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プロローグ「神のお告げ」

 21歳、職業不詳。

 いや、包み隠す必要もないか。

 無職です。


 コンビニ帰りにカツアゲに遭い、警官に助けられて帰宅した。

 殴られた頬が、ズキズキと疼くように痛む。


 ――俺の人生は、中学の時から狂った。


 好きだった幼馴染を、クズ男から守ろうとした。

 でも誰も信じてくれなかった。

 それどころか、俺が悪者にされた。


 あの時、俺は正しいことをした。

 それだけは、今でも確信している。


 でも、結果はこのザマだ。


 もう一度、やり直せたらな――。


 ベッドに倒れ込み、俺は眠りについた。


---


 翌朝。


 ああ、今日も一日が始まってしまった。

 今日はナニをしよう。なんつって。


 なんだか、今日はやけに体が軽い。

 色んな重圧に押しつぶされそうだったから、毎日体が重くて仕方がなかったのにな。

 昨日の夜中、チンピラに殴られたことで、邪念が飛んで行ったのかもしれない。

 痛かったが、少しくらいは感謝をしてもいいかもしれない。


 さて、このまま横になっていては二度寝をしてしまう。

 二度寝常習犯の俺だが、たまには一発で起きてやろう。

 体を起こしてしまえば、眠気は飛ぶ。


 ……ん?

 体を起こせない。

 とんでもない圧力がかかっているかのように、体を動かすことができない。


 心地の良い風。少々強すぎる気はするが。

 真っ青な空。

 まばゆい太陽。

 こんなに明るくては、二度寝なんてできないじゃないか。はっはっは。


「ぎゃぁぁぁ――!」

(訳:いやいやいや! おかしいだろ!)


 やってる場合か!

 なんだ、この状況は!

 部屋のベッドで眠りについて、朝起きたら青空が広がっているなんてことあるわけないだろ。


 それに、なんだこれ。

 全然、呂律が回らないじゃないか。


 そしてこの風の強さと、異常なまでに強く体にかかる圧力。

 俺は恐る恐る首を動かし、眼球を横に動かす。

 建物も街灯も、何もない。

 見渡す限り、空、空、空。


 これって、まさか――


「だや! あーーう!」

(訳:ここ、空!?)


 ど、どうする。

 置かれている状況的に、ここは上空で間違いなさそうだ。

 なんとか少しずつ身をひねってうつ伏せになることに成功したが、成功したところでどうする。

 

 いったい誰がこんなことを信じることができようか。いや、できない。


 これはきっと夢だ。

 目をこすれば目が覚めて、いつものとっ散らかった部屋に戻るに違いない。

 俺はゆっくりと自分の目をこすってみる。


 ……なんか、手、小っちゃくね?


「あー! うああああ!」

(訳:なんじゃこりゃああああ!)


 まるで赤ん坊のように小さな手。

 むちっとしていてかわいらしい。

 なんて言ってる場合ではない。

 何一つ状況が理解できないが、一旦整理しよう。


 俺は昨晩、確かに自室のベッドで寝た。

 そして目が覚めると、目の目には綺麗な青空。

 体は赤ん坊のように小さくなり、言葉を話すこともできない。


 整理しても全く理解できない!


 どうする。

 どうすればいいんだ。

 これは悪い夢なのか?

 夢にしては、少々感覚がリアルすぎる。


 力を入れて、なんとか体を下に向けることができた。


「――」


 もう、地面が見えてきている。

 ……これ、詰みじゃないか。


 いや、まだ諦めちゃいけない。

 とにかく、なんとかしなければならない。

 そうはいっても、赤ん坊と化した俺の体ではどうすることもできない。

 ……本当の俺の体でも、何も出来ねえか。


 ――これはきっと、神のお告げなんだろう。


 まともに仕事を探そうともせず、堕落した生活を送っている俺に対しての、一種の「罰」。

 学生時代のことに関しては俺は悪くないと思っているが、

 高校を卒業してからの自分の生活は、今振り返ってみてもひどいものだ。

 毎日食っては寝ての繰り返しで、母の手伝いなんてここ数年全くしてこなかった。

 そんな人間が突然世に放たれても生きていけるわけがないと思っていたから、俺は仕事を探そうとしなかった。

 

 俺は、とんでもない親不孝者である。

 そんな俺を見ていられず、神様は俺をこうして殺すってわけだ。


 いいさ。

 ちょうど俺も死にたいと思っていたところだし。

 世界が滅びずに俺だけ死ねるなら、本望だ。


 死ぬのが怖いと思っていたが、直前になるとそうでもないんだな。

 しかも、こんなに高い空から落とすことで、人生を懺悔する時間までくれるなんて。

 神様はいい人だな。


 あの時見て見ぬふりをしていれば、俺はこんなにも怠惰な生活を送ることはなかったかもしれない。

 きっとみんなと同じように卒業して、大学に進学して、普通に仕事に就いて。

 人並みに、幸せを感じることができたかもしれない。


 でも、俺は間違った選択をしたとは思っていない。

 幼馴染はあのままあいつの手に堕ちて、人生が無茶苦茶になっていたに違いない。

 俺があの時彼女を守るために動いたことで、彼女らはその一週間後に破局した。

 幼馴染とその周りの全員からの好感度や信頼をすべて失った代わりに、俺は大切な幼馴染の人生を守り抜いたのだ。


 きっと今頃は、素敵な旦那さんを見つけて、幸せな人生を歩んでいることだろう。

 その相手が俺だったら、どんなによかったか。

 

 俺なら、幸せにできたのに。

 彼女の笑顔は、俺の脳裏に焼き付いている。

 笑うとちょっとえくぼができるとことか、好きだったな。


 彼女が幸せなら、それでいい。

 そう思ってるはずなのに。


 ――なんでこんなに、悔しいんだろうか。


 ああ、やり直したい。

 一度だけでいい。

 もう一回だけ、チャンスがほしい。


 恐らく、俺は死ぬだろう。

 死んだら、もう一度同じ人間として、俺として生まれたい。

 そして、同じ人生を歩まないように本気で生きたい。


 神様。

 どうか、どうか――――――。

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