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担任の先生の良い所を見つけよう

 もうすぐ文化祭。5組と合同でお化け屋敷をすることになった我らが4組は連日遅くまで残って作業をしています。

「須藤様、とてもお似合いですわ」

 愛顔さんの作ってきたゾンビのお面を被ってみたのですが、似合ってるというのは褒め言葉なんだろうか。

 そんな感じに文化祭の準備をしていると、

「みんな遅くまでお疲れ様。あったかい飲み物買ってきたわよ」

 担任の先生で英語の教師でもある城所荒久根きじょあらくね女史がコーヒーやおしるこの入った袋をかかえてやってくる。

「先生気がきくぅ~」

「良いお嫁さんになれるよ先生なら」

 大人をからかわないの、と言って先生は教室を去る。

 先生がいなくなったのを確認すると、

「先生今年のクリスマス孤独に過ごすのかな」

「良い先生だから早く素敵な人見つけて欲しいね」

 クラスメイトの女子が方々に先生の心配をしだす。

 先日30歳の誕生日を迎えた先生、指輪もしていないし、浮いた話も全然ありません。

 生徒の悩みに親身になってくれる非常に良い先生だけど、自分の幸せも見つけて欲しいだのと女子は勝手な事を言っています。これは男の僕目線の考えですが、こいつら自分たちが若いからってお節介じゃないんでしょうかね。

「今は未婚の人も増えてるみたいだし、結婚だけが女の喜びだとは思わないなあ、愛顔さんはどう思う?」

 ブラックライトを設置している愛顔さんに聞いてみますが、

「増えていると言っても、それは男の人の話ですわ。まだまだ独身の女性は結婚『しない』ではなく、『できない』と見られるんですの、先生頃の未婚の女性が焦るのも止む無しですわよ。女性最大の武器ともいえる子供を産む能力だって、年をとりすぎれば障害を持った子供が産まれる可能性がグンと高くなりますからね」

 なるほどねえ。それにしても愛顔さん結構キツいこと言うんだな。それだけそういう話題には関心があるということか。

「ちなみに愛顔さんは、何歳くらいに結婚したいの?」

「19歳になる1日前ですわ」

「中途半端じゃない?」

「男の人は、18歳にならないと結婚できないんですわよ」

 愛顔さんの言っていることがよくわからないけど、18歳か。

「実は僕、誕生日が4月1日で、超早生まれなんだよね。小学校の頃は同学年に比べて成長が遅くて苦労したよ。愛顔さんの誕生日はいつなの?」

「私は4月2日ですわ、超遅生まれですわね」

「ってことは、実質愛顔さんは僕より1つ上なのか。これから愛顔先輩って呼ぶよ」

「やめてくださいまし」

 道理で大人びてると思ったわけだ。

 それにしても結婚か。結婚しなくても生きていけるとは思うけど、やっぱり独身の寂しい生活は嫌だなあ。

 そう考えたら、僕もクラスメイトの女子と同じく先生が心配になってきた。

「やっぱり、出会いがないんだろうね。教師って忙しいだろうし、特に城所先生は僕達のために時間を割いてそうだから」

「この高校、若い男性教師少ないですからね……何だか先生がいつも頑張っているのも孤独をまぎらわせるためな気がしてきましたわ」

 うーん、それは切ない。

「この間職員室でアルバムのようなものを見ている城所先生を見かけましたが、あれはひょっとしてお見合い用だったんじゃないでしょうか……そうですわ、お見合いをすることになったらそれがスムーズに行くように、私達で事前に先生の良い所をまとめるというのはどうでしょう」

 女の子はそういうの好きだよね、自分の恋愛がうまくいかないから他人の恋愛を応援する子とか。

 いや、愛顔さんをディスってるわけじゃありませんけどね。……って私達?

「僕も?」

「当たり前ですわ。日頃お世話になっている先生のためですもの、勿論須藤様も手伝ってくれますよね?」

「も、勿論だよ」

「ふふふ」

 最近、愛顔さん押しが強い性格になってきている気がするんだけど、気のせいかな?



