あさつゆ
あさつゆを、宝石に変えることができる魔女がいた。
うすぼんやりとかすみがかった朝の早い時間に、森の中をさんぽして、つゆをいくつものせた野いちごの葉をそっとつまむ。そして魔女は、家から持ってきた月の粉や星の粉をそっと葉にふりかけて、きらきらとかがやく一番美しい時のあさつゆを、永遠にそのままでいられるように固めるのだ。
銀の粉をまぶしたつゆが固まり、ころんと魔女の手のひらに落ちてくるまでは、子守歌を一つ歌うほどの時間しかかからない。そしていくつもの透明な宝石を袋に入れて、魔女はまたのんびりとさんぽをするのだった。
魔女のその日課を知っているのは、カラスだけだった。カラスは、きらきらとかがやくものが大好きだ。だから、魔女があさつゆを宝石に変えてしまうさまを、いつもみんなでうっとりと見物していた。
魔女は時々、その宝石をカラスにあげることもあった。だがたいていは、自分だけの宝箱にとっておいて、星も月もない夜に眺めて楽しむばかりだった。
ところが、カラスの他にも、魔女の秘密を知る者があらわれた。それは、一人の少女である。
少女が朝、森にやってきたのは、全くたまたまだった。少女の家はとても貧しく、父親に、森できのこや、野いちごや、たきぎにする小枝をとってこいと命じられたのだった。
少女が野いちごや、食べられるきのこを探していると、魔女のやさしい声が聞こえた。こっそりと木々の間からうかがうと、黒い服を着た魔女が、カラスと話しているところだった。それから魔女は、いつものように葉にたまった美しいあさつゆに星の粉をかけて、宝石にした。
少女はとても感心して、ため息をもらした。その音を魔女が聞きつけ、大声を上げた。
「そこで盗み見しているのはだれ?」
少女は逃げようとしたが、カアカアとさわぐカラスに邪魔されて、とうとう魔女に捕まってしまった。
「お前は、私のすることを、見ていたの?」
魔女は、秘密を盗んだ少女を口のきけない動物にでもしてやるつもりで、問いつめた。
「ええ、見ていました。あさつゆを、宝石に変えるところを。とても美しかった」
少女は、うっとりと答えた。魔女は腹を立てる反面、うれしかった。カラスの他に、魔女のすることをほめてくれる者はいなかったのだ。
「ほんとうに、美しかった?」
魔女は何度もたずね、そのたびに少女はうなずいた。
魔女は家に少女をつれていき、キノコのオムレツと野いちごの朝ごはんをふるまった。そして、まん丸なあさつゆを一つ、少女に渡した。
「これを、お前にあげよう。大切にするんだよ」
「ええ、ええ、大切にします。誰にも見せないわ」
少女はそう誓い、宝石を受け取った。
それ以来、少女はよく森にやってくるようになった。ある時には魔女が食事をふるまい、またある時は少女が、安い材料で作れるお菓子を持っていった。はじめは警戒していたカラスも、しだいに彼女になついていった。魔女と少女はいろいろな話をした。あさつゆや、星や月の話に限らず、ほんとうにいろいろな話を。
少女は、はじめにもらった一粒の宝石を、大事にしまいこんでいた。そして、自分一人だけの時に取り出して、うっとりとながめるのだった。
けれど、とうとう、父親に宝石がみつかってしまった。父親はさっそく宝石を売り飛ばし、もっと宝石を持ってくるようにと娘に言った。娘がいやがると、殴りつけた。そこで、少女はしぶしぶ森へ足を運んだ。
少女が、友達である魔女に、泣きながらそのことを打ち明けると、魔女はためていた宝石をそっくりやった。
宝石がつまった袋を持ち、とぼとぼと家に帰ると、待ちかまえていた父親は大喜びした。そして、ふさぎこむ娘にかまうことなく、袋をもって宝石商の店へ駆け込んだ。
父親が袋の中身を、店のテーブルにあけると、かがやく宝石のつぶがたくさん転がり出た。そして、感心する商人たちの前で……宝石は、ただの水になり、テーブルをぬらした。
商人と父親は怒り狂い、魔女の住む森を燃やそうと大勢で押しかけた。けれどその頃にはもう、魔女はカラスたちにのって森を脱出した後だった。
遠くへ行く前に、魔女は少女の家に寄った。そして、泣いていた少女もカラスにのせて、出発した。
魔女と少女がそれからどこで、何をしたのかは、誰も知らない。けれど、きっとどこかで二人一緒に、何か美しいことをしているのだろう。




