5話
夏の午後、蝉の声が響く中で三人は合宿所に着いた。顧問の先生は「自由にやりなさい」と鍵を渡し、去っていった。人数が少ないから、合宿といっても三人だけの時間だ。
「合宿って響きは立派だけど、修学旅行みたいだね」美咲が笑う。
「でも3×3は瞬発力勝負。短時間集中で練習すれば効率的だ」健斗がすぐに理屈を持ち出す。
「効率って言うなら、休憩の取り方を最適化すべきだろ」翔真が割り込む。
三人は顔を見合わせ、同時に笑った。
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夕方。三人で夕食を作ることになった。
「玉ねぎ切ると涙が出るのは化学反応だ」健斗が包丁を持ちながら言う。
「でも涙の量は人によって違う。統計的に」翔真が返す。
「理屈より、焦げないようにしてよ」美咲がフライパンを振る。
出来上がった料理は少し焦げていたけれど、三人で食べると不思議と美味しかった。
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夜。外に出ると、満天の星空が広がっていた。
「星座って、古代人が勝手に線を引いただけなんだ」健斗が空を見上げる。
「でも同じ星を見て同じ形を思いつく人は多い」翔真が続ける。
美咲は少しだけ笑って、「……きれいだね」と短く言った。
しばらく黙って星を眺めたあと、翔真がぽつりと口を開く。
「次の試合、勝率を上げたいな」
「そのためには走り込みだな」健斗が応じる。
美咲は何も言わず、二人の声を聞きながら空を見上げていた。
――
就寝時間。男女はもちろん別々の部屋に分かれる。
男子部屋では、健斗と翔真がまだ雑学トリビアを続けていた。
「世界で一番長生きした人は122歳だって」健斗。
「平均寿命は右肩上がりだ。統計的に」翔真。
「……もう寝ろよ」健斗が笑いながら枕を投げる。
一方、美咲は女子部屋でひとり静かに日記を書いていた。
窓の外には星空が広がり、合宿所の夜は静かに更けていった。
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夏合宿は、練習よりも笑いと雑学に満ちていた。
三人の距離は一気に縮まり、バスケ部というより家族のような空気が生まれていた。
その夜の星空は、三人の青春を静かに照らしていた。




