第81話 ジョゼマリアの正体
「シュレア姫は幼少期にオークランド王国にいらっしゃいましたから、自国で鑑定を受けていないのではと思い至った次第です。」
「そう……だとして、どうして急にスキルの判定をしようと思ったのかしら?」
「それは……。」
ラヴェール王子はゴクリと唾を飲み込む。
「シュレア姫は、温室の世話以外で外に出ることもなく、世話に来る侍女以外、話し相手もいないと伺いました。」
シルヴィオが話を交代する。
「そうね……。」
「ですが、このたびシュレア姫はこの国にとどまることが決まって、永久にストルツォ王国に戻れないことになりましたよね?」
「そうね。あちらが害をなしたから。」
「でしたら国の役に立つスキルがないか確認し、もしもあれば役割を与えることも必要ではないかと思いました。彼女はもうオークランド王国の人間ですから。」
「それが2人の考えなのね?」
「「はい。」」
ラヴェール王子とシルヴィオが、同時にそう言ってうなずく。
「……そうね。いずれお返しする予定の姫君だったけれど、はからずも我が国に根をおろすことになったのだもの。行動が制限されるのは私にもどうしようもないけれど、王宮の敷地内で出来ることがあれば、それをさせるのはやぶさかではないわ。」
「ひょっとして、シュレア姫に王宮の温室の世話をお願いしたのは、母上なのですか?」
ラヴェール王子が、王妃さま、と呼ばずに久しぶりに母上、と呼んだ。
「ええ、そうよ。彼女が育てるのが最適だったから、ストルツォ王国から世話係を雇わずに、やらせてみてはどうかと提案したの。」
王妃さまが微笑む。
「その為に、シュレア姫の国の植物を、温室に入れられたのですか?」
とシルヴィオは尋ねた。
「……それがせめてもの、幼い姫の慰めにもなるでしょうからね……。」
そう言って王妃さまは紅茶を飲んだ。
そういうことなら、有用なスキルがあった場合、シュレア姫をその仕事につける後押しをしてくれそうだ、と思った。
「明日にでも受けられるように手配をしておくわ。あなたたちも同席出来るようにしたほうがいいかしら?」
「そうですね、気になりますので。」
「はい、よろしくお願いします。」
ラヴェール王子とシルヴィオの言葉に、王妃さまはうんうんとうなずいた。
翌朝、ラヴェール王子が興奮気味にシルヴィオの部屋を訪れた。シルヴィオはまだベッドの上で着替えてすらいなかった。
「シルヴィオ、礼拝堂で儀式を執り行うことになった。僕らも同席を許可されたよ。今日は授業も取りやめらしい。一緒に行こう。」
すると、
【デイリーミッション。
シュレア姫を王宮で従事させよ。
報酬:ジョゼマリアの正体。】
と、デイリーさんの声と文字が現れた。デイリーさんは、ジョゼマリアの性別だけでなく、何か彼女自身に秘密があることを知らせたいらしい。
「わかりました。すぐに準備しますね。」
シルヴィオは頷き、シーラたちに手助けされながら、ラヴェール王子と共に王宮の礼拝堂へと向かった。
礼拝堂は王宮の一角にあり、柔らかな光がステンドグラスから差し込んでいて、小さな石膏像のような物が置かれていた。
シュレア姫は今まで着ていたものとは異なる、美しいドレスを纏っている。ラヴェール王子の頼んだ仕立て屋が作ったのかも知れないな、とシルヴィオは思った。
ラヴェール王子に促されて、礼拝堂に置かれたベンチのような長椅子に腰掛ける。
「どうぞ、こちらへ。」
そう言われて、緊張した面持ちで祭司の前に指を組んで跪くシュレア姫。
祭司は手に経典が書かれた書物を広げ、聖杯に水を注ぎながら祈りを捧げる。
「……スキルの鑑定って、あんな風にやるんですね?」
「いや、この国の洗礼を受けたことがないから、洗礼からやることにしたみたいだよ。」
「改宗させるってことですか?」
「いいや、洗礼を受けた人間にしか神の祝福は訪れないってことで、洗礼を行った祭司しかスキルを告げることが出来ないんだよ。シュレア姫の国とうちの国の宗教は同じな筈だよ。」
「なるほど。」
祭司が聖杯に満たした水に人差し指と中指をつけ、シュレア姫の額に、スッと一本の筋を引いた。
「洗礼は終わりました。これから神があなたに授けた祝福を教えてくれます。」
そう言って、祭司は水晶を覗き込む。
やがて淡い光が水晶を包んだ。光が収まると、祭司の声が響いた。
「汝のスキルは上級錬金術師、上級道具職人、宝導手師の3つです。」
「これは凄いな……!ひょっとしたらだけど、マッド宮廷伯の元で働き、王国に貢献することが出来るんじゃないか?マッド宮廷伯の研究室は王宮の敷地内にあるし、早速王妃さまを通じて打診してみよう!」
「本当ですか?兄さま。これでシュレア姫が大手を振って外出出来るようになりますね!一緒に研究出来るでしょうか?」
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