剣道少女をストーキングしよう
こんにちは、須藤王です。
最近冷蔵庫の中に高級食材が入っていたり、棚に健康食品が置いてあったりします。
こんなものを買った覚えはないのだけど、アルツハイマーでしょうか?
まあカップラーメンばかり食べるのもあれですし、食べちゃいましょう。
さて、今回は誰をストーキングするかと言いますと、同じクラスの鶴来一閃さん。
名前からして剣士って感じのする彼女は、凛としています。
しかしクラスにあまり馴染めていないというか、彼女自身周りと距離を置きたがっているというか。
しかも授業中に突然抜け出すこともある問題児。一体何をやっているのやら。
そんなミステリアスな彼女の秘密を暴いちゃいましょう。
彼女はどうやら高校近くの道場の娘みたいですね。
今日は朝早くから彼女の家に張り付きます。
『鶴来道場』と書かれた古風な建物。こういう所の人って朝早く起きて練習するというイメージがありますが、鶴来さんもその例に漏れないようです。
僕が朝の6時にこの家に来たときには、既に中で剣道着姿の彼女が素振りをしていました。
「キェエエエイ!」
絵になりますね、彼女の素振りは。まさに剣道をするために産まれてきた女性って感じです。
でも正直剣道好きじゃないんですよね、臭いじゃん。
その後7時半まで練習を続けた後は、どうやらお風呂へ行くようです。
流石にお風呂を覗くのは駄目ですよね、そこらへんは守ります。
家の近くで彼女が登校するのを待ちます。やがて彼女が家から出てきました。
今日も竹刀を携えていますね。彼女は気配の察知とか何となく鋭そうなので、今回は40m離れて追跡することにします。
特にイベントもなく学校についてしまいました。
途中で猫を見つけて少女のような顔をする鶴来さん、とかそういうギャップ的なイベントがあると思ったんですけどね。
「お、おはようございます、須藤様」
正門で愛顔さんに声を掛けられます。
「おはよう」
クラスメイトを様付けってどうなんだろうか、お嬢様ってそんなものなのかな?
その後授業中の彼女を観察するのですが、これがまた見事に何もありません。
授業は真面目に聞いていますし、お弁当も質素なおにぎり3つのようです。
まあ僕なんて昼食がカップラーメンですけどね。今日は朝早くからストーキングしないといけなかったから、お弁当が作れなかったんだ。
「あ、あれ?お弁当作ったっけ?」
カバンからカップラーメンを取り出して、学食のポットでお湯を入れて食べる予定でしたが、何故かカバンにカップラーメンは入っておらず、代わりに豪華そうなお弁当箱が。
正直不気味でしたが、美味しそうだし食べることにします。うん、美味しい。
豪華そうと言えば、愛顔さんのお弁当はどんなものなのだろうとこっそりと盗み見。
うわあ流石はお嬢様。豪華そうな食材をたっぷり使っている。
ってあれ、僕がさっき食べたお弁当とおかずとかが似通っているような?偶然かな?
事件は5時間目に起きました。
鶴来さんが「すみませぬ、トイレに行って参ります」と授業を抜け出したのです。
怪しい、トイレなら昼休憩に行くチャンスがたっぷりあったはずなのに。
しかも彼女が授業を抜け出すことは1度や2度ではありません。
そもそもその授業中に帰ってこない事もしばしば。絶対にトイレではありません。
「すいません、自分もトイレに」
僕は嘘をついて教室を出て、鶴来さんを追いかける。
「わ、私も」
「なんだなんだ急に鶴来も愛顔も、昼休憩にすませておけよ」
愛顔さんの声と、教師の声が聞こえた。あれ、僕は無視ですか?
僕の読みは大当たりだったようで、鶴来さんはトイレに行かずに校舎を抜け出しました。
僕もそれに続いて鶴来さんを尾行します。
やがて鶴来さんは人気のない路地裏へやってきて、辺りを見回します。
「…誰もいないな、よし」
鶴来さんは僕に気づいていないようですね。
「結界!」
やがて彼女は竹刀を地面に突き刺し、そう唱えます。
するとどうでしょう、辺り一面が音のない灰色の世界に。
しかもいつのまにか彼女の竹刀が真剣になっているではありませんか。
更に、
「グギャアアアアア!」
黒い化け物が現れて、鶴来さんに襲いかかります。
「ふんっ!」
それを剣で一刀両断する鶴来さん。
僕の頭でも段々と理解が追い付いてきました。
推測ですが、
・鶴来さんは退魔士かなんかだと思う、黒い化け物を退治する仕事なんだよきっと
・この場所は化け物と戦う際に周りに迷惑がかからないようにセッティングされた結界の世界
・そして鶴来さんの近くにいた僕はそれに取り込まれてしまった
こんなところではないでしょうか?
