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第26話 31歳の少女

 翌日。

 俺たちは早朝に出発する予定だったが、アクシデントがあった。

 エリーゼが、風邪を引いてしまった。


---


 体調を崩してしまったエリーゼを無理矢理旅に連れていくわけにもいかないので、俺は村を散策してみることにした。

 外が明るくなってくると、人々が活動を始めた。

 とはいっても、人は少ないから賑やかであるとはいえない。

 ラニカ村がいかに活発な村だったのかがわかる。


 でも、これはこれでいいな。

 賑やかではないものの、逆に静かで心が落ち着く。


「こんにちは」

「こんにちは。おや、人族の子供かね。珍しいのぉ」

「わけあって、旅をしてるんです」

「その年でかい? 立派な子だねぇ」


 おじいちゃんなのかおばあちゃんなのか分からないが、ご老人は目を細めて笑った。

 一から事情を話すとなるとかなり長くなってしまうから、これからはこれで済ませよう。


「わしはミトール族の族長のアルカじゃ。

 何もなくてつまらない村じゃが、好きなだけゆっくりしていっておくれ」

「はい、ありがとうございます」


 初っ端から族長に出会ってしまった。

 親切なご老人でよかった。


 「人族は竜人族の敵じゃ!」とか言われて追放されたりしたらたまったもんじゃないからな。

 魔人竜大戦なんてもうずいぶん前なんだし、そこまで根に持っている人はいないかもしれないが。


 確か、この世界における西暦である『明龍暦』は、魔人竜大戦が終戦したその年を元年とした暦だったよな。

 小さな頃に読んだ本に書いてあったのをなんとなく覚えている。


 俺が転生したのが、ちょうど明龍暦150年だったはず。

 それから9年経ったから、今は明龍暦159年ってことだな。

 カレンダーとかがないからややこしくて困る。


 ラニカ村にいた時は村内放送で年月日を毎日教えてくれていたから、便利だったな。

 全世界の全自治体で実施するべきだ。


 さて、散策をするといっても何をしようか。

 族長さんが言った通り、言っちゃ悪いが何もない。

 都会なら歩き回るだけでも飽きないが、こうも狭く小さな村となると行き場に困る。


 うーむ……。

 大人しくランスロットと一緒にエリーゼの看病をした方がいいだろうか。

 となると、本当にやることがなくなってしまう。

 別にエリーゼの看病が嫌だとかいうわけではなく、

 エリーゼの身の回りの世話は全てランスロットがやってくれるのだ。

 風邪なんて一日じゃ完治はしないだろうから、

 完治しないまま旅を再開して悪化させてもいけないし……。


 一人で魔物と戦ってみるか?

 いや、無理はするなってランスロットにも言われてるしやめておいた方がいいか。

 天大陸の魔物は、ラニカ村周辺に湧く魔物に比べてかなり手強い。

 こんなとこで死ぬわけにもいかないしな。


「あの」

「はい?」


 背後から女の声が聞こえた。

 振り返るとそこには、竜人族の少女が立っていた。

 あれ、そういえばこの村の人たちには角がないな。

 角がない竜人族なんて、もはや人族との違いが分からないけど。


 緑色の髪を三つに編み、それが二つに分かれている。

 そして、わお、整ったお顔。

 中学生くらいの見た目だが、本当の所はどうかわからないな。

 長命族って、見た目に反して結構歳をとってたりするし。


「うぅ……その……」


 顔を赤くしてこちらを見ている少女は、モジモジと体をくねらせている。

 おしっこならお手洗いへどうぞ。

 可愛い子は好きだが、しょんべんをかけられる趣味は持ち合わせていない。


「えっと……どうかしましたか?」

「……」


 黙り込んだまま、なおもモジモジしている。

 言いたいことがあるんだったらはっきり言ってもらわないと。

 内気な女の子なのだろうか。

 それなら見知らぬ男の子に声をかけたりなんてしないか。


「……私のパンツ、返してくれませんか?」

「……?」


 パンツ?

