10話
合同練習試合から数日後。夕暮れの校舎裏で、美咲は助っ人に来てくれたバスケ部員に呼び止められた。
「美咲さん、試合のときの姿、すごく格好よかった。……好きです」
突然の告白に、胸が強く跳ねた。視線を逸らそうとしても頬が熱くなる。
「えっ……そんな、急に……」
初めて受けた告白に戸惑い、すぐには答えられなかった。
「ごめん、少し考えさせて」そう言って保留にした。
――
その噂はすぐに広まった。体育館に入ると、健斗と翔真の様子がどこかおかしい。
「美咲が告白されたって?」健斗が眉をひそめる。
「……聞いた。なんか落ち着かない」翔真も珍しく言葉を濁す。
練習が始まると、二人はぎこちなくなった。パスはずれる、シュートは外れる。
「おい、タイミング合わねえぞ!」健斗が苛立つ。
「……連携が乱れてる」翔真が短く言う。
その姿を見て、美咲はなぜか安堵した。二人が焦っていることが、逆に自分を落ち着かせた。
「二人とも、落ち着いて。私は今、バスケと歴史に集中したいの」
言葉をはっきり告げると、健斗は肩をすくめ、翔真は小さく笑った。
「そっか。なら安心だ」健斗。
「俺たちのチームはまだ続く」翔真。
――
その夜。二人から居酒屋に誘われた。暖簾をくぐると、香ばしい匂いとざわめきに包まれる。
「残念会だ!」健斗がジョッキを掲げる。
「残念会って……私は振られてないんだけど!」美咲が拗ねる。
「まあまあ、こういう場も必要だろ」健斗が笑う。
「こうして笑う時間の価値は計り知れない」翔真が珍しく柔らかい声を出す。
枝豆の皿を囲みながら、三人は次々と雑学を応酬した。
「枝豆って、未成熟の大豆なんだぜ」健斗。
「ビールの泡は炭酸ガスの溶解度の問題だ」翔真。
「二人とも、居酒屋でまで理屈っぽい!」美咲が笑う。
笑い声が響き、拗ねた気持ちも消えていった。
「残念会」という名の飲み会は、いつの間にか「結束会」に変わっていた。
三人の絆は、またひとつ強くなった。




