第37話 思わぬ報酬
目が覚めると、見覚えのある天井があった。
あれで死ななかったのか、俺。
太腿にナルシスの剣が刺さって、
俺がほとんどやけくそで大技を使ったところまでは覚えている。
そっからは何も覚えてないな。
「ベル!」
エリーゼの声がしたかと思えば、俺の上に馬乗りになるようにして抱き着いてきた。
嬉しいけど、痛い。
主に足が。
「よかっだ……!」
「エリーゼ……はっ!」
エリーゼを抱きしめ返すよりも先に、俺の視界に飛び込んだ光景。
ランスロット、シャルロッテの後ろに、俺が助けようとした15人の少女の姿があった。
「みんなっ……!」
目頭がじんわりと熱くなる。
1、2、3……全員いる。
俺が助けたかった少女たちは、一人残らず無事だった。
良かった……。
本当に、良かった。
俺は、全員守れたんだ。
俺自身も助かって、守るべきものも守れた。
涙がこぼれ落ちそうなのを抑えて、天井を見つめた。
「すまなかった、ベル。
お前を置いてあの場を離れるのは、あまりにも無責任すぎた……!」
「……いいですよ。
僕もこの子たちも、全員無事なんですから」
「本当に良かったです、ベル!
ランスロットが真っ青な顔で部屋に戻ってきたときは、どうなることかと……!」
改めて振り返ってみると、事の発端はランスロットが俺を置いてナルシスを探しに行ったことだ。
これで俺が死んでいたら、ランスロットは責任を感じて何をしていたか分からない。
そういう意味でも、生きて帰れて良かった。
シャルロッテも、ランスロットも、目に涙を浮かべている。
少女たちも皆、同じような表情をしている。
我ながら、大きな功績を上げたと思う。
ランスロットから、俺が意識を失った後のいきさつを教えてもらった。
ランスロットは俺と別れた後、ナルシスを探している途中でナルシスの部下と遭遇。
中々の数がいたため、かなり時間がかかったらしい。
俺がナルシスに捕まったことには全く気が付くことができず、
更に部下との交戦があったため、駆けつけるのが遅れたという。
説明の途中で何度も謝られた。
俺とナルシスが戦った場所には巨大なクレーターが出来た。
そしてその場に残っていた地下牢への入り口を見つけ、少女たちを救出。
ナルシスとその他密売人たちは、投獄されたらしい。
朗読でもしているのかというくらい、ランスロットの説明には感情がこもっていた。
それだけ、責任感を感じているってことだろう。
「ありがとう、ベルさん」
口々に、お礼を言われる。
命を懸けて、助けた甲斐があった。
その少女たちの中には、目の前で攫われた子もいた。
早く、家族のもとに帰してあげなければ。
とランスロットに言ったところ、もう既に家族に身柄を引き渡したと言われた。
「僕、どのくらい寝てました?」
「半日くらいよ」
「そうなんですか……
エリーゼ、いい加減降りてくれませんか?」
「なっ、がっ……
わ、悪かったわね!重くて!」
そんなこと言ってないんだけどな。
軽すぎて発泡スチロールかと思った。
あと、何がとは言わんが柔らかかった。
体が痛い。
こんな短期間で二回も魔力枯渇を味わうとは。
それに、この太腿。
包帯でぐるぐる巻きにされている。
「僕の足、どうなってるんですか?」
「私が治しました。
一応、寝ている間だけ包帯を巻いているだけなので、取っても大丈夫ですよ」
「シャルロッテ、治癒魔法も使えるんですか?」
「元は治癒魔術専攻だったので」
そうだったのか。
シャルロッテに治癒魔法って、イメージ通りかも。
どうして攻撃魔法に転じたのだろうか。
とにもかくにも、一連の事件が無事に解決したようで良かった。
明日から、また冒険者活動が始まる。
まだ体調は万全ではないが、そんなことは言ってられない。
この事件のせいで再始動が遅れたわけだから、遅れを取り戻さなければ。
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例の誘拐事件の解決は、瞬く間に街中に広まった。
