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第10話 『九星』

 半年が経過した。

 ラニカ村は、アヴァンの人々の協力のおかげもあって驚異的なスピードで復興を遂げた。


 全世帯分の家が建ち、襲撃前のラニカ村が戻ってきた。


 一時はどうなることかと思った。

 全く予想できなかった魔物達の襲来、加えて『世界四大魔獣』とかいうとんでもないのまで来た。

 村はほとんどが焼け落ち、避難所の人々の表情は絶望に満ちていた。


 だが、今はどうだ。

 以前のような活気が戻り、一人も嫌な顔をしている人は居ない。

 なんか、泣きそうだ。

 戦後十年くらいの日本も、こんな感じだったのだろうか。


「我が家へようこそ、エリーゼ!」

「わあっ! 凄い!」


 俺の家に、新しい家族が増えた。

 グレイス王国の第一王女が、我が家にやって来た。


 それにさしあたって、エリーゼの歓迎会を行うことにした。

 食卓にはご馳走が並び、エリーゼの頭には王冠が乗っている。

 素直に楽しそうなエリーゼを見れば見るほど、可愛く思えてくる。


「普段食べていたものよりは劣るだろうが、俺達ができる精一杯のご馳走だ。

 召し上がれ」

「そんなことない! 美味しそうだわ!

 いただきます!」


 俺も手を合わせて「いただきます」と一言呟き、更に乗っている七面鳥のような肉にかぶりつく。


 美味っ!

 なんだこれ!

 食レポは未経験だから上手く伝えられないが、なんかこう、すごく柔らかい。


 ちらりと横を見ると、満面の笑みで肉を頬張っているエリーゼの顔が見えた。

 思わず頬が緩んだ瞬間に、エリーゼと目が合ってしまった。

 また「何ジロジロ見てんのよ」とでも言われるかと思ったが、「美味しいわねっ!」と笑顔で返された。


 普段ツンツンの女の子がこういう顔すると輝くよなぁ。

 陰キャだった俺には眩しすぎるぜ、この笑顔。


「そういえば、父さんと母さんは陛下に会ったことはあるんだっけ?」

「ああ、一度だけな。

 エリーゼはまだ一歳くらいだったから、覚えていないだろうが」

「何しに来たんだったかしら」

「確か、『九星』の襲撃から国を守ったことに対するお礼、とかじゃなかったか?」

「九星? って何?」


 聞いたことの無い単語だ。

 世界四大魔獣とはまた違う魔物の括りだろうか。


 ……いや。

 聞いたことがないなんて、嘘をついた。


 避難の指示が出て、ルドルフとロトアが俺を置いて対処に向かう直前に、

 そんなことを話していたのを思い出した。


「九星っていうのは、三度目の『魔人竜大戦』を引き起こすために動いている悪い組織のことよ」

「おっ。よく知ってるな、エリーゼ」

「ふんっ! 王女なんだから当然よ!」


 得意げに小さな胸を張るエリーゼ。


 三度目の、魔人竜大戦。

 かつて世界中を巻き込んだ大戦争を、三度(みたび)起こそうとしているのか。


 ……いや、何のために?


 そのどさくさに紛れて、この世界を征服しようみたいな魂胆か?

