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第88話 シュレア姫が認められる為に②

「ふふふ……なんと強壮茸だぞ!エリクサーの素材のひとつだ!これ1つで平民なら家が立つレベルの値段がするものだぞ!」

 予定以上の収穫に皆が満足げな顔になる。


「そろそろお昼にしませんか?マッド宮廷伯。僕、お腹が空いちゃいました。」

「おお、もうそんな時間か。夢中になってすっかり空腹を忘れておったわい。」


 今日はピクニックも兼ねているので、山の上でお昼ごはんを食べる予定だ。開けた草原に出ると、そこに、いつの間にか集まって来たのか、王宮の騎士団たちが手早くシートなどを広げ、昼食の準備を始めた。


 本来であれば侍女の仕事だが、最低限の人数での随行の為、騎士団がすべてを兼ねている。日頃訓練で野営をしている為、この程度は手慣れたものだった。


「……きれい。」

 シュレア姫がぽつりと呟いた。野花が一面に咲き乱れ、遠くの峰々が青く霞んでいる。


 柔らかな風が吹き抜ける中、みんなで楽しくお弁当を食べ始めた。マジックバッグがある為、温かなスープでも、コース料理でも、なんでも持ってこれたが、あえてシルヴィオの提案で、サンドイッチとスープとデザートの果物での昼食だ。


 この世界では、お弁当を食べる習慣がないらしい。ピクニックの習慣はあるが、侍女をともない、地面にテーブルと椅子を置いて、優雅にコース料理を食べるものだそうだ。


 だが、前世の記憶のあるシルヴィオとしては、家族でのグランピングならまだしも、子どもたちで行くピクニックで、そんな大げさなことはしたくなかった。


 広げたシートの上で、みんなでお弁当。これぞピクニックの醍醐味だと思っていた。

 とはいえ、王宮の料理人が作ったサンドイッチなので、当然豪華な食材が使われていたし、味もとても美味しいものだった。


 前世でひとつ千円近くするサンドイッチを横目に眺めて、ああいうのを買う人は凄いなあ、と思っていたシルヴィオだったが、これは確実にひとつ三千円以上はしそうだな、とせせこましいことを考えていた。


 お弁当を食べ終えると、シルヴィオはピクニックシートの周囲に広がる、細い茎の先に丸い小花をつける花々を見て、子どもの頃に教わった花冠が作れないかな?と考えた。


 プチプチと根本近くから花を手折ると、うろ覚えで花冠と、花の指輪を作ると、シュレア姫に差し出した。


「どうぞ、シュレア姫。」

「え……私に、ですか?」

 そう言って、頭に冠を乗せられ、花の指輪をつけてもらったシュレア姫は、ほんのりと頬を染めた。


「おお、シルヴィオ殿下は器用だのう。」

「シュレアさま、とっても似合ってますわ。」

「シルヴィオ、僕にも作り方を教えてくれないかい?」


「いいですよ、兄さま。」

 シルヴィオの手ほどきで、全員が花冠と花の指輪を作り出す。


「カロリーナ、僕の花冠と指輪を受け取ってくれるかい?」

「嬉しいですわ、ラヴェール殿下。わたくしのも受け取ってくださいませ。」


「シルヴィオ殿下。……私の花冠と指輪を受け取ってくださいますか?」

「僕にですか?ありがとうございます。」

「おお、みなとても似合っておるぞ。」


 孫たちの愛らしい姿に、目を細めるマッド宮廷伯。子どもたち全員に花冠と花の指輪が行き渡ったのに、シュレア姫はふと立ち上がり、ゆっくりとその場にしゃがみ込み、摘んだ花を手に取り始めた。


「シュレア姫?」

 シルヴィオが不思議そうに声をかけると、彼女は少し照れたように微笑んだ。

「マッド宮廷伯に花冠を……作ろうかと。」


 それを見た子どもたち全員が顔を見合わせると、一斉に花を摘み始めた。

 マッド宮廷伯に、花冠、首からかけられる花のネックレス、両手の指輪、花の腕輪、と、全員がマッド宮廷伯に花で作った贈り物をプレゼントした。


「ほっほっほ。こんなに嬉しいプレゼントははじめてだわい。」

 嬉しそうに笑うマッド宮廷伯。全身が花まみれで、花に埋もれそうなほどだ。


 やがて、疲れて皆がシートの上に寝転がった。シュレア姫も、恐る恐るシートの上に仰向けになる。少し冷たい土の感触が、シート越しに伝わる。


 頬を撫でる風の匂い、遠くで鳴く鳥の声。暖かな日差し。すべてが、初めて触れる優しさのように感じられた。


 シュレア姫は両手を広げ、空を見上げて真上に伸ばした。雲がゆっくり流れていく。それを掴もうとするかのように。


「……楽しい。」

 ほんの小さな、けれど確かに心からの呟きだった。今までのシュレア姫にとって、笑顔は仮面でしかなかった。


 言葉は三つしか許されず、痛みは日常で、求めた愛は遠い夢だった。それでも今、ここで初めての自由を味わっている。


 誰かに傷つけられることなく、ただただ、生きている喜びを味わっている。涙が一筋、シュレア姫の頰を伝った。でもそれは悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。


 シルヴィオがシュレア姫の左隣で、そっと彼女の手を握る。シュレア姫の右隣では、カロリーナが静かに微笑み、シュレア姫を見つめていた。


 カロリーナの隣で、ラヴェール王子がうとうとしながらついに寝息を立てて、マッド宮廷伯が楽しげに奇妙な鼻歌を歌っている。


 シュレア姫は、もう一度空を見上げて、静かに、けれどはっきりと微笑んだ。本当の、初めての、心からの笑顔だった。



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