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第45話 冷たい牢獄

---ベル視点---




「……」


 目が覚めると、冷たい床の上に横になっていた。

 周りは鉄格子のようなもので囲まれている。

 何か、見たことあるシチュエーションのような気がしてならないんだが。


 確か、ギルドに行こうとして、小さな奴にぶつかられて……。

 あ、それで衛兵がやってきて、捕まったのか。


 なるほど。

 わからん。

 そもそもどうして俺が捕まらなきゃならないんだよ。

 今日この都市に来たばかりの旅行客だぞ。

 確かに金はなかったが、盗みを働くほど馬鹿じゃない。


 あの衛兵達が追っていたのは、あの小さなドワーフで間違いないだろう。

 俺は、そのドワーフに間違えられたということか。

 小さいのは認めるが、そんなに似ていただろうか。

 取り調べも全くさせてもらえずに即投獄とは、中々決断がお早いことで。


 ついこの間、こういう牢獄のような所に捕らえられたような。

 その時は上手く脱出できたが、今回は相手が違う。


 前回は、相手が完全な悪であった。

 だが今回の相手は、都市国家の治安を守るために働いている衛兵だ。

 脱獄を試みて、失敗してさらに罪が重くなったら元も子もない。

 というか、俺は犯罪なんて犯していないけどな。


 そうなってくると、ますますこれからどうしようか。

 何とか俺が無罪であることを証明して出してもらうほかないか。

 しかし、捕まった時に聞く耳すら立ててくれなかったくらいだからな。

 何を言っても無駄な気がしてならんのだが。


 おいおい、せっかく無事にデュシス大陸に渡れたっていうのに。

 何で初日に、冤罪で投獄されなきゃならないんだ。

 エリーゼのことも気がかりだし、他の皆だって心配するだろう。


「早いとこ、ここを出ないとな……」

「――無理だと思うぞ」

「うわっ! びっくりした!」


 何だよ、驚かすなよ。

 横を見ると、屈強そうな男が座っていた。

 頭に毛が無くて寒そうだな。


「……何を、じっと見ている」

「い、いえ。何も」


 これ、思っている以上にまずい状況なんじゃなかろうか。

 犯してもいない罪で問答無用で投獄、牢屋の中には強面な男。

 しかもめちゃくちゃ怖そうだぞ。

 お父さん、お母さん。

 俺はこれから、どうやって生きていけばいいのでしょうか。


「……お前は、何をしてここに来た」

「えっと、その……えっ、冤罪です」

「冤罪? 何の冤罪をかけられたんだ?」

「何も分かりません。

 ドワーフのような人にぶつかられて、その後を追ってきた衛兵に捕まりました。

 それで、目が覚めたらここに」

「相変わらず、乱暴なやり方をするものだな。

 この街の衛兵は」


 強面の男は、低い声でそう言い放つ。

 人とか殺してそうな目つきだ。


「この街に来て長いんですか?」

「もうすぐ三年経つ」


 へえ、じゃあこの人は今日から俺の先輩になるってわけか。

 話して見たら意外と話の通じるやつじゃないか。


「ここから出ようなんてことは、思わないことだな」

「どうしてですか?」

「簡単な話だ。なぜなら」


 男は立ち上がり、部屋に光がさしている小窓を見た。

 そして、


「――ここは、海のど真ん中にある監獄だからな」


 ……は?

 ここが海のど真ん中だって?

 そんなわけがないだろう。

 ミリアの中にある監獄なんだろ?


「――!」


 小窓を覗いた瞬間、俺の疑問は全て否定された。


 視界一面に広がる、澄み渡る青。

 それが空の色ではないことは、水面に反射している陽光を見ればわかる。


 ――ここは本当に、正真正銘、海のど真ん中だ。


 遠くの方に、さっきまでいたはずのミリアが見える。

 一体、何の冗談だよ。

 ここまでやることなのか?

 それとも、あのドワーフはここにぶち込まれて当然の犯罪を犯したというのか?

 ただの盗みなら、こんなところまで連れてこないだろう。


 ……マジでやってくれたな、あのクソチビ。

 俺もチビであることは一旦置いといてだな。

 次に会った時には、俺があいつをここにぶち込んでやる。


「気の毒だな」

「気の毒なんてもんじゃないね」

「?」


 隣にいる男ではない声が、二つ聞こえた。

 一つは女の声だろうか。


 よく周りを見てみると、部屋は鉄格子で区切られているだけだった。

 つまり、両脇に捕らえられている人たちの姿も見えるということだ。


 マゼンタ色に近い紫色の髪の女に、茶色の髪をした男。

 え、男女で同じ牢獄に入れられてんのか?


