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吸血鬼をストーキングしよう

 僕の名前は、須藤王。

 またの名を、『影の追跡者ハイドストーカー』。

 僕の『特殊能力』、それは自らの存在感の消去。

 極限にまで薄められた僕の存在は、対象に感知されることはない…



 おっと、何か僕まで毒されちゃいましたね。

 そうです、今回のターゲットはそういう子です。

「くっ、今日は日差しが強いな、日光は苦手だというのに」

 教室で日光を下敷きで防いでいる、制服の上に黒いマントをはおっており、まるで自分が吸血鬼だとアピールしているかのような彼女がターゲット。

 女郎花血喰おみなえしブラッドイーターさんです。

 何かもう、名前からしてあれですよね。ハーフらしいですけど無理矢理漢字を使う必要あったんでしょうか?

 まあ、僕もさあ、王でキングなんて読み方だけど。



 さて、僕は今までずっと女郎花さんは中二病発症してるただの女の子だと思っていましたが、

 ただの剣道少女だと思っていたら退魔士だった鶴来さんの事もあります。

 ひょっとしたら彼女も本当に吸血鬼なのかもしれないと思い、今回こうしてストーキングに至るというわけです。

 まあ、本当に吸血鬼だったらわざわざそれをばらすようなことはしないだろうし、ないと思いますけどね。

 夜行性の人間なのか、大抵授業は寝ています。

 制服は違反するし授業は真面目に聞かないしで色々問題児ですが、まあ成績が悪いわけでもないし、他人と会話はきちんとできるのでこれでもクラスに受け入れられています。

 むしろ存在感のない僕の方がクラスに受け入れられていなかったり、うう。



 お昼ご飯はトマトジュースとトマトサラダ。

 吸血鬼がトマト好きなのは赤いからじゃなくて、貧血にいいかららしいですよ。

 僕のお弁当は…あれ?こんな中身だったっけ?

 今日は自分でお弁当を作って持ってきたはずだけど、中身が違うような気がする。

 ひょっとして、どこかで誰かのお弁当と入れ替わっちゃったのかな?

 辺りをキョロキョロと見回すと、なんと愛顔さんが僕のお弁当を食べていました。

 ああ、もう半分くらい食べてるし、女の子集団の輪に入って、それ僕のお弁当だしと言うのも何だか気が引けるし、何も見なかったことにして、僕は愛顔さんのお弁当を食べる事にしよう。

 手作りなのだろうか、お嬢様らしく料理も得意なようで実に美味しい。

 愛顔さんの将来の旦那様がうらやましいねえまったく。



 授業が終わったので、学校を出る彼女をいつものようにつきまとう。

 突然カラスが彼女の側に飛んできて、カーカーと鳴きます。

「ふむ、そうか。ありがとう」

 彼女はカラスと会話をしているようで、胡桃を1つカラスに咥えさせ、飛んでいくカラスを手を振って見送ります。

 カラスと会話する、これは何だか本物っぽくなってきましたね。

 その後も彼女をつきまとっていると、やがて行き止まりに辿り着きました。はて、家に帰っているわけではなかったのか。



「隠れてないで、出てこい」

 突如彼女はこちらを向いてそう言います。

 な、ばれただと?まさかばれるとは思ってなかった。油断していた。

 観念して僕は彼女の前に姿を現そうとしましたが、

「ヒヒヒ…ばれちゃあしょうがないね」

 僕より先に、別の男が彼女の前に姿を現しました。あれ?

「何の用だ」

 出てきた男を睨みつける彼女。今時モヒカンの男はニヤニヤと笑って、

「君、吸血鬼なんだろ?まさか正体を隠さない吸血鬼がいるなんて思わなかったよ。悪いけど、賞金のために消えてくれるかな」

 突然彼女にナイフを数本投げだしました。

「断る」

 彼女は宙に舞い、それを避けます。

 そこからモヒカン男と彼女が戦い始めました。

 狂気じみた笑みを浮かべてナイフやら十字架やらを彼女に投げる男。

 それを宙に舞ったり、コウモリに変身したりして避ける彼女。

 男の方が優勢だと思われていましたが、遠巻きに眺めている僕にはわかります。

 彼女はただ避けているだけではないようです。どうやら魔法陣らしきものをこっそりと描いています。

「避けてばかりじゃ俺は倒せねーぞ!」

 口ではそう言いながらも、なかなか攻撃が当たらずに焦っている男に、

「じゃ、倒すよ」

 彼女がニコリと笑うと、突如男の真下から黒い腕が伸びてきて、男はそれに捉えられてしまいました。

 なるほど、さっき書いていた魔法陣はこのためだったのですね。勝負はあったようです。



「私はお前たち、バンパイアハンターを許さない。私の一族を皆殺しにしたお前らを!」

「ひ、ひぃ!許してくれ、命だけは助けてくれ!」

 憎悪を露にし、男の喉元にナイフをつきつける彼女と命乞いをする男。

 まずいな、殺人現場を見てしまうなんてと思っていましたが杞憂に終わったようです。

「殺しはしないさ。殺したら、お前たちと同じになってしまうからな」

「ひ、ひぃっ!」

 彼女が男を解放すると、男は一目散に逃げていきました。



 なるほど、何となくですが、読めてきました。


 ・彼女は本当に吸血鬼

 ・バンパイアハンターに復讐をするため、あえて吸血鬼であることを隠さずにおびき寄せていた


 こんなところではないでしょうか。

 なかなかドラマ性があるんですね、クラスメイトにも。

 ってあれ、彼女の姿を見失ってしまいました。一体どこに行ったのでしょうか?



「で、須藤君は一体何をしてるんだ」

「ひぃっ!?」

 突然耳元で囁かれ、僕は情けない声をあげてしまいます。

 気づけば側に女郎花さんが立っていました。どうやら僕もばれていたようです。

「い、いや、これは、この」

「今日見た事は他言無用だ。私は中二病を発症している、自称吸血鬼の普通の女の子。いいな?」

「は、はい」

「ならいい。ああ、でも愛顔さんはあまり信用ならなかったし、お腹が空いていたので記憶を消すついでに血を吸わせてもらった。介抱してやってくれないか?」

「へ?」

 どうしてここで愛顔さんの名前が出てくるのかわからずにいましたが、彼女はコウモリに変身して飛び去ってしまいました。



 どういうことかわからずに、元来た道を辿ろうとすると、何と愛顔さんが倒れているではありませんか。

 先程の女郎花さんの発言から推測するに、愛顔さんも今の戦いを見ており、彼女が信用ならなかったのと血が吸いたかったので記憶を消すついでに女郎花さんは血を吸って気絶させた、こんなところではないでしょうか?



 どうしようか悩んだあげく、そういえばここは僕のアパートから歩いて近いなと思った僕はとりあえず彼女を自分の部屋に寝かせてやることにしました。しばらくして目を覚ました彼女は、顔を真っ赤にして、僕にお礼を言って去って行きました。良い事すると気持ちがいいね。



 ◆ ◆ ◆

 どうやら私は須藤様を追っている途中に何者かに不意をつかれて気絶させられてしまったらしく、気が付けば須藤様に介抱されてしまいました。介抱されたのが嬉しいと思う一方、なんと情けないという気持ちもあります。

 とはいえ私も女です、素直に須藤様に介抱されたことを喜びましょう。


 それにしても、今日の記憶があやふやですわ。

 須藤様のお弁当と私のお弁当を入れ替えたのは覚えているのですけど、放課後に私はどうしてしまったのでしょう?


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