文学少女をストーキングしよう
毎度お馴染み、須藤王です。
洗濯物を取り込まずに古本屋に行ったら、土砂降りになってしまい、こりゃあ洗濯物がずぶ濡れになるな…と思っていたのですが、帰ったら何故か洗濯物は取り込まれており、きちんと畳まれていました。
出かける前に取り込んでたのかなぁ?まあいいか。
今日は文学少女・本野鳥子さんをつきまとってみましょう。
ここのT字路で前に本野さんを見かけたので、そこで朝早くから待機。
出てきました、彼女は歩きながら本を読んでいます。危なっかしいですね。
けれども慣れているのか、他人にぶつかることも車に轢かれることもなく、すいすいと学校まで本を読みながら歩いて行きます。
「うぎゃあ!」
むしろ彼女をつきまとうことに集中するあまり、僕が電柱に激突してしまいました。
顔を思い切りぶつけた僕はその場にうずくまります。おでこの辺りから血が流れてきました。
周りの人は誰も心配してくれません、僕が存在感がないからなのか、もう日本に情のある人間はいないのか。
「す、須藤様!?大丈夫ですの?」
まだまだ人間も捨てたもんじゃないようです、愛顔さんが駆け寄ってきて心配そうに僕を見つめます。愛顔さんはハンカチを取り出しておでこの血を拭き、可愛らしい絆創膏をペタっと貼り付けました。
「ありがとう、愛顔さん。ハンカチ、弁償するよ」
「い、いえ!別に構いませんわ!」
愛顔さんは顔を赤くして、学校へと走り去って行きました。
さて、教室についたので監視を始めますが休憩中もやはり本を読んでいますね。
授業中は教科書を読んでいますね。
お昼ご飯は片手で食べられるサンドイッチ等を食べながら本を読んでいますね。
ところでどんな本を読んでいるのか気になりますが、残念ながらカバーがついているので遠巻きに見るだけではわかりません。
どこかで彼女が本を手放すタイミングはないものかと待っていましたが、トイレに行く時も本は放さない、体育の授業の時はカバンに入れてそれごと更衣室へ持っていく、ということで彼女は本を手放してはくれませんでした。
そんなこんなで放課後。彼女は図書室へ行きます。
1冊の本を棚から抜きだした彼女はテーブルに座ってそれを読み始めます。
図書室の本にはカバーなんてついていないので、遠巻きに見てもタイトルがわかります。
『目指せスチール缶潰し!握力アップのススメ』
え、何その女の子が読みそうにないタイトルは。ちょっとどんな内容なのか興味が湧きましたね。
おっと、図書室に来て何もせず女の子を見つめているというのはちょっと不自然かな。
今日は金曜日だから要桃子さんが図書室で当番をしている。完全に寝ていて相方が一人で仕事する羽目になってるけど。
そんな要さんをファンクラブの人間がちらちらと見ているようですが、彼等も一応本を読んだり、勉強するフリをしています。
カモフラージュのために僕は近くにあった棚から本を取り出そうとしますが、
「あっ」
そこでラブコメよろしく愛顔さんの手と触れあってしまいました。
「も、申し訳ございません須藤様、須藤様の読もうとなさる本を取ろうとしてしまって」
ペコペコと謝る愛顔さん。朝の一件といい、むしろ僕がペコペコ謝らないといけないのに。
「いやこちらこそごめん、別にこの本じゃないと駄目ってわけじゃないから、はい」
カモフラージュ目的だし、本は別に何でもいいからね。僕は愛顔さんが取ろうとしていた恋愛小説を手渡す。
「あ、ありがとうございます、一生大切にします」
顔を赤くしてテーブルへ向かう愛顔さん。いや、図書室の本だから一生大切にされたら困るんだけど。
さて、僕はこの『可愛い女の子にストーカーされる男の本』にしよう。
「下校時刻になったから閉めますので、お帰りくださーい」
「あ、あれ?何でもう6時なんですか?」
図書委員の声で我に返る。
しまった、ついつい『可愛い女の子にストーカーされる男の本』が面白くて本来の目的を忘れていた。
辺りを確認する、図書室にいるのは図書委員の2人と僕と愛顔さんと、よかった、本野さんもいた。
学校を出る本野さんの追跡を開始。
高校近くの古本屋に入り、そこで少女漫画を読み始めました。
この分だと、お店が閉まるまで本を読むのではないでしょうか?
しかし、少女漫画か。僕も読んでみたいとは思っているんだけどね。
少女漫画コーナーに男って入りづらいじゃん。
少年漫画は普通に女の子でも読めるのに、酷い話だよね。
少女漫画を読む本野さんを羨ましそうに見ていると、
「あの、須藤様、何かお困りですの?」
愛顔さんに声を掛けられる。愛顔さんって古本屋とか来るんだ、意外だな。
「あ、愛顔さん。実は少女漫画読みたいと思ってるんだけど、コーナーに行くの恥ずかしくてね」
「でしたら、私がお勧めの漫画を取ってきますわ」
言うや否や、愛顔さんはコーナーに出向いて数冊の少女漫画を取ってきてくれた。
「ありがとう愛顔さん、恩に着るよ」
「いえいえ、どういたしまして」
僕にニッコリと微笑むと、愛顔さんは自分も本を探して読み始める。
さて、愛顔さんに勧めてもらった漫画を読みつつ、本野さんを監視するか。
またやってしまった、本野さんが帰り支度をはじめてるじゃないか。
愛顔さんに勧められたこの漫画が面白すぎるのがいけないんだよ。
夜10時くらいに古本屋を出た本野さんを尾行。
さっきちらっと見た時、まだ愛顔さんがいたけど、門限とかないのかな?
古本屋から20分程で彼女の家に到着。
毎度お馴染みお部屋チェック。どうせ本ばっかりなんだろうなと思ったらそうでもなかった。
まあ僕の部屋よりかは本はあるけれど、本の山という程でもない。
彼女は部屋に入るとワープロを開いてカタカタとタイピングをしている。
ひょっとして小説でも書いているのだろうか?読むのも書くのも、本が大好きなんだね。
さて、今日は古本屋で立ち読みしすぎたせいか脚が痛いよ、帰って寝よう。
◆ ◆ ◆
ああ、須藤様の血のついたハンカチ、なんてかぐわしい香りなのでしょう!
一生大切に保管しなければ。
それに今日は図書室で須藤様と手が触れあうなんて、これはきっと運命ですわ!
古本屋でも須藤様の役に立てましたし、今日は何て素晴らしい日なのでしょう。
ああ、それにしても漫画をうろうろしながら立ち読みして、店員に注意される須藤様可愛らしかったですわ。
…そういえば須藤様、あれだけ立って漫画をお読みになって、足が痛くなってるのでは?
明日あたり、筋肉痛にでもなったら大変ですわ。
「すー…すー…」
隣の部屋から須藤様の愛らしい寝息が聞こえてきました。
私は部屋を出て須藤様の部屋にお邪魔して、須藤様の足をマッサージしてあげます。
「んっ…うふふ…」
私が須藤様の足を揉むと、須藤様はとても気持ちよさそうな顔。
ああ、できることなら口づけをかわしたいところですけど、大和撫子たるもの自重せねばなりませんわ。
さて、これくらいマッサージすれば大丈夫でしょう。おやすみなさいませ、須藤様。
今更だけどホラーでいいのか…?