「あんた、その歳で冤罪なんかにかけられたのか?」

「そうです」

「お前は、ドワーフってわけじゃあねえんだよな?」

「純血の人族です」


 体が小さいことによる弊害が、まさかこんなところでも出るとはな。

 前々から不便だって感じることは多々あったが、まさかドワーフに間違えられるとは。

 間違えられるだけならまだしも、投獄までされた。

 とことんついてないというか……。


「皆さんは、どんな罪でここに?」

「オレ達は全員仲間だった」

「アタイらは、盗賊グループだったのさ」

「盗賊……」


 見た目通りって感じだな。

 言葉を選ばずに言うなら、みすぼらしい服装の三人。

 世界に名を轟かせている大盗賊ってわけでもなさそうだ。


 とりあえず、自己紹介をしておくか。

 これからどのくらいここにいるか分からないが、せめて互いの名前くらいは知っておかないとな。


「僕はベル・パノヴァです」

「アタイはダリア・バレットだ。

 犯罪者同士仲良くしようぜっ!」

「だから、僕は犯罪なんてしてませんって……」


 冤罪だって何度言えばわかるんだ。

 俺は死んでも犯罪なんて犯さないぞ。


「オレはゾルト・アジスだ」

「私はシェイン・セルトンだ」


 全員の顔と名前が一致した。

 紫色の髪の女がダリア、茶色くてやや長い髪の男がゾルト。

 そして、頭の寂しい男がシェインだ。


 何か歓迎されてる感じはあるが、一刻も早くここから出たい。

 俺には帰るべき場所があるんだよ。

 こんなところで足止めを食らっている場合ではない。


---


「どうして、こんな海の真ん中に監獄があるんですか?」

「まあ、脱獄不可能な場所に作りたかったんだろうね。

 実際、これまでにここから脱獄できた人間は一人もいない」

「試みた人はいたんですか?」

「過去に何度もあったらしい。

 だが、脱獄を試みた犯罪者は、一人残らず帰らぬ人となった」

「溺死、ってことですか……」

「それもあるだろうな。

 ただそれ以上に、この辺りに潜む人喰いザメが機能しているんだろうよ」


 人喰いザメだと。

 ますます脱出できづらそうに感じてきた。

 というか、今までに脱獄した人間がいないってことは、成功率は限りなくゼロに近いことは間違いないだろう。


 まさに絶望的状況。

 ナルシスの時よりもよっぽど絶望感がある。

 あの時は命が危なかったから、別の意味で絶望感はあったが。


「でも、アタイらは、近々脱獄に挑戦する」

「なんですって?」

「誰がこんな環境に長居したがるってんだ。

 このままだと精神が狂っちまう」

「シェインさんもなんですか?」

「無論だ」


 うおー!

 仲間がいるとなってくると話は別だ。

 単独での脱獄は正直無理そうだが、複数人でとなると少しだけ光明が見えたような気がする。


 しかもなんといったって、こいつらは盗賊だ。

 人の目から逃れるプロだ。

 この三人となら、なんか行けそうな気がする。


「……ま、まだまだ先になりそうだけどな。

 何も計画なんてしちゃいないし、そもそも実行に移すかどうかすら怪しい」

「えっ、何でですか?」

「さっきの話を聞いていなかったのか?

 ここは陸地から遠く離れた沖合で、周りにはでっかいサメがうろついてるんだぜ?

 口で言うのは簡単でも、オレ達みたいな無名の盗賊が脱獄するなんてのはほぼ不可能だ」


 まあ、そうだよな……。

 脱獄するには、壁が多すぎる。


 今分かっている限りでは、


・鉄格子

・見張りの目

・沖合であること

・外には人喰いザメがうろついている


 これだけの支障がある。

 それに、こいつらがどこまでやれる奴らなのかすら未知数だ。

 無名の盗賊なら、実力も大したものを持っていなさそうだな。

 あまりこういうことを言うのは失礼だけど。


「僕は、一人でもやります」

「……アンタ、正気なのかい?」


 俺はゆっくりとうなずく。

 こんなところに長居なんてしたら正気を失ってしまう。


「僕には、僕を待っている仲間がいます。

 そして、帰らなければならない場所もあるんです。

 こんなところで足止めを食らっている場合ではありません」


 俺は本気だ。

 単独での脱獄は無理だとは思う。

 でも、それでも、やらなければならない。

 この三人が動こうが動かまいが、俺には関係ない。


「脱獄をするなら、お互いに力を合わせましょう。

 ただし、ここに残るというのなら、僕は一人でも脱出してみせます」


 俺の発言で、場の空気が凍った。

 自分でも、バカだと思う。

 でも、時にはバカにならなきゃならない時だってあると思うんだ。


「……分かった。私は協力しよう」

「なっ……アンタ……」

「こんなに幼い子供が、やれると叫んでいるのだ。

 どうして黙って見殺しにすることが許される」

「シェインさん……」

「オレも協力しよう。

 ベルのおかげで、心に火が付いたぜ」

「……ハハッ。リーダーはアタイだっていうのに、勝手な奴らだ。

 分かった。 それなら、アタイもベルに乗るよ」

「皆さん……!」


 絆って素晴らしいな。

 たかだか出会って数分だが、俺はこいつらが好きになった。

 「ガキが何かほざいている」とかじゃなく、「子供がやれると叫んでいる」か。

 見かけによらず、他人思いなところがあるんだな、シェインは。


「でもな、ベル。今すぐにってのは無理だ。

 準備やら計画やら、やるべきことは一気に山積みになった。

 早くて、二週間後くらいだと思うけど、それでもいいかい?」

「もちろんです。

 いくらなんでも、催促するようなことはしませんよ」


 まあ、本音をぶっちゃければ、早くここから出たいが。

 なんの下準備もなしに行動するってのは、命を投げ捨てるのと同じだからな。


 ともあれ、脱獄することも決まったし、心強い仲間も増えた。

 久しぶりに、燃えてきたぜ。


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