第79話 シュレア姫とのお茶会
【そこは私が決めることでも考えることでもありません。私は可能性のひとつを提示しているに過ぎませんので。】
という返答だった。
だが、上級錬金術師と、上級道具職人のスキルがあれば、マッド宮廷伯の助手になれるかも知れないとシルヴィオは思った。
「もういいですよ。よく頑張りましたね。」
「ありがとう……ございます……!」
そう言って服を整えだしたシュレア姫は、こちらを見ていたシルヴィオと、バッチリ目があってしまった。
「あ……その、ごめんなさい……!気になっちゃって……!」
「平気ですよ。シーラさんを連れて来てくださってありがとうございます。」
シルヴィオがまだ3歳だからか、シュレア姫はそう言ってクスクスと笑った。
「お手伝い致します。」
そう言って、シーラがシュレア姫の着替えを手伝い、シルヴィオは再び背を向けた。
「もうよろしいですよ。」
そう言われて、シルヴィオとラヴェール王子は振り返った。
「シルヴィオ、肌を見せている女性を見てしまったのか?駄目じゃないか。」
そう言ってラヴェール王子が兄らしく、シルヴィオを叱責する。
「ごめんなさい……。」
「いいんです。気になりますよね。」
とシュレア姫が言ってくれる。
「シーラ、シュレア姫はもうだいじょうぶなの?」
「はい、刻印は完全に消えましたので。」
「もう痛くありませんわ。」
シュレア姫もそう言った。
「良かった……。」
「改めて、お茶にしませんか?ラヴェール王子とも、ゆっくりお話がしたいです。」
「喜んで。」
「シーラ、準備を手伝ってよ。」
「かしこまりました。」
シルヴィオの言葉でシーラがお茶の準備をして、テーブルの上にバラバラの茶器が並べられた。
「……揃いのカップがないのですか?」
ラヴェール王子もそれが気になったようだった。
「はい、お客さまがここに来ることはありませんので……。」
シュレア姫が寂しそうにそう言う。
「では、今度はティーセットをプレゼントさせていただきましょう。」
「よいのですか?ラヴェール王子には、先日もドレスをいただいたばかりですわ。」
「これからも、シルヴィオと共に、こちらには来る予定ですから。お邪魔させていただくのですから、手土産は当たり前のことです。」
貴族の家に招かれた際は、必ず手土産を持参するものだと教わったが、子ども同士の場合は、婚約者でもない限り、通常は何かを持参する必要はない。
単にマナーにのっとることで、客人をもてなす用意も出来ないシュレア姫に、王侯貴族の女性として、最低限の扱いをしてやりたいのだろうなと、シルヴィオは思った。
そして実際、ラヴェール王子は手土産として、茶菓子と茶葉を持参していた。そういうことに思い至らなかったシルヴィオは素直に謝罪をしたが、解呪の為の準備をいただけたのが一番の手土産ですわ、とシュレア姫は言ってくれた。
ラヴェール王子の持参した茶菓子を食べながら、シュレア姫のスキルについて話題を振ってみることにする。
まずはシュレア姫がこの国に来た年齢を確認しようと思った。洗礼前であれば、シュレア姫もシュレア姫の国も、彼女のスキルを知る手立てはないから、自然と洗礼の話に持っていけるだろう。
「シュレア姫はいつ頃我が国にいらしたのですか?」
「確かわたくしが4歳の頃ですわ。その頃側妃の子の中で最年長のわたくしが選ばれたのを記憶しています。」
つまりは第一王女ではあるが、側妃の子どもであったから選ばれたというわけだ。
恐らくストルツォ王国では、王位継承順が、側妃の子の場合低いのであろう。
「ストルツォ王国では、洗礼は何歳の頃になるのでしょうか?」
「洗礼、ですか?ええと……確か生まれてすぐの筈ですわ。」
「では、生まれてすぐに、教会でスキルを鑑定されたのですか?シュレア姫のスキルを教えていただいても?」
「鑑定、ですか?さあ……。わたくしのスキルについては、特に母からも教わった記憶はございませんわ。」
ストルツォ王国では、洗礼とスキル鑑定は同時に行われないものらしい。だからこそ、こんなにも有用なスキルを持っているシュレア姫を、側妃の子だからと人質にしてしまえるのだろう。
そうでなければ、すべてが上級のスキル持ちであるシュレア姫を、それも魔道具の開発に有用なスキル持ちを、放出する意味がわからない。
カロリーナだって、有用な魔道具を開発したことで国内での立場が向上したし、何よりカロリーナに手伝ってもらって開発した魔道具は、諸外国からの注文が殺到し、生産が追いつかない程なのだ。
シュレア姫が有用な魔道具をひとつ開発するだけで、政略結婚にお釣りが来るくらいの国益を、もたらす可能性はじゅうぶんにあると言える。
「それはよくないな。客人とはいえ、今後も我が国に住まうのだから、我が国の国民と言って差し支えない。スキルの判定を受けるのは、国民の義務であり権利だ。」
ラヴェール王子が難しそうな表情を浮かべてそう言った。
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