 流石に下着ドロボーをするほど非常識な人間ではないと自負しているんだけど、ひどいなぁ。

 パンツなんて、一体どこに……。


「パンツ発見!」

「声が大きいです!」


---


 その少女のパンツは、どういうわけか俺のローブに引っ掛かっていたらしい。

 頭に降ってきたとかなら気づけたが、服に引っ掛かったとなると気づくことは難しい。

 ちゃんと返して、謝罪した。


「こっちですよ、ベル」


 その後、何故か仲良くなった。

 そういう趣味なのだろうか。

 人の服に自分のパンツを引っ掛けて喜ぶのか。

 なんて良……悪趣味だ。


 この少女の名前は、シャルロッテというらしい。

 何とも強キャラ感のあるかわいらしい名前だ。


「この村は、見ての通りとても小さく、何もない村です。

 ですが、この辺りでは唯一の人のいる村。

 一番近い集落でも、ここから歩いて五日はかかります」

「五日も!?」


 そんなにかかるのか……。

 野宿はやめておいた方がよさようとか思ってたが、せざるを得ないか。

 それも経験だ。うん。


「ベルは、旅をしているんでしたよね」

「どうして分かったんですか?」

「……パンツが引っかかっているのを見つけて、後ろを付けてましたからね。

 族長とそんなことを話しているのを聞いていました」

「す、すみません……」


 俺、女物のパンツを引っかけたまま村を歩いていたのか。

 たまにクスクスと笑い声が聞こえていたのは、もしかして俺に対してだったのか?

