第82話 魔王にも同情された聖女
「僕たちと一緒に行動出来るかは、王妃さま次第だけど……。お願いしてみるつもりではいるよ。」
ラヴェール王子がそう言ってくれたので、シルヴィオはなんとか王妃さまがとりなしてくれるよう、祈った。
王宮で従事する為には、国王または王妃の許可が必要だ。一般的な従者であれば、紹介状を持参し、各部署の担当大臣なりが許可を出し、最終的な許可を国王または王妃が出す仕組みらしい。
だが、シュレア姫は仮にも人質の扱いだ。大臣たちでは裁定出来ず、その判断は国王または王妃に委ねられる。駄目だと言われてしまってはそれまでだ。
デイリーミッションが達成出来ない場合、ここまで積み上げてきたシルヴィオのパッシブスキルなども、いちからにリセットされてしまう。
だが、ラヴェール王子が礼拝堂を出て行き、程なくしてラヴェール王子の従者、ゼーが、シュレア姫の研究室入りと、ラヴェール王子たちとの共同研究に参加を検討してくれることになった、と伝えてきたのだった。
「検討と言うけれど、王妃さまが検討するというのは、ほぼ決まりということだよ。書類を準備させて、印章を押したら手続きが完了する。良かったよ、ほんとに。と、ラヴェール王子が申しておりました。」
とゼーが言う。
【デイリーミッションクリア。
シュレア姫を王宮で従事させよ。
報酬:ジョゼマリアの正体。
彼女の正体は、悪魔の呪いで封印され、年を取ることも許されず、少年の姿で生き続ける、過去の伝説となった、“魔王にも同情された聖女マリアジョゼ”の現在の姿です。
魔王の封印前、まだ魔族となれず魔物の姿であった時、その魔力を宿した長い体毛に触れることが可能だったことから、聖女にまつりあげられ、体毛を触媒としたい魔塔に利用されてきた少女です。
身につけた宝具で、一時的に元の姿を取り戻すことが、1日に1度可能ですが、基本は少年の姿で生活しています。彼女は家族も友人も死に絶えた中で、悠久の時を生きています。
彼女の呪いを完全にとくことが出来れば、魔王の力をおさえることが出来、“魔王の器”として利用されることを防ぐ手助けとなるでしょう。ただし現時点で完全に封印をとくすべはわかっていません。】
ジョゼマリアが、伝説の聖女……?
無表情にこちらを見ているゼーを、シルヴィオはじっと見つめた。
彼女を救うことが、シルヴィオ自身の助けになるようだ。だがその方法がわからないのであれば、今のところシルヴィオに出来ることはない。
失礼致します、とお辞儀をして部屋を出ていくゼーを、ただ見送るしか出来なかった。
家族も友人も死に絶えた中で、たった1人で生き続けるというのはどんな気持ちなのだろうか。想像も出来なかった。
『彼女はなぜ、王家の影として働いているのですか?』
【王家の影は能力のある独り身の人間が身を隠すには、都合のいい組織です。能力さえあれば、過去は詮索されません。
犯罪集団でもそれは可能ですが、弱みを握ろうとする人間が多い為、危険が伴います。それを避ける為、王家の影に所属する道を好んだようです。
王家の影の中には長命種の種族もいる為、彼女はハーフエルフだと自身の身分を偽っているようです。
ハーフエルフの中には耳が尖っていないタイプもいる為、見た目では判断がつきませんので、違和感を持たれていないようです。】
『なるほど……。』
少年の姿で生き続けるのは、少女のままで生きるよりは生きやすいだろうが、やはり危険が伴うのだろう。
あれだけの美貌だ。奴隷などもいるというこの世界では、さらわれる可能性もある。王家の影として、王宮という最も安全な場所で働くことが、彼女にとって最善なのだろう。
実際ゼーは優秀らしく、王太子候補であるラヴェール王子の秘書候補として、専属侍従に従事することになった程だ。王子の隣室を与えられてもいる。
シルヴィオを王太子として押す派閥が生まれ、ラヴェール王子の暗殺を狙う人間が現れない限りは、王太子最有力候補であるラヴェール王子のそばが、オークランド王国では国王と王妃についで、最も安全だと言える。
シルヴィオの今後の立ち位置は、その派閥を生まない為に、傀儡にして操れそうだと思われる程には愚かではなく、かと言ってラヴェール王子を追い抜く程の手柄を立てないよう、立ち回ることが重要と言えた。
今後シュレア姫と共に、マッド宮廷伯の研究室で魔道具の研究が出来るようになったら、その手柄はシュレア姫とラヴェール王子、そしてカロリーナ嬢に6〜7割程度譲れるよう誘導しつつ、マッド宮廷伯にもいい含めておかなくちゃな、と思うのだった。
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