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トリニティ  作者: 双鶴


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2/12

2話

春の午後。練習を終えた三人は、まだ汗の残る体で部室に戻ってきた。小さな部室に椅子を引く音が響き、すぐに三人の声が満ちていく。


「今日のシュート、放物線が完璧だったんだよ」

健斗が満足げに言う。


「いや、確率的に見れば成功率はまだ五割程度だな」

翔真がすかさず返す。


「また始まった……」

美咲は笑いながらタオルで汗を拭き、二人のやり取りを聞いている。彼女は口を挟まず、ただ楽しそうに見守っている。


「角度と初速を計算すれば理論上は百発百中なんだ」

健斗が真顔で言う。


「でも実際は誤差がある。人間の動きは確率変数だ」

翔真が譲らない。


「……なんか、桶狭間の奇襲みたいだな」

健斗がふと歴史ネタを混ぜる。


「確率的に言えば、信長の勝率は低かったはずだ」

翔真も乗る。


美咲はタオルを置いて、少しだけ微笑んだ。

「でも信長は布陣を工夫して勝ったの。だから今日の私たちも悪くなかったと思うわ」


二人は「おお、やっぱり詳しい!」と笑い、美咲はまた黙って聞き役に戻る。


――


その後も会話は止まらない。

健斗が「電車の加速度を解析すれば、次の駅までの到着時間が予測できる」と言えば、翔真が「時刻表は数列みたいだ」と応じる。

美咲はただ「へえ、面白いね」と笑って聞いている。歴史ネタが出ない限り、彼女は普通の女子大生として会話を受け止める。


三人の声は、まるで授業の延長のように響く。けれどそこには堅苦しさはなく、ただ青春の軽やかさがあった。


――


「ねえ、次の練習メニューどうする?」

美咲が問いかける。


「物理的に角度を極める」健斗。

「確率的にパスを最適化する」翔真。


美咲は笑って肩をすくめる。

「私は普通にシュート練習でいいと思うけど」


三人は顔を見合わせ、笑い声を上げた。


部室の窓から差し込む夕陽が、彼らの笑顔を照らしていた。


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