 恥ずかしくなってきたな。


「いえ、別に怒っているわけでは……。

 洗濯物を干していた時に、パンツが風に飛ばされてしまったんです。

 それがたまたまベルのローブに引っ掛かってしまっただけなので、仕方ないです」


 ふむ、なるほど。

 ラッキースケベというやつか。

 穿いてるやつが脱げて俺のローブに引っ掛かったわけじゃないならまだよかった。

 もしそうなった場合、向こう三年は脳に焼き付いたままだろう。

 なんたって、俺はまだ童貞だからな。

 ははは。


「はぁ……」

「どうかしました?」

「あ、いえ」


 ため息が漏れていたようだ。

 自分で言っていて虚しくなってしまった。


「族長も言っていましたが、その年で旅をするなんて、凄く立派ですね。

 一人で旅をしているんですか?」

「いえ、三人です。

 一人は僕の三つ上の王女様で、もう一人は竜人族の人です」

「王女様、ですか。

 ちなみに、どの国の?」

「中央大陸の、グレイス王国という国です」

「中央大陸!? どうしてまた、そんな遠いところの王女様と?」

「……話せば、長くなります」


 シャルロッテとは仲良くなったし、事の経緯を話してもいいかもしれない。

 俺は、この大陸に来るまでのことをなるべく簡潔に話した。


「転移隕石……聞いたことがあります」

「目が覚めたら、ソガント族の戦士の方に助けていただいて。

 それで、何とかこの村まで辿り着きました」

「大変なんてレベルじゃ、ありませんね……」


 確かに、「大変でしたね」なんて言葉じゃ済まされないくらいの非常事態ではある。

 普通に生活していたはずが、あの一瞬で全てが変わってしまった。

 あの村には思い入れもあったし、残念だ。

 あんなとんでもない衝撃と光が村を飲み込んだのだ。

 無事に村が残っているわけがない。


「……あの、もしよければ、私も旅に同行してもいいですか?」

「えっ? 何を言って……」

「私自身、冒険というものに興味があるので」


 旅に同行って……。

 何年もかかると思われる旅に、自ら志願するなんて。

 そりゃ、味方は何人いても困らないけど……。


「お願いします。

 ちゃんと役に立てるかは分かりませんが、私はこれでも聖級魔術師です。

 戦闘面でいえば、ある程度は戦えます」


 聖級魔術師だと。

 強そうな名前の通り実力者だった。

 でも、勝手に連れて行っても大丈夫なのだろうか……。

 この村の住人だということは、家族や友人なんかもいるだろうし。


「実力的には、むしろ仲間に欲しいくらいのものをお持ちのようですが……。

 僕たちの旅は、何年かかるかわからないくらいの長旅になるんですよ。

 生半可な覚悟で着いてくるのは、僕としてもおすすめはできないというか……」

「覚悟はあります。これだけしんどい思いをしている子供を見て、『はいそうですか。頑張ってくださいね』では済ませたくないんです」

「……」


 目を見れば、わかる。

 彼女は、本気であると。


 聖級魔術師なんてパーティに加わるなんて、大型補強と言っても過言ではない。

 俺としては、是非とも旅の仲間に加わって欲しいところだが、


「ぼ、僕は全然構わないですが、もう二人に聞いてみないことには勝手に判断ができません。

 なので、一度僕の仲間と顔を合わせて、話をしてみましょう」

「分かりました。

 もちろん、ダメだと言われれば素直に引き下がる覚悟はできていますので」


 まあ、ダメとは言われないと思うが。

 俺一人が全て判断してしまうのはよくない。

 俺とエリーゼ、そしてランスロットの三人で一つの「パーティ」なのだから。


---


「初めまして。シャルロッテ・ミトーリアです」

「この村の住人か」

「はい。えっと、そちらのお嬢さんが、エリーゼ様ですか?」

「シャルロッテ。エリーゼに様をつけたら殴られますよ」

「そんなに野蛮なお嬢様なんですか?」

「何言ってるの、ベル……あたしが殴るのは、あんただけよ……」


 何で?

 そんな個人的な恨みを買うようなことしたか、俺。

 でも思えば、エリーゼが俺以外の人を殴っているところは見たことないような気がする。


 ……え、何で?


「その、あなたのお名前は?」

「俺の名を聞いて、取り乱さないと約束できるか?」

「え? そんな失礼なことがありますか?」


 シャルロッテは微笑まじりにそう言っているが、実際どうだか。

 「時代とともに風化しただろう」と言っていたランスロットだが、果たして。

 もしシャルロッテが泣き叫んでしまって大変な騒ぎになれば、村を追われるかもしれない。

 第一印象としては冷静な少女というイメージだが、果たしてどうなるか。


「俺は、ソガント族のランスロットだ」

「ソガント族のランスロット……。

 もしかして、魔人竜大戦の時に同胞を大量に殺したという、あの?」

「そうだ」


 シャルロッテは僅かに表情を揺るがせたが、恐れおののくという様子は見られなかった。

 良かった。理解のある人間だったか。


「俺が、怖いか?」

「驚きはしましたが、怖くはないです。

 その話を初めて聞いた時は怖かったですけど、この目で姿を見て少し安心しました」

「安心?」

「……本当は、見知らぬ子供の命を助ける程の、優しい心の持ち主なのだと知ったからですよ」

「――」


 そうだ。

 ランスロットは、優しいんだ。

 「同族の大量殺戮」という過去の行いが消えることはないが、

 それは抵抗のしようがない呪いによって脳が支配されていたためだ。

 何も知らない奴らが勝手にランスロットを責め立てて追い出しただけ。

 ランスロットという一人の人間は、誰よりも優しい心の持ち主なのだ。


「それで、何をしに来た?

 風邪がうつっても責任は負わないぞ」

「私を、あなたたちの旅の仲間に加えていただけないかな、と」


 シャルロッテの言葉を聞いて、ランスロットは考え込むような仕草を見せる。


 俺としても、悩みどころではある。

 シャルロッテか見た目から考えるに、エリーゼの二つか三つ上くらいの年齢に見える。

 人族とは違う長命族だから、言い切れはしない。

 でも、こんなに小さな少女を壮大な旅に連れていくとなると、少々気が引ける。


 …………俺、九歳だったわ。

 偉そうに小さな少女だとか言ったけど、俺の方が明らかに年下だった。

 それに、さっき彼女は自分で聖級魔術師だと言っていた。

 無駄な心配でした。すんません。


「どうして、旅に同行したいのだ?」

「はい。二人の事情を聞いて、私も何かしらのサポートがしたくなったんです。

 ですが、もうすぐに旅立つと聞いて。

 それなら、一緒に旅をすることしか私にできることはないと思いました」


 何だこれ。

 就職面接か?