 そんな単純なものでもない気はするが、理由もなくそんなことを目的に動いたりなんてしないだろう。


 なるべく関わらない方向で生きて行きたいな。

 もう死ぬような思いはごめんだ。

 俺は程よく魔術を使えるようになって、スローライフを送るんだ。


「俺とロトアが結婚する前に、グレイス王国を『九星』の執行官が襲撃した。

 ここラニカ村も少し被害を受けたが、特に甚大な被害を受けたのは第二都市のリノアだった。

 そいつを止めて撃退したのが、俺とロトアだったんだ」

「へえ、英雄じゃん」

「まさに、その名に恥じない活躍をしたぜ」


 ルドルフは仮にも、『剣帝』の称号を持つすごい剣士だからな。

 俺がルドルフでも、自分の称号やら功績やらは誇示したくなる。


「あんまりそうやって功績を誇示するものじゃないわよ、ルドルフ。

 子供相手に見苦しいわ」

「て、手厳しいな……」


 笑いに包まれる一家。

 ルドルフはシュンとしている。

 でも実際、ルドルフとロトアはまさに英雄のような扱いを受けたのだろう。

 国王から直々に叙勲されるなんて、よっぽどだ。


「その九星っていうのは、どこで何をしてるの?」

「それが、一切分からないんだ。

 今や世界中の人々が存在を知っているが、誰も突き止めることが出来ない。

 それなのに突然出てきて、好きなだけ人を殺して物を壊して、満足して帰っていくようなクソ野郎どもだ」

「もしまた村に襲撃しに来たら、タマ蹴り上げてやるわ!」

「こらこら」


 この半年で、分かったことがある。

 エリーゼは、割とこういう下ネタを口にするタイプの人間だ。


 下ネタとは言っても、あんなことやこんなことみたいなレベルのものではない。

 「ち○ちん」とか「キ○タマ」みたいな、もっと低俗なものだ。

 

 エリーゼが下ネタを言うこと自体はレアだが、言う時は清々しいほどにサラッと言ってくれる。

 女の子なんだからもっと慎むべきなんだけどな。

 そのうちもっと過激なことを普通に言い出してしまうと考えると、恐怖で震えてしまう。

 こんなに可愛い子からそんな単語が出たら、笑いをこらえることができるかわからないな。


「ルドルフさんとロトアさんは、すごく強いのよね。憧れるわ」

「おっ、強くなりたいのか?」

「もちろんよ。愛すべき人と出会った時、あたしが守ってあげられるくらいには強くなりたいわね」


 愛すべき人。

 結婚するのか? 俺以外の奴と。


 その相手は是非とも俺であってほしいものだ。

 その場合、願わくば俺はエリーゼに守られるのではなく守る側になっていたい。


「エリーゼは、確か剣術を扱えるのよね。

 ルドルフ、教えてあげたら?」

「もちろん、エリーゼが望むなら喜んで教えるさ。

 俺は『剣帝』という二つ名を持っていて、世界で二番目にすごい……」

「またそうやって自分語りを始めるじゃない」

「すみません……」


 隙自語ってやつか。

 俺もその昔はよくやっていたものだ。

 ゲームは上手い方だったから、いつも自分の実力を誇示していた記憶がある。

 嫌われる要因はそこにもあったのかもしれない。

 まあ、もうあの世界に戻ることは無いから気にしないが。


 その後二時間にわたって、エリーゼの歓迎会は続いた。


---


「これが、ベルのお部屋?」

「狭くてすみません」

「このくらいがいいわ。

 だだっ広い空間はあんまり好きじゃないから」


 皮肉だろうか。

 いや、エリーゼの場合は本音の可能性が高いか。

 王宮を「堅苦しい」と言っていたくらいだからな。


 でも、ベッドの柔らかさには自信があるぞ。


「わっ! 柔らかいわねっ!」

「そうでしょう」

「でも、一人で寝るにはちょっと大きすぎないかしら」

「きっと僕が成長したあとのことも考えてのサイズなんでしょう」


 自分の体よりもずっと大きいベッドだと、寝返りを打つのが楽しくなる。


 ちなみに、エリーゼの部屋はない。

 今日からこの部屋は、俺とエリーゼの共用スペースになる。


 今はまだいいが、大きくなったらどうするつもりなのだろうか。

 いや、別にいやらしい意味とかじゃなく。

 ただでさえかなり凶暴なツンデレお嬢様のエリーゼなんだから、

 思春期になったらスーパーウルトラ凶暴になりそうだ。


 まあ、その辺はおいおい考えればいいか。

 生きてりゃ何とかなる。

 殺されないといいけど。


「なんでしたら、是非エリーゼ様はベッドで寝てください。

 僕は床に布団でも敷いて――」


「いいわ。ベルと一緒に寝るから」

「一緒にって、それは……」

「べっ、別に変な意味はないわよ!

