愛顔さんに告白しよう
「愛顔さん……愛顔さん……うっ」
一度恋したらもう止まらない、恋愛暴走特急と化した僕は愛顔さんを想うと右手がとまらない。
愛顔さんをストーキングしようと決めたその日から、ほぼ毎日愛顔さんの下校を追跡しているのですが、
いつも途中で見失ってしまいます。一体どこに住んでいるんだろうか?
この日も僕が学校へ行くためアパートを出ると、丁度愛顔さんと鉢合わせしました。
「おはようございます、須藤様」
「……おはよう、愛顔さん」
愛顔さんの笑顔が眩しい。その笑顔に僕は罪悪感で押しつぶされそうになる。
こんな愛らしい愛顔さんを、僕はここ数日つけまわしているなんて。
思い切って聞いてみようかな、どこに住んでいるのとか、好みとか。
……駄目だ、僕には駄目だよ、僕はただのへたれストーカーなんだ。
こうして好きな人と一緒に登校しているっていうのに、結局朝の挨拶しかできずに学校についてしまった。
もうすぐクリスマスだってのに。
愛顔さん、恋人とかいるのかな。クリスマスは、好きな人と過ごすのかな。
ていうか愛顔さんくらい可愛ければ、いるよなあ。
「須藤様は、クリスマスパーティー参加なさるのですか?」
学校でもやもやした気持ちになっていると、隣の席の愛顔さんが話しかけてくる。
クリスマスパーティーというと、クリスマスに高校全体を使って行われるという、アレか。
あんなもの、恋人のいない寂しい人間が傷を舐めあうためのイベント。
「愛顔さんは行くの?」
逆に愛顔さんに問う。愛顔さんが行くなら行くし、愛顔さんが行かないなら行かないよ。
それくらい今の僕は愛顔さんにゾッコンなんだ。
「須藤様は行きますの?」
しかし愛顔さんは予定を教えてくれず、僕の予定を聞こうとする。
僕が行くって答えて愛顔さんが行かないと答えても、
僕が行かないと答えて愛顔さんが行くと答えても駄目なのだ。
「愛顔さんから先に答えてよ」
「須藤様から先に答えてください」
両者一歩も譲らない。
しかし愛顔さんの予定が気になる僕はまだしも、どうして愛顔さんが僕の予定を気にするのだろうか。
……まさか。
マイナス思考な僕はとある仮説を提起する。
愛顔さんは僕の予定を聞いた後、逆の返答をするつもりなのではないだろうか。
有り得ない話じゃない、愛顔さんが僕を嫌っている可能性だって十二分にある。
ひょっとしたら、僕が愛顔さんをストーキングしていることだって、ばればれなのかもしれない。
だとしたらいつも途中で見失ってしまうのも納得が行く。
住所を突き止められたくないから愛顔さんは途中で僕をまいているのだ。
そうだ、そうに違いない。優しいから直接僕にそれを咎めないだけで、愛顔さんはきっと全部知っているんだ。
でもクリスマスまでつきまとって欲しくないから今回は先手を打たれているんだ。
「……僕は行くよ、クリスマスパーティーに」
諦めよう、僕の方が折れよう。
きっと愛顔さんは行かないのだろう、そしてクリスマス当日は恋人と楽しく過ごすのだろう。
その時に自分をストーキングしている気持ち悪い男がいると話のタネにするのだろう。
「そうですの、私も行きますわ、楽しみですわね」
ほうら愛顔さんはクリスマスパーティーに行く……あれ?
その日の帰り、体が勝手に愛顔さんの下校を追いかけ、途中で見失い、諦めて自分の部屋に戻り布団で一人考える。
クリスマスパーティーで愛顔さんと一緒になれるなんて。
愛顔さんが僕を嫌っているとかストーキングに気づいているとか、僕の考えすぎなのだろうか?
愛顔さん、僕の事をどう思っているのだろうか。よく話しかけてくれるし、二人組作ってくれるし、実は僕の事を好きなんじゃないだろうか?
気になる、愛顔さんの気持ちが。
告白しよう。クリスマスパーティーの日に。
フラれたら、ストーキングなんてきっぱりやめよう。
そうと決まれば、告白の言葉を練らないと。
◆ ◆ ◆
「須藤様、須藤様ぁ……」
隣の部屋にいる須藤様には聞こえないように喘ぐ、恋の暴走通勤ライナーと化した私は右手が止まりません。
今までの須藤様は、クラスの女の子をストーキングしてもすぐにターゲットを変えていました。
けれど今の須藤様は、数日ずっと私をストーキングしています。
ひょっとして、須藤様は私の事が好きなのでしょうか?