「ギャアアアアアアア!」
突然、後ろで悲鳴。振り向くと、そこには断末魔をあげて消滅していく化け物が。
どうやら僕に襲いかかろうとしたけれど、やられてしまったようですね。
いや、誰に?鶴来さんは僕の見ている場所で絶賛戦闘中なのに。
◆ ◆ ◆
あ、危なかったですわ、もう少しで須藤様が襲われてしまうところでしたわ…
クラスメイトの鶴来さんを追って須藤様が教室を出ていったので、私、愛顔萌伊もそれを追っかけていると、気づけば灰色の世界に須藤様共々迷い込んでしまいました。
推測するに、
・鶴来さんは退魔士か何かであり、日々化け物と戦っている
・この場所は化け物と戦う際に周りに迷惑がかからないようにセッティングされた結界の世界
・そして鶴来さんの近くにいた須藤様と私はそれに取り込まれてしまいました
こんなところではないでしょうか?
全く、鶴来さんが化け物と戦おうがご自由ですけれど、須藤様を巻き込まないでくださいまし。
さっきだって、私が護身用に持っていた薙刀がなかったらと思うとぞっとしますわ。
ああ、それにしても化け物に怯えて辺りをきょろきょろする須藤様、可愛らしいですわ。
大丈夫です、この愛顔萌伊、全力で御守りいたします。
「ヒヒヒヒヒ…」
「何者ですの?」
邪悪な気配を感じた私が薙刀を構えて振り向くと、そこには一際大きな化け物が。
ひょっとしたら化け物集団のボスではないでしょうか?
「お嬢ちゃんはなかなか負の心を持っているね、どうだい、私と手を組まないかい?」
この化け物は人語を理解できるようで私に話しかけてきます。
手を組む?どう言う事ですの?
「君、あそこの少年が好きなんだろう?」
「な、なぜそのことを?」
化け物に私の気持ちを看破されてしまい私は動揺してしまいます。
「私は人間の負の心を読み取ることができる、君の異常な愛情しかと確認したよ。どうだい、私と手を組めば、あの少年は君の虜にできる。悪い話ではないだろう?あそこで戦っている剣道少女を一緒に倒してくれればいいんだ」
須藤様を私の虜に?悪い話ではないですね、答えは勿論、
「ノーに決まっていますわ」
最悪の話ですわ。須藤様の心を操ってまで結ばれようなど、大和撫子失格。
「交渉決裂か、残念だよ…死ね!」
化け物は残念そうに笑うと、私に襲いかかってきました。
「愛顔流奥義、添血霧幼駿禍讐凍告死夢葬斬!」
「ギャアアアアア!ば、馬鹿な、退魔の力も持たぬ小娘ニィィィィィイ!」
私の薙刀術が華麗に決まり、化け物は細切れとなって断末魔をあげて消滅しました。
「残念でしたわね、愛顔家の祖先は陰陽師ですわ…しかし、力を使い果たしてしまったようですわね」
こんなことなら薙刀なんて時代遅れだと思わずに、きちんと鍛錬するべきでしたわ。
私は気を失ってしまいます。ああ、どうか須藤様が御無事でいられますように。
◆ ◆ ◆
僕は化け物が襲って来ないか辺りを確認しながら、鶴来さんの戦いを見守っていました。
後ろで何だか戦いがあったような気もしますが、気のせいですよね。
突然鶴来さんと戦っていた化け物達が悲鳴をあげて一斉に消滅しました。
「む、さっき倒したのが敵のボスだったのか?手ごたえがなかったが…まあいい、妖魔の気配は消えた」
鶴来さんは首をかしげながらも、何やら呪文を唱えて剣を地面に。
すると、今度は灰色ではない、元の世界に戻ってきました。戦いは終わったということでしょう。
「くっ、6時間目になってしまった、トイレが長すぎると思われてしまう!すぐに戻らなければ!」
鶴来さんは慌てて学校へ戻って行きます。
興味本位でストーキングしてみたけど、まさかこんなことになるなんて。
これ以上巻き込まれるのは嫌なのでもう彼女に近づくのはやめておきますけど、陰ながら彼女を応援することにしましょう。
「あれ?愛顔さん、どうしたの?」
僕も学校に戻ろうとしますが、近くになんと愛顔さんが倒れていました。
トイレに行ったはずなのに、どうしてこんな所で倒れているんだろう?
しかし倒れているクラスメイトを見過ごすわけにもいきません、僕は彼女を抱えて保健室まで運び、寝かせてやります。さて、いい加減僕も教室に戻らないと、トイレが長すぎるどころの話ではない。
◆ ◆ ◆
何だかすごくいい夢を見ていた気がしますわ。須藤様に抱きかかえられる夢…
目が覚めたら、私は保健室で寝ていましたわ。あの後親切な誰かが運んでくれたのでしょうか?
も、もしや、須藤様が私を?あれは夢ではなかったと?きっとそうに決まっています!
私を介抱してくれるなんて、やはり須藤様は素晴らしい殿方ですわ!
さあ、早く教室に戻って須藤様の顔を1秒でも多く見なければ。
それにトイレが長いと思われてしまいますしね。