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夏祭りに行こう

 おはようございます。愛顔萌伊ですわ。もうすぐ夏休みも終わりですわね。

 さて、朝の日課はまずお寝坊さんな須藤様の寝姿を眺める所からスタートですわ。

 監視カメラを通じてモニターに映し出される隣の部屋の須藤様。

 まあ、須藤様ったら暑いからってクーラーをつけっぱなしにしてパンツ一丁で寝るなんて。

 風邪をひかないように私は須藤様の部屋に入ってクーラーを消して布団をかけてあげることにしますわ。

「は、はわわ……」

 その途中でとんでもないものを見つけてしまい私は顔を真っ赤にしてしまいます。

 これが朝勃ちというやつですのね、はじめて見ましたわ。

 ……随分と苦しそうですわね、そう言えば須藤様、もう1ヶ月も自慰行為をしていないようですわ。

 このままだといつか須藤様の膀胱が破裂して死んでしまうのではないでしょうか。

 ……仕方ないですわね、須藤様を助けるためですわ、決して自分の欲望とかではありませんからね?



 ◆ ◆ ◆


 おはようございます、須藤王です。

 ……うわ、オナ禁続けてたら手でされる夢を見て夢精しちゃってるよ……。

 溜め過ぎは良くないってことなんだろうね。

 さて、今何時だ? ……げ、16時!?

 いくら夏休みでだらけてるからってこんな時間まで寝てるなんてだらしがなさすぎる。

 でも暇なんだよなあ、探偵のバイトも辞めちゃったし。

 何か今日はイベントはないだろうかとインターネットで地元について調べていると、

 夏祭りがある事に気づきました。

「よし、祭りに行くか!」

 夏休み最後の思い出に、いっちょ行きますか。



 ◆ ◆ ◆


 ふふふ、須藤様ったら外出する時どこに行くかをいちいち独り言で喋る癖がありますから、どこへ行くかが簡単にわかりますわ。

 祭りへと出かけて行った須藤様をすぐにでも追いかけたいところですけれど、焦っては駄目ですわ。

 ちゃんと浴衣を着て行かないと。

 ……うん、これで完璧ですわね。

 代官プレイを想像しながらお祭りの開催されている神社へといざ突撃ですわ。



 さあ、祭りにつきましたわ。須藤様を探さなければ。

 私は残念ながら警察犬ではありませんので、匂いを頼りに須藤様を探索することはできません。

 人ごみをかきわけながら須藤様を探していると、

「ねえねえ、そこの君」

 男の人に呼び止められてしまいました。

「はい、なんでしょうか?」

「君今一人? 良かったら俺達と一緒に祭り回らない?」

 気が付けば3人の男性が私を取り囲んでいます。

 これはナンパというやつですわね。

 困りましたわ、ちょっとガラが悪そうな方ですし、下手な受け答えができませんわ。

 どう断ろうかと悩んでいると、

「すいません、彼女は僕のツレなんで」

 割って入るように須藤様が現れました。

「なんだよ男持ちかよ~」

 お手つきだと解るや否や残念そうに男達は諦めて別の女性をナンパしに行きました。

「ごめんね、勝手に割り込んで。でも何だか迷惑そうだったから。そうでもなかった?」

「い、いえ! 物凄く迷惑でどうしようかと思ってたところですわ!」

 まさか須藤様が自分のツレと言ってくれるなんて。あの場を切り抜けるための方便とわかっていながらも、今の言葉をどうして録音しなかったのかと後悔してしまいます。

「なら良かった。それじゃ」

 私に笑みをかけるとその場を去ろうとする須藤様。

 誘いたい。一緒にお祭りを回りませんか? と言いたい。

 なのにその言葉が出てこない。どうして?

 今までだって、何度も偶然を装って、須藤様と行動を共にしてきたではありませんか。何を今さら。

 祭りの奥へと消えていく須藤様の背中を、私はただただ見るしかありませんでした。



 ……答えなんて、わかっているんです、認めたくないだけなんです。

 今朝、須藤様の部屋に忍び込んで、寝ている須藤様のソレをアレした時、私は醜悪で変態なストーカーでしかないとようやく気づいたのです。

 純愛などと言葉を濁していようとも、私は愛する人を監視する愚かな人間だという事実なんて変わらない。

 恋に盲目な少女だから仕方がないなんて自分に暗示をかけてもすぐに解けてしまう。

 私に須藤様を愛する資格なんて無いのです。須藤様に優しくしてもらう資格なんて無いのです。私は気持ち悪いストーカーなのです。

 ふらふらと、まるで幽霊のように人ごみをかき分けて、私は祭りの道から離れた雑木林へ行き、独りでただただ泣くのでした。



 ◆ ◆ ◆


 いやあ、それにしても浴衣姿の愛顔さん可愛かったなあ。

 一人でお祭りへ行くの寂しかったし、愛顔さん誘ってみようかなと思ったけど、どう考えたって身の丈に合わないしね。僕みたいな寂しい人間と違って愛顔さんが一人でお祭りに来るはずがないし。