 そんなわけで僕達は城所先生をチェキすることになりました。

 いつもは先生が僕達を見るけれど、今回は立場が逆です。

 文化祭の準備期間は下校時間を過ぎても学校に残っていいため、先生が学校を出るまでじっくりと待っていられます。

 職員室で自分の席に座っている先生を、愛顔さんが遠くから双眼鏡で覗きます。

「生徒についての資料を作ってるみたいですわね。成績や性格、長所や短所などをまとめています。就職活動や大学受験に役立ちそうですわね。面倒見がいいというのは母親に求められる条件ですわ、教師をやっているくらいだから子供好きというのもポイント高いですわね」

「ちなみに今は誰の資料を作ってるの?」

「要さんですわ。成績は最下位レベル、運動神経もよくない。性格はやや人見知りでわがまま。文学、アパレル関係の仕事に興味あり」

「結構辛口評価だね。まあ、要さんはどうせお金持ち捕まえて玉の輿でしょ」

「今でも仲の良い男友達が財閥の御曹司ですしね」

 勉強できなくても性格悪くても、あれだけ可愛ければ人生勝ち組だよね。

「でもその結婚も離婚して慰謝料ふんだくる前提なんだよ、なんとなく悪女っぽいし。その後は貧乏なイケメンをヒモとして飼うんだよ」

「まあ、失礼な想像ですわね。いくら須藤様でもそういう事を言うと怒りますわよ」

 要さんの将来を勝手に想像していると、愛顔さんがメッをしてくる。

「本当に失礼ですね。そうだ須藤君、文化祭で女装コンテストがあるらしいですから出てくださいね」

 ドスの効いた声に振り向くと要さんがニコニコと、しかし明らかに怒りのオーラを滲ませていた。

 口は災いの元。こうして僕は文化祭で女装する羽目になったのだがそれは別のお話。

 そして愛顔さんはなぜガッツポーズをしているんだ。



 午後7時半、先生が学校を出たため僕達も後に続く。

 先生の向かった先は、スポーツジムだった。

「ここで汗を流すつもりですわね。女性は油断するとすぐに太ってしまいますからね、きちんとシェイプアップして自己管理のできる女性というのはポイント高いですわよ」

「へえ、ちなみに愛顔さんは何キロあるの?」

「いくら須藤様でもそういう事を言うと突きますわよ」

 愛顔さんの常備している折り畳み式薙刀が僕に突きつけられる。ひい、女の子にこういう話題を持ちかけては駄目だね。

「ごめんごめん、冗談だよ」

「ちなみに須藤様より9キロ軽いですわ」

 結局体重言うのか。えーと、僕が60だから、愛顔さんが51か。勝手に女の子の体重は40くらいだと思ってたけど、結構あるんだな……ってあれ、何か今の流れおかしくないか?

「そ、それより須藤様、外は寒いですし私達も中に入って汗を流しましょう。ジャージも洗濯のために持ち出していますし」

 はぐらかすように愛顔さんは僕の手を取りジムの中へ連れて行く。

 ルームランナーでランニングをしている先生を眺めつつ、僕達もジム内の器具を色々使ってみる。

「一度やってみたかったんだよね、バーベル挙げ」

「ファイトですわ」

 仰向けになってバーベルを持ち上げようとするが、これがなかなか持ち上がらない。

 顔を苦痛にまぎれさせ、やっとのことで持ち上げて戻した時、既に僕の腕はガクガクだ。

 愛顔さんも同じ重さのバーベルにチャレンジ。特に苦労する様子もなく、あっという間に5回持ち上げてみせた。

「愛顔さん、僕よりマッチョだね」

「いくら須藤様でもそう言う事を言うとバーベルを投げつけますわよ」

 あはは、それはシャレにならないからやめてね。

「それにしても、スポーツジムってスポーツ選手ばかりいると思ってたけど、主婦っぽい人とか多いんだね」

 バーベル挙げなどをしている人は少なく、ほとんどの客はエアロビクスをしている。

「結婚したら太りがちになってしまいますからね、男性は仕事に勤めているうちにカロリー消費ができるかもしれませんけれど、女性、特に専業主婦なんかはそうもいかないですから。永遠に続く女の悩みですわ」