ああ、気になります、須藤様の気持ちが。
告白しましょう。クリスマスパーティーの日に。
フラれたら、フラれたら……
……できるのでしょうか、私に、潔く身を引くことが。
不安に苛まれながらも、告白の言葉を練りはじめます。
◆ ◆ ◆
クリスマスパーティー当日。
スーツでピシッと決めて高校へと行くと、
「あ、須藤様。とても似合ってますわ」
そこにはドレス姿の愛顔さんが。最高に似合ってる。
クリスマスパーティーが始まっても、愛顔さんとロクに話すこともできず、ただただ料理食べているだけというコミュ障っぷり。やっぱ行くんじゃ無かったかな……
「そういえばこのクリスマスパーティーで告白する人って結構おるらしいよ」
「そうなんですの。……実は私も今日、告白するつもりなんですわ」
しかし料理を食べながらもクラスメイトと談笑している愛顔さんの発言は一字一句聞き逃さない。
……告白?
つまり、愛顔さんは好きな人がいて、この後その人に告白すると。
……終わった。僕の青春、終わった。
思わず食べた料理を吐いてしまいそうになるが堪える。
しかしもう僕の精神はボロボロだ。告白しようと思っていたら相手が別の人に告白するだなんて。
気づけば涙がポロポロと。情けないなあ僕って。
それにしても、愛顔さん、誰に告白するんだろうか、気になる。
クリスマスパーティーが終わり、愛顔さんは高校を出て行く。
僕は涙目になりながらもその後をつける。
フラれてはいないから、ストーキングしたっていいよね。
気になるもんは気になるんだよ、愛顔さんの好きな人。
愛顔さんを幸せにできそうな人間か、この目で確かめてからでも、ストーキングをやめるのは遅くないじゃないか。
今日こそは途中で見失わないようにしてやると注意深く愛顔さんを尾行していると、やがて僕のアパートの前へ。
「あ、あれ?」
まるで愛顔さんがその場で瞬間移動でもしたかのように、僕の視界から消えてしまう。
一体どこに消えたんだと僕は辺りをきょろきょろと探すも見つからない。
ドスッ
「……へ?」
突如背中に鈍い衝撃が走ったかと思うと、体が動かなくなり、やがて意識も消えていく。
「……ここは……僕の部屋?」
目が覚めた時、僕は自分の部屋のベッドで寝ていた。
確か僕はアパートの前で、誰かに襲われて? 気絶したはずだ。
なのにどうして自分の部屋で寝ているんだ?
「目が覚めたようですね、須藤様」
「だ、誰……ってええっ!?」
自分の部屋なのに声をかけられ、びっくりして声の主の方を向くとそこには、
「気絶させてしまい、申し訳ありませんでしたわ、須藤様」
何故かメイド服姿の愛顔さんが顔を赤らめながら申し訳なさそうに微笑んでいた。
理解が追い付かないながらもとりあえずベッドから起き上がろうとしますが、
「……へ?」
手も足も動かない。……縛られてる!?
じたばたともがく僕に、愛顔さんが覆いかぶさり、顔を近づけてくる。吐息がこそばゆい。
「あ、愛顔さん? これをやったのは君なの? ど、どうして」
「だって須藤様、少女漫画のような告白をされたいと言っていましたから」
いや確かに昔、少女漫画みたいに無理矢理俺の物になれよとかされる告白シーンに憧れてる的な事を言った気はしますがあくまでも願望であって現実にそんな告白をされたらって告白!?
「ひょ、ひょっとして愛顔さんの告白の相手って」
顔を真っ赤にしながら愛顔さんに問いかけると、答えは言葉ではなく、
「んっ……」
強引な口づけで返されてしまった。愛顔さんと僕の唇が触れ、口の中に愛顔さんの舌が入り込んできてくすぐったい。
「ぷはっ」
数秒ほどしてようやく口が解放される。もう僕の顔は真っ赤っ赤、茹蛸状態だ。
同じくらい顔を赤くした愛顔さんはとろんとした目つきで僕に微笑みかける。
「須藤様が悪いんですのよ、私はもう我慢できませんわ」
好きです須藤様、そう言いながら愛顔さんは僕の服を脱がしにかかる。
「ま、待って、せめて拘束ほどいてよ」
僕にはそう言うだけで精一杯だった。