「すいません、この逆十字のネックレスください」

 どこかで聞いた声だなと声の方を向けば、マントに身を包んだ女郎花さんが逆十字のネックレスを買っているところでした。

「女郎花さん、十字架は駄目だけど逆十字ならOKなの?」

「やあ須藤君。別に十字架が苦手ってわけでもないんだけどね。ところでさっき愛顔さんを見かけたけど、何だか泣きながら林の方へ向かって行ったよ。何かあったのかな?」

「え、愛顔さんが? さっき会った時は元気そうだったのに」

 愛顔さんと別れてまだ時間はそれほど立っていないはずなのに、あの短時間で何があったんだろうか。

「女郎花さんそれに気づいたなら何でついて行かなかったのさ」

「いやあ私はこの後あるトマト投げの祭りに参加しないといけなくてね、あっちの方に走って行ったからそこまで気になるなら君が行けばいいじゃないか」

 トマト投げの祭りって国が違う気がするんだけど……ともかく愛顔さんが気になった僕は女郎花さんの指し示す方へと走って行きます。

「やれやれ、バンパイアがキューピッドするだなんてちゃんちゃらおかしいね」



 林の中を歩きながら愛顔さんを探しますが、いかんせん林は広い。

 辺りも暗くなってきたし、注意深く探さなければいけません。

 ……集中するんだ須藤王。

 いつも僕を助けてくれた愛顔さんが、理由はわからないけど悲しんでいるんだ。

 今彼女を助けずにいつ助けるっていうんだ。集中しろ。

 僕は須藤王。存在感のない、空気のような人間。

 空気と同化しろ、そして感じろ、彼女の存在を。

 ……こっちだ、わずかに聞こえる、すすりなく声。

 声の聞こえる方へと僕が向かうと、愛顔さんが切り株に座り泣いていました。

「愛顔さん」

 僕が愛顔さんに声をかけると、愛顔さんは僕の方を向いて、

「す、須藤様……どうして、どうして……」

 何故か僕に怯えてその場から逃げ出してしまいます。

 慌てて追いかけますが愛顔さんの速いこと速いこと。

 日頃から運動をしてこなかったツケが回ってきたようですね。

 けれどここで彼女を逃してはいけない、そんな気がするんです。

 体が悲鳴をあげようとも彼女を見失わないように彼女を追いかける。

 今の僕はストーカーじゃない、チェイサーだ。

 少しずつ、少しずつですが距離を縮めて行きます。

 彼女の背中まで、腕を伸ばせば届きそうなところまで追いついたところで、体が限界に達して来たことを悟った僕は、全身全力で彼女に飛びつき、



「あ、あれ……?」

 捕まえようとしたつもりなのですが、どうやら帯を掴んでもぎとってしまったようです。

 代官プレイよろしく帯を取られた愛顔さんの浴衣はするするとはだけて……

「は、はわ、はわわわわ……」

 ある程度先へと走っていた愛顔さんも自分が今どんな状況になっているか理解したようで、



「いやああああああああああああああああ!」

「うわあああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃ!」

 二人ぼっちの林の中、僕達の悲鳴はどこまでも響き渡る。



「本当にごめんなさい!」

 浴衣をつけなおした愛顔さんに向かって、僕はただひたすらに地面と頭をガンガンとヘッドバンキングしながら土下座をする。

「やめてください、須藤様の顔が汚れてしまいます。違うんです、全部私が悪いんです、須藤様は何一つ悪くないんです」

 一方の愛顔さんも顔をくしゃくしゃにしながらうわ言のように私が悪いんです私が悪いんですと繰り返すのみ。

 とりあえず愛顔さんを落ち着かせることから始めよう。えーと……そうだ。

「その、愛顔さん、お詫びと言ったらなんだけどさ、お祭り一緒に回らない? 何があったか知らないけれど、美味しいもの食べたら元気出るよ。当然全部僕が奢るからさ」

 何だかお詫びにかこつけて愛顔さんをナンパしてるみたいになったな。

 愛顔さんは目を丸くした後、

「……いいんですの? 私なんかが、須藤様と一緒にいて」

 何か後ろめたさを感じているのか、少し怯えるように、うつむいてそう言います。

「悪い理由なんてないよ。本当を言うと、一人でお祭りってちょっと寂しくて嫌だったんだよね。あはは、何だかこれじゃナンパしてるみたいだ。さっきの男達と変わんないや」

 私なんかがって言ってるけど、一体愛顔さんのどこに自分を卑下するところがあるというのか。

「……はい、是非ご一緒させてください」

 愛顔さんは何か吹っ切れたのか、とてもいい顔をしていた。

 僕は思わずクラクラしてドキドキしてしまう。

 こんなにドキドキするのは、さっき愛顔さんの裸を見ちゃったからなんだろうか。それとも僕は……



 ◆ ◆ ◆


「それじゃ愛顔さん。気を付けて帰ってね」

 須藤様は私に手を振ると、自分のアパートへと向かって行きました。

 その背中を消えるまで見た後も、私は数分程ぼーっとしていました。

 須藤様と一緒に歩いた夏祭り、楽しすぎてよく覚えていません。

 ひょっとしたらあれは真夏の夜の夢だったのかもしれません。

 いいえ、夢ではありません。私の首には須藤様に買っていただいた、星形のネックレスが。



 私決めました。私はド変態のストーカーです。須藤様が大好きなんです。もう迷いません。

 法に触れようとも、誰かに咎められようとも、不器用な私は須藤様を付きまとって監視するしかないのです。

 例えその結果、須藤様に拒絶されても。

 覚悟していてください、新学期始まっても、私の魔の手からは逃れませんわよ、須藤様!

レビュー貰ったあとに次の話をいきなり下ネタで始めたらいかんでしょ

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