 ただ、その……このベッドで寝たくて」

「このベッドで寝たいなら、僕は居なくてもいいじゃないですか」

「やだ! とにかくベルも一緒なの!」


 あまり意味は分からないが、嬉しいからいいや。

 仰向けになって布団を被るエリーゼの横に寝転がり、目を閉じる。


「……ねえ、べル。お願い、聞いてくれるかしら」

「ええ、何でもお申し付けください」


 ドンと来い。

 何かあったなら、泥船に乗ったつもりで俺を頼るといい。

 一定確率でいい方向へ導くことができる。

 ソシャゲの星5排出率ぐらいだと思ってくれ。

 神引きした時の脳汁はたまらないぞ。


「今から二つ、お願いをするわ」

「はい」

「一つ。あたしに読み書きを教えなさい」


 あ、なんだ。

 そんなことか。

 人に教えるなんて経験はないから心配だな。

 ちゃんと教えられる確率は本当に星5排出率くらいかもしれない。


「読み書き? 出来ないんですか?」

「か、簡単なのなら出来るわよ!」

「でも、エリーゼ様は王女様ですよね。

 小さな頃から、そういう基本的なことは叩き込まれるんじゃないんですか」

「あたし、勉強は嫌いなのよ。

 だから、読み書きのお勉強の時間には決まって仮病を使って休んでいたわ」


 けしからんな、サボりとは。

 しかも仮病常習犯ときた。

 サボるならもっと堂々とサボらないと。


「……それで、教えてくれるの? くれないの?

 どっちなのよ」

「エリーゼ様。

 お願いする時はちゃんと『お願いします』と言わないと、相手は望みを聞き入れてくれませんよ」

「うぐっ……お、お願い……します」


 そんなに力むことかよ。

 人にお願いするのも恥ずかしくてまともに出来ないと。

 ツンデレなんてレベルじゃねえぞ、こりゃ。


「よろしい。読み書きを教えることを約束しましょう。

 それで、二つ目のお願いは?」

「……二つ目は、ね」


 エリーゼは頬を赤くして俺に背を向ける。


「…………い」


「え? なんですか?

 こっちを見て言ってくれないと、なんて言ってるのかわからないですよ」


「ベルにも『エリーゼ』って呼ばれたいわ!」

「……はい?」

「ルドルフさんもロトアさんも、まだ初めて話して何時間かしか経ってないのにあたしのことを名前で呼び捨てにしてるわ。

 それなのにベルは、まだあたしのことを『エリーゼ様』って呼んでるじゃない!

 もうあたしたち、出会って半年よ?」

「そ、それは……僕よりも圧倒的に身分が高い相手だからですよ」


 普通、小さな少女でもそれが王女ならば様をつけて敬語で話すものだ。

 そうでもしなきゃ殺されてしまう国だって、この世界には存在するはずだし。


「あたしが『ベル』って呼び捨てにしてるのに、ベルはあたしのことを『エリーゼ様』って呼んでるじゃない。

 それって不公平だわ!

 あたしたちはもう友達同士なんだし、身分なんて関係ないわよ」

「……」


 それもそうか。


 ……エリーゼは、俺に名前で呼ばれたいのだ。


 やばい、一気に可愛く見えてきた。

 元々可愛いけど、余計に可愛く見えてきた。


 わざわざ「名前で呼ばれたい」だなんて。

 俺じゃなきゃ死んじゃってるね。


「分かりました。

 ですが、敬語はしばらく抜けきらないかもしれないです。

 こっちで慣れちゃってるので」

「……ほんと?あたしのこと、ちゃんと名前で呼んでくれる?」

「はい、もちろんです」

「~っ!」


 バッと俺の方を見て目を輝かせた後、正気を取り戻したのか、「はっ!」と言って再びバッとそっぽを向いてしまった。


「も、もう寝るわ! おやすみっ!」

「は、はい。おやすみなさい」


 なぜかプンスカプンになってしまった。なんで?

 まあ、普段あんなでもこんな感じで可愛いところもあるってことだ。

 エリーゼがこの家に住むということは、四六時中この子と一緒に居ることになるだろう。

 この子についてまだ知らないことも沢山あるし、これから知っていけたらいいな。


 なんて、クサいことを言ってみたり。


 隣が静かになった途端、睡魔が襲ってきた。


「……おやすみなさい、エリーゼ」


 横目でエリーゼを見てそう呟き、俺もゆっくりと目を閉じた。


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