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灼熱スーツ

作者: 山田裕子
掲載日:2026/08/05

地球の温暖化はますます進み、日本の夏の気温はとうとう45度を超えた。温暖化というより灼熱化と呼びたい暑さである。

エアコンのある室内はよいが、移動のため屋外に出ると、とても耐えられない。

屋外作業などできるわけがなかった。

駅や学校まで移動することも困難になった。

車で移動するにしても、すべての人が車で通勤通学できるわけではない。

通勤通学途中で、熱中症で倒れる人が続出した。


そこで開発されたのが、「灼熱の炎天下でも快適に過ごせる防護スーツ」、略して「灼熱スーツ」。

これが宇宙服のような見た目にもかかわらず、売れた。

遮熱性の高い合成繊維で出来ており、冷水チューブでスーツ内の温度を下げる仕組みだ。

着脱に時間がかかるという欠点はあるが、通勤通学が信じられないほど快適になった。

会社や学校では、更衣室で脱ぎロッカーに入れておく。

帰りはまた着なくてはならないが、それでも家まで快適に帰ることができる。

冬のダウンコート程度の着ぶくれ感なので、電車にも乗れる。


影響はいろいろなところに出た。

途中でスーツを脱ぎ着できないので、人々は寄り道をせずまっすぐ家に帰る。

外食産業が大打撃を受けた。

ヘルメットだけ外して、飲み食いする強者もいたが、トイレに困った。

やがて外食は、テイクアウトが主流になった。

映画館やスポーツ観戦も収容人数分の更衣室が用意できず、閑古鳥が鳴いた。


ブライダル関連産業にも影響が出た。

婚活の第一歩、お付き合いをする過程でデートができない。

食事をするにも、灼熱スーツが邪魔になる。

更衣室で脱いで、クロークに預けて、帰りはまた着て、なんてやってられない。

それでは、とても恋愛気分にはなれない。

といってスーツのままでは、顔も良く見えず、ヘルメット越しでは、恋も芽生えない。


そのため婚活は冬に集中した。

皆、夏に我慢していた分、冬場の婚活サークルは過熱状態である。

私もこうして友人に引っ張り出されてここにいる。

少しでも自分をよく見せたい。

夏場の色気のない灼熱スーツより、綺麗なワンピースの方が、見染められる可能性も高い。

友人も私も一張羅のワンピースを着て、獲物を物色している。


「一人では、気後れするから付いてきて。」


そう言われてきたものの、どこが気後れしているのか。

張り切ってあちこちの男性に声をかけている。

この時期を逃すと、来年の冬まで婚活はお預けだ。

今までに、


「外見は関係ない、中身が大事だ」


と言う人もいた。

けれど冬になって灼熱スーツを脱いで会った時のがっかり感が伝わってきた。

口ばっかり。


少しやさぐれた気分で、料理を食べる。

いい人がいなければ、せめて食事だけでも元を取ろう。

ローストビーフをたくさん皿に盛って隅の方で食べていると、同じように食事に専念している男性がいた。

意外にも料理の話で意気投合した。

主戦場でもないのに戦果ありだ。


何回か会っているうちに、結婚を前提にお付き合いすることになった。

人生わからないものである。

張り切ってあちこちに声をかけていた友人は、また来年頑張ると闘志を燃やしている。

何だか少し申し訳ない。


そうこうするうちにまた夏がやってきた。

灼熱スーツの出番である。

そしてここで新たな欠点が判明した。

待ち合わせの場所に行っても、誰が誰だかわからない。

皆同じスーツだから。

スーツのせいで体型、髪型なども分からない。

せいぜい身長で判断するしかないが、座っているとそれもわかりにくい。

私たちは、次からお正月に皇居で皆が振っているような小さな日の丸の旗を持つことにした。

真夏ですけどね。

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