12話
大会前夜。
健斗は机に置いたボールをじっと見つめていた。手のひらに吸い付く感触を確かめるように何度も回し、指先に力を込める。ボールの表面に刻まれた細かな傷が、これまでの練習の証のように見えた。
「明日は……絶対決める」
声はかすれていたが、胸の奥から湧き上がる熱は隠せなかった。悔しさと期待が入り混じり、眠気は遠くに追いやられていた。窓の外に広がる夜の街の灯りが、まるで挑戦を見守る観客のように瞬いていた。
翔真はノートを広げ、戦術の図を走り書きしては消す。ペン先が紙を擦る音が、静かな部屋に響く。
「冷静に、でも攻める。数字じゃなくても、勝ち筋はある」
彼の目は真剣で、普段の冷静さの奥に焦りと高揚が見え隠れしていた。ページをめくる手が震えるのは、緊張の証だった。ノートの余白には、無意識に「勝利」という文字が何度も書き込まれていた。
美咲はユニフォームを膝の上に広げ、指先で布の感触を確かめていた。
「楽しもう。緊張よりも、笑顔で」
小さく呟きながら窓の外を見上げる。夜空に瞬く星が、まるで自分たちを見守っているように感じられた。胸の奥に灯る小さな光は、不安を押しのける勇気に変わっていった。彼女の心臓は早鐘のように鳴っていたが、その鼓動は恐怖ではなく期待のリズムだった。
――
翌朝。会場の体育館に入ると、観客のざわめきとボールの弾む音が波のように押し寄せてきた。照明がコートを照らし、木の床が光を反射する。汗の匂いと期待の空気が混じり合い、胸が高鳴る。
「緊張するな……」健斗が深呼吸する。声は震えていたが、目はまっすぐ前を見ていた。
「でも、ここまで来た」翔真が静かに言う。言葉は短いが、仲間への信頼が込められていた。
「うん、三人なら大丈夫」美咲が頷いた。笑顔は少し強張っていたが、その瞳には確かな光が宿っていた。
三人は互いに視線を合わせ、自然と手を重ねた。
「行こう!」健斗が叫ぶ。
「俺たちの全てを出す」翔真が続ける。
「楽しもう!」美咲が笑った。
観客の歓声が一段と大きくなり、体育館の空気が震える。声援は波のように押し寄せ、三人の背中を押した。照明がさらに眩しく輝き、コートの中央が舞台のように浮かび上がる。
笛の音が鳴り、試合開始の合図が響いた――。
その瞬間、三人の心はひとつになり、未来へと走り出した。観客の熱狂と自分たちの鼓動が重なり合い、青春の輝きは最高潮に達した。