何週間もこの街を震撼させていた事件だったため、冒険者ギルドから褒賞金が出た。
額にして、白金銭55枚。
「嘘じゃ、ないですよね……」
俺はシャルロッテと目を見合わせる。
そうだ。
デュシス大陸に渡るための目標額に、一瞬で到達してしまった。
まさか、こんな大金が一気に支払われるとは。
もちろん、俺は金のために頑張ったわけじゃない。
というか、助けたいと言い出したのはランスロットだしな。
少女たちの未来を守り、俺たちの旅の資金も貰えた。
神様は俺たちのことを見ているんだ。
ランスロットが真っ先に事件解決に動こうとしたのもそうだが、
同時にエリーゼとシャルロッテを宿に待機させたのも何気にファインプレーな気がする。
もし全員で行っていたら、エリーゼが捕まっていたかもしれない。
そもそものあいつの標的がエリーゼだったわけだから、
同行していたら取り返しのつかないことになっていた可能性だってある。
色々噛みあってくれたおかげだ。
「資金も集まりましたし、もうガラウスを離れますか?」
「そうですね。
まさかこんなにはやく資金が集まるとは思わなかったので、拍子抜けですけど」
この大陸に転移してきて、まだ約三週間。
三週間前まで、あの洞窟の中にいたのか。
もっと言えば、三週間前はラニカ村にいたということになる。
長いようで、短かったような。
こういうのは旅の終わりに言うものか。
「ベルとランスロットのおかげね!」
「俺は何もしていない。全てベルのおかげだ」
「ランスロットさんがあの時『助けたい』と言わなければ、こんな結果にはならなかったです。
なので、僕だけの成果ではありませんよ」
と、口では言いつつも。
内心ではめちゃくちゃ照れている。
顔赤くなってねえかな。
最近、エリーゼの俺に対する態度が変わった。
突然膝枕とかするようになったし、よく褒めてくれるし。
仲良しが一番ですわな。
「白金銭55枚って、普通に稼ごうとしたらどのくらいかかるの?」
「三か月……いや、依頼内容によってはもっとかかる」
「まさに一攫千金ですね!」
シャルロッテは分かりやすくはしゃいでいる。
儲けた金で飲んだくれたりしそうだな。
それにしても、一気に数か月分の稼ぎをあげたのか、俺たち。
競馬で大勝ちした時ってこんな感じなんだろうな。
賭けたことないから分からんが。
「明日、ガラウスを出て港町に向かう。
そこには、二か月ほど滞在するぞ」
「え、どうしてですか?」
「俺もすぐにデュシス大陸に渡れると思っていたが、肝心なことを忘れていた。
この時期は、とんでもなく海が荒れる。
船なんて、沖合に出ればすぐに沈没する」
そんなぁ。
せっかく早く渡れると思っていたのに。
まあ命より大事なものはないし、仕方ないか。
「前にも言ったが、ガラウスから港町までは地竜街道が通っている。
二日も経てば、ラゾンという港町に辿り着く」
「何もなければ、ですよね」
「ああ」
あ、自分でフラグを立てたような気がする。
おい、何やってんだ俺。
今度こそ死ぬような思いをするかもしれない。
「ラゾンから船で大陸に渡ると、どのくらいかかるんですか?」
「デュシス大陸の南端の港町までは、一か月ほどかかる」
「一か月も!?」
そんなにかかるのか。
トータルで三か月。
気の遠くなりそうな月日だ。
これだけ内容が濃かった日々でも、
数字にしてみればたったの三週間。
港町で二ヶ月も時間を潰せるだろうか。
暇すぎて堕落した生活を送ることになりそう。
いや、何のための冒険者だ。
ひとまずの目標額に達したとはいえ、何も冒険者を辞めるとは言っていない。
それに、デュシス大陸に渡ってからも旅は続く。
広い大陸を横断し、更に中央大陸に渡る。
そこからは、またひたすら東に向かわなければならない。
……この話、やめるか。
気が遠くなりすぎて心が折れる。
だが、かなりのショートカットができたのは事実だ。
三か月もすれば、旅の第二フェーズが始まっているということだろ。
何事も、ポジティブに考えなきゃな。