 シャルロッテの誠意は十分に伝わる。

 全く面識のない子供のためにここまで動いてくれるなんて、世界のどこを探してもこんなにいい人はいないだろう。


 ランスロットは「ふむ」と声を漏らし、顎に指を当てた。

 そして顔を上げて、シャルロッテの顔を見た。


「分かった。

 正直、俺一人では不安だったのだ。

 旅についてきても良いだろう」


 シャルロッテはその言葉を聞いて、目を輝かせた。

 もしかすると、彼女自身、「旅」というものに興味があったのかもしれない。


「だが、その歳で俺のサポートができるのか?」

「私を何歳だと思っているんですか」

「14歳くらいか?」

「失礼ですね。もう31です」


 えっ!?

 こんなに小さいのに31歳なのか。

 胸の話じゃないぞ。


 身長でいうなら、145センチくらいだろうか。

 まあ俺が言えたことじゃないんだが。


「一応、聖級魔術師なので、ある程度は戦えます」

「後衛型か?」

「はい。近接戦闘は苦手なので」


 後衛型なのは助かる。

 なにせ、俺たち三人は全員前衛型だからな。


 得意魔術は、髪の色的に風魔法とかだろうか。

 大体こういうのって、髪の色と繋がっていることが多い。


「得意な属性は?」

「雷です」

「風じゃないのかよ!」

「えっ、どうしてですか?」

「あっ、何でもないです」


 俺の中の法則性が破綻してしまった。

 この見た目で雷落としたりするのか。


 ちなみに、雷魔法は天候操作に含まれない。

 手や杖から雷を飛ばしたり、聖級以上なら魔法陣から雷を落としたり。

 なにも、雷雲を作ってそこから落とすというわけではないからな。


 もとより、雨を降らせたりする天候操作系の魔法を使ってはいけない理由は、

 「その魔術によって人為的に災害を起こすことができる可能性があるため」である。


 ………でも、雷降らせまくれば、別に災害くらい起こせるよな。

 その辺が割とガバガバだから、よく分からないんだよな。

 呪いが発動するにしろしないにしろ、人為的な災害を引き起こした人間は極刑だろうけど。


「確か、この子たちは中央大陸から来たと聞きました。

 その故郷に送り届けるということですよね?」

「ああ、そうだ。

 ここから更に西に進んで、船でデュシス大陸に渡る。

 それから中央大陸にも船で渡る。

 大体早くて二年くらいだろう」

「二年……」


 シャルロッテは、少しばかり下を向いた。

 実際に所要期間を聞くと、やはりためらいも出てくるのだろう。


「今からでも、やめておくという選択肢はある。

 お前が一人暮らしをしているとしても、家族と過ごしているとしても、最低四年はこの村に帰ることはできない。

 その上、旅は過酷なものとなる。

 船に乗って大陸間を移動するには莫大な金が要るから、冒険者をするなりして金を稼がなければならないしな」

「冒険者!?」


 びっくりした。

 寝ていたはずのエリーゼが突然飛び起きた。

 エリーゼは昔から冒険者に興味を持っていたな。

 思わぬところで夢が叶うかもしれないということで、体が勝手に反応してしまったのだろう。

 どんな体してるんだよ。


 そうか、忘れていた。

 これから長い長い旅をする中で一番必要なのは、金だ。

 金がないことには、途中で寄る町で宿を借りたりすることもできないし、飯を食うこともできない。

 飯は最悪魔物を狩って食えばいいが、ずっと野宿を続けるのは流石に危険だ。


 いくら聖級魔術師とソガント族の戦士が一緒とはいえ、確実に安全であるとはいえない。

 そんなに長いこと働いて金をつくるとなると、かなり長い年月を要する。

 手っ取り早く稼げるのは、冒険者くらいしか思いつかない。


「それでも、私はついていきます。

 私自身、旅をするということに興味はありましたし。

 もちろん、そんな生温い覚悟で言っているわけではありませんよ」

「……そうか。それなら、良いだろう」


 俺の予想は当たっていたらしい。

 シャルロッテは「ありがとうございます」と言って、ホッと胸を撫で下ろした。

 本当に就職面接をしているかのような雰囲気だった。


 ともあれ、心強い仲間が新しく加わってくれた。

 ランスロット一人でも十分安心だったが、更に戦力が補強されただろう。

 俺のローブに引っ掛かってくれたパンツよ、よくやった。


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