「何で結婚したら太りがちになるの?」

 そこの論理がよくわからない。

「例えば須藤様がお相撲さん体型だったとして、女の子にモテたいと思ったらどうしますか?」

「そりゃダイエットかなあ」

「そうでしょうね、一般的には。では運動の習慣をつけてダイエットに成功した須藤様は誰かと結婚しました。その後も運動をなさります?」

「うーん、しないかもね。もう奥さんいるなら、安心だし」

「そうしてまたお相撲さんになった須藤様は奥さんに逃げられましたとさ、めでたしめでたし」

 なるほど、結婚したらモテるために自分を磨かなくなってしまって油断してしまうというわけか。

「きっと愛顔さんも結婚したら体重100キロくらいになるんだろうね」

「須藤様、仏の顔も三度までという言葉をご存じですか? 要さんに須藤様はバニーガール姿で女装コンテストに出ると伝えておきますね」

 軽い冗談のつもりだったのに、口は災いの元だよ本当に。



 午後9時になり、ジムから出た先生を追うと、スーパーへ入って行った。

 夏休みに僕達がアルバイトしていたスーパーだ。

「先生買い物上手ですわね、どの日にどの食材が安いかばっちり網羅してるみたいですわ。家計のやりくりができる女性はポイント高いですわよ」

 買い物カゴに次々食材を入れていく先生を眺めて愛顔さんが感嘆する。

「確か料理も上手いらしいね、調理部の顧問やってるっていうし」

「面倒見がいい、子供好き、自己管理ができる、家計上手、料理上手……三倍満くらいありますわ、先生は女性の鑑ですわね。私も見習いたいものです」

 会計を済ませてスーパーを出る先生を再び追跡。愛顔さん麻雀用語使うんだ、意外だな。

「それにしても……モテないのがおかしいくらい、イイとこだらけじゃないか。先生容姿も良い方だと思うのに」

 今日先生を追跡してみてわかったことは、先生が非常に素晴らしい女性であるということだ。

「……逆にあれくらい出来がいいと、男性が引いてしまうのかもしれませんわね」

 その気持ちはわかる。基本男は女に負けるなんて恥だと思っているから、恋人の方が収入が高かったりするとうまくいかないケースというのも多いらしいし。

「出来がいいから結婚できないのか、結婚できないから出来をよくせざるを得なかったのか……」

「寂しい話ですわね……そして35歳くらいになって急に寂しくなるも、もう手遅れ……」

 二人して先生の悲しいジレンマにため息をつく。愛顔さんも結構失礼な事言ってる気がするんだけど……

 そういう言っているうちに先生の家についたようだ。マンションで一人暮らしをしているのかと思ったが、一軒家。

 親と暮らしているのだろうか? と思っていたがその予想は見事に裏切られる。

「あ、ママ! おかえり~」

 先生が家のチャイムを鳴らすと、ドアが開いて中から小さな女の子が。……ママ?

 僕も愛顔さんも混乱する。え? 子持ち?

 更に、

「お帰り荒久根。今日は僕がご飯作ったんだけど」

「まあ嬉しいわ、ダーリン」

 男性も出てきて、嬉しそうに先生は家の中へ入って行った。……ダーリン?

 先生の家の前で、僕等はポカーン。

「その、これってつまり」

「ええ、先生は結婚していて子供もいるという事に……」

「でも、指輪してないじゃないか」

「……そういえば、昔先生が自分は金属アレルギーがあると言っていたのを思い出しましたわ」

 つまり、指輪をしてないのは金属アレルギーだから?



「何か、僕達すごく先生に失礼な事をしてた気がするよ……」

「既婚者捕まえて独身だの寂しい女だの言って挙句にお節介ですものね……」

 かくして勘違いにより始まった僕と愛顔さんの先生の良い所を見つけようキャンペーンは幕を閉じた。

 良かった、独身の先生はいなかったんだ。

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