真っ黒だったようです。



 さて、この後僕はどうするべきなのでしょうか。

 流石にラブホテルの一室を覗くのは僕と言えど無理です。

 いや今まで女の子の部屋覗いてた人がいう台詞ではないということはわかっていますけどね。

 そもそもラブホテルに一人で入るとか、一人焼肉以上に難易度高いでしょ。

 そんな訳で彼女の情事が終わるまで、ラブホテル付近で待機。

 夜になって、寒くなってきましたね。うう、寒い。

「わっと」

 どこからともかく、おしるこの缶がこちらへ飛んできました。

 よくわからないけどいただくことにしましょう。ふー、染みる。



 ラブホテルに彼女達が入ってから2時間後、二人は出てきました。

「あの、こんなに受け取れません」

「いいのいいの、貰っときなさい。それじゃあね」

 中年のおじさんは一足先にその場を去っていきます。

 春尾さんもとぼとぼとネオン街を抜けていきます。今度こそ家に帰るのでしょうか、僕もそれを追います。



 彼女の家は、俗に言う長屋というやつですね。かなりボロボロです。

「おねーちゃんおかえりー!」

「ゴハンできてるよー!」

 部屋の中を覗くと、彼女のほかに小さな子供が4人いました。どうやら兄妹のようです。

 小学生が2人、中学生が2人といったところか。

「ほら、これ」

 彼女は兄妹の中で一番年上と見られる男の子に、封筒を手渡します。どうやら援助交際の代金のようです。

「姉さん、ひょっとしてまた」

「しょうがないだろ、こいつらを食わせないといけないんだから。父さんだってきっと帰ってくる、それまでの辛抱だ」

「僕ももっとバイト増やすからさ」

「お前は高校受験で忙しいんだろ?今は勉強に集中してろよ」



 なるほど、何となく読めてきました。

 彼女が援助交際をするのは決してビッチだからではないんですね。

 両親を失い、子供達を育てるために自らを売ったんですね。

 タバコを吸うのもストレスを解消するためには仕方がなかったんでしょう。

 そう考えると、彼女を責めることなんて誰ができましょうか。

 僕はそっと彼女の家のポストに1万円を入れておくことにしました。

 下らないエゴかもしれないけれど。



 ◆ ◆ ◆

 春尾さんを尾行する須藤様を尾行していたのですが、まさか春尾さんにそんな家庭事情があったなんて。

 名家愛顔家に産まれてぬくぬくと温室で育ってきて、一人暮らしをすると言うと両親が感動するという私には耳の痛い事情ですわ。

 エゴかもしれないけれど、彼女の家のポストに5万円程入れておきましょう。



 それにしても、私ったらなんてはしたない。

 ラブホテルの前で春尾さんを待つ須藤様をこっそり見ながら、ずっと私は破廉恥な妄想ばかり。

 妄想が爆発して、須藤様を連れて無理矢理ラブホテルの中に入り犯してしまうところでしたわ。

 けれども実際のところ、男の人は清楚な人間と淫乱な人間、どちらが好きなのでしょうか?

 私としては須藤様は清楚な人間が好きな人間でいて欲しいという願望がありますが、須藤様が淫乱が好きだと言うのなら淫乱な女になりますし、私自身自分が淫乱な女なのではないかと思っている節もあるのです。



 須藤様を追って、自分の部屋へ戻ります。

 監視カメラで須藤様の姿を見ていると、須藤様はどうやら自慰行為をなさるらしくズボンを脱ぎだしました。

 私は顔を真っ赤にして監視カメラを切ります。そして布団の中で悶えるのです。

 そして気づけば私も……い、いえ、何でもありませんわ?


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